著者
村上 てるみ 石垣 景子 佐藤 孝俊 梶野 幸子 齊藤 崇 大澤 真木子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.E36-E41, 2013-01-31

福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は大脳形成異常、精神遅滞を特徴とする先天性筋ジストロフィーで、責任遺伝子はα-ジストログリカンの糖鎖付加に関与するFKTN遺伝子である。,私たちは以前、FCMD患者がウイルス感染による発熱性疾患罹患後に、高クレアチンキナーゼ(CK)血症や尿中ミオグロビン高値を伴い、時に呼吸不全から死に至る急激な筋力低下の増悪を呈することを報告した。これまでの報告では、発症時期や原因ウイルス、好発年齢の考察は行ったが、治療法については十分な検討がなされていなかった。今回、1971年1月から2012年7月までに東京女子医科大学小児科に発熱性疾患で受診したFCMD患者245名のうち、急激な筋力低下増悪を呈した23名を対象に、筋力低下増悪時の治療について検討した。23名のうちステロイドを投与された患者は12名であり、投与しなかった患者は11名であった。ステロイド投与群、非投与群共に、罹患前の運動機能レベルまで回復したが、回復までにかかる期間に統計学的有意差を認めた。今回の検討でステロイド投与により筋力回復までの期間が短縮されることが示唆された。FCMD患者において、高頻度にウイルス感染後の筋力低下増悪を生じる機序は不明だが、急激な筋力低下増悪による呼吸不全から死に至る例もあり、保護者や医療者は認識する必要があると考える。
著者
児玉 ひとみ 竹宮 孝子 斎藤 加代子 大澤 真木子 岡本 高宏
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.2989-2994, 2011 (Released:2012-07-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

近年,外科を選択する女性医師が増えつつある.女性外科医が妊娠・出産を望む時期と専門医取得を目指す時期はほぼ重なっている.育児と両立しながら臨床経験を積む為には,多くの問題を解決しなければならない.東京女子医科大学は日本で唯一の女子のみで構成された医科大学であり,女性医師を支援するシステムが多く存在する.今後全国的にこれら支援システムがたちあがり,ワークライフバランスの概念が浸透してゆけば,女性外科医は出産後も母親であると当時に一外科医として社会に貢献し続けることができる.
著者
平澤 恭子 篁 倫子 竹下 暁子 吉川 陽子 大澤 真木子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.E137-E143, 2013-01-31

新生児医療はめざましい進歩を遂げ障害児の発生も減少傾向にある一方で軽度発達障害などの患児が多いのではないかとされている。,そこで我々は当院出生の極低出生体重児の6歳時の発達について詳細な検討を行い、どのような支援が適切なのかについて検討した。対象は2002 年4月から2006年3月までに東京女子医科大学母子総合センターNICUにて出生した6歳児であり、健診の方法は ハイリスク児フォローアップ研究会のプロトコールに基づき神経学的診察,Wechsler Intelligence Scale for Children-Third Edition(WISCIII)を使った知能検査を行い、それらについて検討した。,Soft neurological sign を認める児が多く、またWISCIIIによる知能指数(IQ)は出生時在胎週数や体重と正の相関を示し、超早産児や超低出生体重児では注意深い観察が必要であると思われた。またIQの軽度低下や言語性知能指数(VIQ)/動作性知能指数(PIQ)のアンバランスや群指数間のばらつきなどを認め、これらの児では行動面の問題も抱える傾向を認めた。視覚的な情報の処理が苦手である傾向もあり、このような児への指導にはこの点に留意する必要が示唆された。 またこの6歳時点ですでに注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)の特性を示している児もおり、治療介入の必要性も考慮された。極低出生体重児のフォローアップでは軽度発達障害を念頭に置きより長期に詳細に経過をみるとともにそれらの児への支援が必要である。
著者
児玉 ひとみ 竹宮 孝子 竹内 千仙 加藤 郁子 村越 薫 大久保 由美子 斎藤 加代子 大澤 真木子 岡本 高宏 小原 孝男
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.65-68, 2010-03-25
被引用文献数
1

