著者
近喰 ふじ子 塚本 尚子 安藤 哲也 吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1171-1185, 2010-12-01
被引用文献数
1

筆者は,ここ数年,子どもが身体症状を訴えて母親とともに小児科外来を受診した際,子どもの症状を心配するよりも夫婦関係を重視した情報を聞かされ,家族関係が変化したことを母親の言葉から間接的に知らされた.すなわち,夫婦関係の親密性が想定された.そこで,今回,「夫婦親密度尺度」を作成した.本尺度は4因子の構造からなり,親関係項目からは「依存型夫婦」「安定型夫婦」「不満型夫婦」「尊重型夫婦」の31項目が,子ども関係項目からは「子ども重視型夫婦」「子ども干渉型夫婦」「子ども否定型夫婦」「子ども不信型夫婦」の25項目が抽出され,信頼性と妥当性が確認された.すなわち,従来使用されていた「家族機能測定尺度」との相関関係から,従来の家族機能とは異なる新しい家族機能へと変化し,子どもの混乱が生じやすいことが推察された.
著者
西原 智恵 菊地 裕絵 安藤 哲也 岩永 知秋 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.264-271, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
7

食物アレルギーは多様な症状をきたしうるが, 心理的要因や併存しうる身体表現性障害を考慮した診療が行われなければ, 症状が遷延し重篤となりうる. 今回, 食物アレルギーと身体表現性障害を併存し, 身体的介入のみを受けたため多彩な症状が遷延し, 高度な生活障害に至った症例を経験した. 心身医学的介入が症状の改善に有効であったため報告する. 症例 : 40代, 女性. 2年前よりさまざまな食品を摂取した後に発疹, 腹部膨満, 四肢脱力, 情緒不安定などの症状が出現するようになった. 複数の医療機関で食物アレルギーが疑われ, 穀物・果物全般の除去を指導されたが症状は持続. 精査を希望しアレルギー科を受診した際, 四肢脱力をきたし緊急入院となった. 評価では, 食物アレルギー症状以外の症状を説明できる器質的異常を認めず, 身体表現性障害の合併が疑われた. 入院下の行動制限, 外来での情動への対処や自己主張の指導により, 身体表現性障害症状は改善し, 食物アレルギー症状も自制内となった.
著者
安藤 哲也 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-56, 2009-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
31

摂食障害への罹患しやすさには遺伝的要因が大きく関与している.これまで候補遺伝子法による相関解析ではセロトニン2A受容体遺伝子,セロトニントランスポーター遺伝子,脳由来神経栄養因子遺伝子多型と神経性食欲不振症との関連が,メタアナリシスで示された.罹患同胞対連鎖解析では第1,第2,第13染色体上に神経性食欲不振症との連鎖が,第10染色体上に神経性過食症と連鎖する領域が報告された.グレリンは主に胃から産生され,成長ホルモンの分泌を刺激し摂食と体重増加を促進するペプチドである.筆者らはグレリン遺伝子多型およびハプロタイプが神経性過食症に関連すること,同じ多型が若年女性の体重や体格指数,体脂肪量,腹囲,皮脂厚などの身体計測値,「やせ願望」と「身体への不満」という心理因子,空腹時の血中グレリン濃度と関連することを示した.さらにグレリン遺伝子多型が制限型のANの病型変化のしやすさにも関連していた.マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析により,神経細胞接着関連分子遺伝子領域(11q22)と脳関連遺伝子クラスター(1p41)領域で感受性SNPが検出された.近年,生活習慣病,多因子疾患の疾患関連遺伝子の同定に成果を上げているゲノム全体を網羅するSNPマーカーを用いたゲノムワイド相関解析の実施を摂食障害においても目指すべきである.摂食障害に関する臨床研究,疫学研究での評価項目に遺伝子解析を入れておくことが,発見された摂食障害関連遺伝子の意義を決めるのに重要である.
著者
安藤 哲也 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-56, 2009
参考文献数
31
被引用文献数
1

摂食障害への罹患しやすさには遺伝的要因が大きく関与している.これまで候補遺伝子法による相関解析ではセロトニン2A受容体遺伝子,セロトニントランスポーター遺伝子,脳由来神経栄養因子遺伝子多型と神経性食欲不振症との関連が,メタアナリシスで示された.罹患同胞対連鎖解析では第1,第2,第13染色体上に神経性食欲不振症との連鎖が,第10染色体上に神経性過食症と連鎖する領域が報告された.グレリンは主に胃から産生され,成長ホルモンの分泌を刺激し摂食と体重増加を促進するペプチドである.筆者らはグレリン遺伝子多型およびハプロタイプが神経性過食症に関連すること,同じ多型が若年女性の体重や体格指数,体脂肪量,腹囲,皮脂厚などの身体計測値,「やせ願望」と「身体への不満」という心理因子,空腹時の血中グレリン濃度と関連することを示した.さらにグレリン遺伝子多型が制限型のANの病型変化のしやすさにも関連していた.マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析により,神経細胞接着関連分子遺伝子領域(11q22)と脳関連遺伝子クラスター(1p41)領域で感受性SNPが検出された.近年,生活習慣病,多因子疾患の疾患関連遺伝子の同定に成果を上げているゲノム全体を網羅するSNPマーカーを用いたゲノムワイド相関解析の実施を摂食障害においても目指すべきである.摂食障害に関する臨床研究,疫学研究での評価項目に遺伝子解析を入れておくことが,発見された摂食障害関連遺伝子の意義を決めるのに重要である.
著者
河西 ひとみ 船場 美佐子 富田 吉敏 藤井 靖 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.488-497, 2018 (Released:2018-09-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

過敏性腸症候群 (IBS) と自己診断して医療機関を受療する患者の中には, 腸管ガスに困難感をもつ一群が存在する. 本稿では腸管ガスに関連する症状を主訴とする多様な病態の診断と鑑別について述べた後, それらの病態をIBS・機能性腹部膨満を中心とした機能性消化管障害・呑気症・自己臭症のカテゴリに整理し, 治療についてまとめた. 中でも治療に難渋することが多い自己臭症は, 同様の病態がolfactory reference syndrome (ORS) として海外でも報告されている. 筆者らが自己臭症について国内外の治療法の効果研究報告を調査したところ, 現時点でRCTを含む比較研究は存在しなかった. そこで, システマティック・レビューと症例報告を紹介した. それらの文献では, 薬物療法では抗うつ薬を有効とする報告が, 心理療法では行動的介入の有効性の報告が多かった. 行動的介入の有効性の報告からは, わが国で自己臭症患者に適用されてきた森田療法や, 第三世代の認知行動療法のacceptance and commitment therapy (ACT) と治療構成要素の共通性が見出される. 腸管ガスに関連する症状には, 多様な病態が関与しうる. 病態理解と効果的な治療のために, さらなる研究とエビデンスの蓄積が期待される.
著者
倉 尚樹 岡 孝和 安藤 哲也 石川 俊男 久保 千春 吾郷 晋浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.297-303, 2004-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18

症例は21歳女性,37℃台の微熱が主訴であった.諸検査で発熱の原因となる身体的疾患を認めなかったこと,心理的ストレス状況下で症状が出現・増悪したこと,慢性疲労症候群の診断基準を満たさないことから心因性発熱と診断した.治療としてtandospirone 60mg/dayの投与と自律訓練法などの心身医学的治療を併用したところ,体温は徐々に正常化した.serotonin(5-HT)作動性の抗不安薬であるtandospironeは,5-HT_<1A>受容体を刺激し,5-HT_<2A>受容体の密度を低下させることで抗不安・抗うつ作用を示すといわれている.これらの5-HT受容体に対する作用は,体温を低下させる方向にも作用すると推測され,tandospironeは心因性発熱の治療薬の1つとして有用である可能性が考えられた.
著者
船場 美佐子 河西 ひとみ 藤井 靖 富田 吉敏 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.330-334, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
24

難治性の過敏性腸症候群 (IBS) に対する心理療法の1つとして, コクラン・レビューでは認知行動療法 (CBT) の有効性が示されている. 本稿では, 近年日本で臨床研究が実施されている, IBSに対する 「内部感覚曝露を用いた認知行動療法 (CBT-IE)」 とその構成要素, CBT-IEの臨床研究の動向を紹介する.
著者
安藤 哲也 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.265-272, 2007-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Familial aggregation and twin studies have suggested that genetic factors play a significant role in susceptibility to eating disorders such as anorexia nervosa (AN) and bulimia nervosa(BN). A sib-pair linkage study suggested a linkage region for restricting AN in chromosome 1 and that for BN in chromosome 10. Candidate-gene association studies indicated associations of SLC6A4, HTR2A and BDNF genes with AN in multiple studies. We found that ghrelin precursor gene SNPs and their haplotype were associated with purging type BN. In addition, the same gene SNPs were significantly associated with increased body weight, body mass index, fat mass, waist circumference, thickness of skinfolds, elevated fasting acylated ghrelin concentration, decreased HDL-cholesterol concentration and elevated scores in the Drive for Thinness-Body Dissatisfaction in non-clinical young female. A genome-wide association study using microsatellite markers is in progress in Japan. Studying susceptibility genes for eating disorders are expected to lead preventions and development of new treatments.
著者
富田 吉敏 菊地 裕絵 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.849-855, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
6