多くの医師(特に女性医師)にとって仕事と育児の両立は難しい。そのため、乳幼児を対象とした保育所の整備や保育支援が進められてきた。しかし、小学校低学年の学童児を対象とした保育(学童保育)については選択肢が極めて少なく、女性医師の離職や職場変更につながることも少なくなかった。そこで、女子医大では、平成19年3月に同学50歳以下の医師1069人と医学部学生500人を対象に学童保育設置の必要性に関するアンケート調査を行った。調査には、医師315人、学生56人が回答し(回収率各29.5%、11.2%)、「学内に学童保育施設があれば、すぐに利用したい」31人(全て医師)、「今後利用するかもしれない」135人(医師111人、学生24人)、「利用はしないがあった方がよいと思う」205人(医師173人、学生32人)であった。学童保育の利用を検討した医師は、早朝、夜間、土・日曜日を含む長時間保育を希望していることがわかった。この結果は、医師に対する学童保育支援の必要性を強く示した。学生に対しては、育児と仕事の両立、学童保育の必要性など将来的な問題提起の機会になった。
著者
中野 和俊 野田 尚子 立川 恵美子 浦野 真理 高澤 みゆき 中山 智博 佐々木 香織 大澤 真木子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.64-69, 2005-04

我々は13例の自閉症患者でビタミンB_<12>(メチルコバラミン:Me-B_<12>)の治療効果をオープン試験で試みた.Me-B_<12>の治療開始時期は2歳3ヵ月から18歳で,Me-B_<12>を25〜30μg/kg/day,6〜25ヵ月間投与した.IQ/DQによる評価では,治療前は45±5.3(平均±標準誤差)であったが,治療後は52±6.0と有意な上昇が認められた(p=0.0199).CARS検査(小児自閉症評定尺度)では,治療前は35.9±1.6であったが,治療後は33.0±1.7(p=0.0008)と改善した.自然経過による改善とMe-B_<12>効果を鑑別するため,患者を年齢,知能でそれぞれ2群に分類し検討したところ,思春期群と低IQ群のCARSスコアーが,幼児・早期学童期群,高IQ群と同様に改善した.自閉症児において思春期は一般に症状改善に乏しく,症状の自然改善は高機能自閉症児に見られることから,この結果は, Me-B_<12>効果は自然経過とは異なると考えられた.検討はまだ予備的段階であるが,自閉症においてMe-B_<12>は治療薬として試みる価値があると考えられた.
著者
大澤 真木子 近藤 恵里 鈴木 暢子 平山 義人 原田 淳子 鈴木 典子 斎藤 加代子 福山 幸夫 石原 傳幸
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.95-109, 1996-03-25

先天性筋ジストロフィー(CMD)という語は,生下時または生後数ヵ月以内に筋力低下を示し,筋生検ではジストロフィー変化を示す乳児に対し広く用いられてきた.本邦では知能障害を伴う福山型CMDが知られ症例も多い.欧米例は,一般に知能障害は伴わず,筋症状だけを示すと考えられてきた.Nogenが知能は正常であるがCT上白質の瀰漫性の低吸収域を呈するCMD例を報告し,続いて同様の症例が報告され,知能障害は伴わないが中枢神経系に異常のあるCMDの存在が注目を浴びるようになった.1994年にこれらと臨床像が一致する例でメロシンの欠損が認められ,遺伝子座は6q2に存在することが判明した.我々は,生下時より著明な筋力低下を呈し,知能正常,瀰漫性白質低吸収域を呈するCMD例を経験し1981年CMDII型として報告した.さらに,知能正常,生後まもなく筋力低下を示し,筋生検ではジストロフィー変化を呈する同様な例を3例経験した.いずれも生後3ヵ月以前に発症し,定頚が7ヵ月以降と遅れていた.しかしながら,1例を除き坐位保持は1歳未満で獲得しており,いざり這いも可能となった.仮性肥大を認めず,顔筋罹患は軽度に止まり,年長時には顔が細長く見える.1例は, 22歳まで経過観察したが,4歳時および19歳時の頭部CTではいずれも瀰漫性白質低吸収域を認め,両所見に差は認めなかった.最高運動機能はいざり這いで,2歳6ヵ月より11歳まで可能であった.同様の本邦報告例は散見されるが,16年間という長期経過を観察可能であった例は他になく,本邦および欧米例の文献展望を加え,本症の位置付け,分類上の今後の問題点などを検討報告した.
著者
猪子 香代 西園 文 大澤 真木子 石井 かやの
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