大学受験は重要なライフイベントだが受験ストレスにより不調を訴える受験生は多い. 筆者は4年間で当科を受診した大学受験生を10例経験した. 現役高校生が9例で, そのうち7例が女性であった. 半数が頭痛を訴え, 8例が検査上で不安を認めた.治療前, 受験終了で症状は軽快すること, 受験ストレスで症状を生じた自身の特徴を把握することが将来的に重要であることを筆者は説明. その後, 受容・傾聴の姿勢で, つらい事柄を吐露させるベンチレーションをコーピングとした対応をとり, ほとんどが受験終了とともに軽快した. 受験ストレスによって心身へ影響がでる機序こそが心身相関であり, その理解を促す心身医学的治療は, 現状を受け止め, 症状の悪化を防止し, 目標を達成する一助を果たしている. 本報告は心身が消耗した予備校生たちを “受験生症候群” とした報告のように, 大学受験で心身が不調となり心療内科を受診した受験生の特徴と治療経過をまとめたものである.
著者
大場 眞理子 安藤 哲也 宮崎 隆穂 川村 則行 濱田 孝 大野 貴子 龍田 直子 苅部 正巳 近喰 ふじ子 吾郷 晋浩 小牧 元 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.315-324, 2002-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3

家族環境からみた摂食障害の危険因子について調べるために,「先行体験」「患者からみた親の養育態度」について,患者からよく聞かれるキーワードを用いて質問表を作成し,健常対照群と比較検討した.その結果,「母親に甘えられずさびしい」がどの病型でも危険因子として抽出された.また患者群全体で「父親との接点が乏しい」も抽出され父親の役割との関連性も見直す必要性があると思われた.さらにANbpとBNにおいては,「両親間の不和」「両親の別居・離婚」といった先行体験の項目も抽出され,"むちゃ食い"が家庭内のストレス状況に対する対処行動としての意味合いをもつのではないかと考えられた.
著者
安藤 哲也 宮本 恵理子
出版者
日経BP社 ; 2002-
雑誌
日経ビジネスassocie (ISSN:13472844)
巻号頁・発行日
vol.16, no.7, pp.28-30, 2017-06

早くから長時間労働削減や生産性向上を目指す組織づくりを提言してきたNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也さんの元には、現在、全国の企業や自治体から「働き方改革」のノウハウを求める依頼が集中しているという。自身もまた、多忙な業…
著者
小牧 元 岡 晃 安藤 哲也 猪子 英俊
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

摂食障害、特に神経性食欲不振症(AN)は遺伝性が強いにもかかわらず、いまだにその原因遺伝子が同定されていない。そこで、ANの家族症例を対象に全エクソンをシークエンシングするエクソーム解析を実施し、その原因遺伝子の同定を試みた。その結果、家族内の罹患者に共有するアミノ酸置換を伴う複数の変異が見出され、その中でも特に神経伝達物質のレセプターをコードするこの遺伝子上に、神経性食欲不振症の原因変異が蓄積されている可能性が示唆された。さらにこの変異はこのタンパクの相互作用に影響を及ぼすことが推定された。今後はこの遺伝子ファミリーに限定した、さらなる変異の追及と、機能的な解析が必要であると考えられる。
著者
大場 眞理子 安藤 哲也 宮崎 隆穂 川村 則行 濱田 孝 大野 貴子 龍田 直子 苅部 正巳 近喰 ふじ子 吾郷 晋浩 小牧 元 石川 俊男
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.315-324, 2002-05-01
被引用文献数
5

家族環境からみた摂食障害の危険因子について調べるために,「先行体験」「患者からみた親の養育態度」について,患者からよく聞かれるキーワードを用いて質問表を作成し,健常対照群と比較検討した.その結果,「母親に甘えられずさびしい」がどの病型でも危険因子として抽出された.また患者群全体で「父親との接点が乏しい」も抽出され父親の役割との関連性も見直す必要性があると思われた.さらにANbpとBNにおいては,「両親間の不和」「両親の別居・離婚」といった先行体験の項目も抽出され,"むちゃ食い"が家庭内のストレス状況に対する対処行動としての意味合いをもつのではないかと考えられた.