子どもの抑うつは、学校の友人関係が、中学生年代では関係があると考えられる。また、「いじめ・いじめられ尺度」を作成し、また、家族、友人などとの関係における喪失・不安・怒りを引き起こすような「抑うつ誘因エピソード尺度」を作成した。#いじめ・いじめられいじめと自殺の関連が、マスコミで話題になり、一般の中学校においても、関心の高いところとなった。心理の暴力について、加害者、被害者、それに暴露された子ども、いずれも援助の対象と考える。今回は、これらの3つの側面からの質問紙を作成し、一般の中学生の生徒を対象に抑うつとの関連を検討した。共分散構造分析において、「いじめられ」の潜在因子は抑うつに関連があった。しかし、「いじめ」体験のこどもは「いじめられ」「いじめの目撃」体験と関連がある。「いじの目撃」体験のある子どもは「いじめられ」に関連がある。#抑うつについては、生活の中の出来事について、それをどのように認知するかということで、感情や情動に違いがみられるといわれている。抑うつの誘因になると考えられるエピソード尺度を作成し、一般中学校を対象に抑うつとの関連をみたところ、友人関係の不安、家族の言い争いが抑うつとの関連がみられた。いじめの問題も含めて、子どもたちの友人関係への不安への対処をどのようにするかということが重要と考えられる。子ども自身の特性を理解できるとともに、それぞれの子どもに対応したマニュアルを作成している。
著者
山本 智子 廣井 敦子 柴田 亮行 大澤 真木子 小林 槇雄
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.E25-E36, 2011-03-31

福山型先天性筋ジストロフィー (FCMD) は、筋肉の他、中枢神経系や眼の形成異常を伴う筋ジストロフィーで、常染色体劣性遺伝を示す。原因遺伝子fukutinの遺伝子産物は、基底膜形成に関与するα-dystroglycan (α-DG) の糖鎖修飾に関与する。α-DGは豊富な糖鎖を有する糖蛋白で、基底膜/細胞膜部分において細胞内外の蛋白をlinkする複合体、dystrophin-glycoprotein complex (DGC)、の構成成分のひとつである。糖鎖部分が種々の基底膜構成蛋白の受容体となっている。FCMDの中枢神経病変は、小多脳回に代表され、グリア境界膜でのα-DGの糖鎖修飾低下を伴う。グリア境界膜は、astrocyteの足突起により形成されるため、FCMDの中枢神経病変形成には、astrocyteが大きく関与していると考えられる。Fukutinは、さらに、未熟な神経細胞の遊走を促進している可能性があり、また、成熟神経細胞においては、シナプス機能と関連している可能性も考えられる。Fukutinは、ほとんど全ての組織に発現しているが、astrocyte, 神経細胞以外の中枢神経構成成分や、他の諸臓器における役割は、ほとんど解明されていない。また、ゴルジ装置や小胞体以外に、核への局在も示唆され、α-DGの糖鎖修飾以外の機能を有している可能性もある。今後、遺伝子治療等の先端医療が開発されていくと思われるが、より副作用の少ない、効果的な治療のためには、FCMDの病態やfukutinの機能に関する基礎的な検討が不可欠と考えられる。