著者
河西 ひとみ 辻内 琢也 藤井 靖 野村 忍
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.59-68, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
14

本研究は, 過敏性腸症候群 (IBS) の軽快・治癒プロセスを明らかにすることを目的とし, 主観的に軽快・治癒に至った7名のIBS患者にインタビューを行った. 分析には質的研究法の複線径路等至性モデル (Trajectory Equifinality Model : TEM) を使用した. 結果, プロセスは3型に分けられ, すべての型が 「IBS症状の発現」 から 「とらわれ」, 次に 「対処行動」 と 「IBS症状の一部軽快」 に至るまでは同じ径路をたどったが, 以降の径路は 「環境調整」 と 「心理的葛藤に直面」 に分岐した. 分岐後は, いずれの径路を選択した型も, サポート資源を受け取ることによって, すべての型において 「受容的諦め」, 「人生観の変化」, 「IBS体験への肯定的意味づけ」 という認知的変容体験を経て, 主観的な軽快・治癒に至った. また, 7例中3例において, 他者からの受容・共感と, 変化への圧力の相補的な働きがプロセスを推し進めた可能性が示唆された.
著者
藤井 靖浩
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.5-18, 1997 (Released:2007-03-29)
参考文献数
40
被引用文献数
4 4

関東平野北西部にすむコモリグモ類の日周期活動と生活場所における種間の相違を落し穴トラップで調べた. オオアシコモリグモ属の種 (ウヅキ, イナダハリゲ, クサチハリゲ) はいずれも昼間にだけ捕獲された. また, ナミは昼間に, イモは夜間にやや多く捕獲された. しかしフジイ, クラーク, チビ, コガタ, ヒノマルの捕獲頻度は昼夜ともほぼ同様であった. コモリグモ類の生活場所は3つの環境要素の質や段階, すなわち, 底質 (B, むきだしの土壊; L, 生きた植物体; D, 死んだ植物体), 光の条件 (s,日向; d, 日陰), 水の条件 (0, 雨水のみ; 1, 止水; 2, 流水) の組み合わせで分類された. どの種も3っ以上の生活場所に出現し, ウヅキはBs0, クサチハリゲとアライトはLs0, クラークはLs1, イナダハリゲ, イモ, ナミはLs2, チビとコガタはDs0, エビチャとヒノマルはDs1, フジイはDd0で, それぞれの最高頻度を示したが, 生きた植物の上層部ではまれだった. 調査区内にすむ他の7種 (スジブト, カガリビ, クロコ, ハラクロ, キクヅキ, キシベ, キバラ) は低密度ないし低移動性のため, ほとんどないしまったく捕獲されなかった. 日周期性や生活場所に関するこれらの傾向において, ステージや性による相違は不明瞭であった.
著者
池田 結佳 松岡 久美子 須田 美香 太根 ゆさ 平松 純子 山内 まどか 薄井 聡子 森本 尚子 藤井 靖史
出版者
公益社団法人 日本視能訓練士協会
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.135-145, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
33

【目的】読み書きに困難を抱える児童を対象に、視覚関連基礎スキルアセスメント(WAVES)を用いて視覚認知機能を評価し、支援への活用を検討すること。【対象および方法】対象は2020年3月から2021年6月の帝京大学病院小児科LD外来受診者のうち、WAVESと見る力に関するチェックリストを実施した30名(男児25名・女児5名、年齢9.8±2.1歳)。WAVESを行い下位検査評価点と4つの指数を算出した。【結果】下位検査評価点の平均値の多くが標準値より低かったが、線なぞりの合格点と比率、形なぞりの比率は標準値より高かった。4つの指数では、視知覚+目と手の協応指数(VPECI)と視知覚指数(VPI)が標準値より低く、VPIが最も低かった。目と手の協応全般指数(ECGI)と目と手の協応正確性指数(ECAI)は標準値より高かった。【考按】視知覚指数(VPI)は読み書き困難を持つ児童では低く、過去の報告と同様の傾向を示した。眼科検査、言語検査、心理検査と合わせてWAVESを活用することで苦手の背景にある児童の特性を推測し、読み書き指導に有用な情報を与える可能性がある。
著者
河西 ひとみ 船場 美佐子 富田 吉敏 藤井 靖 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.488-497, 2018 (Released:2018-09-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

過敏性腸症候群 (IBS) と自己診断して医療機関を受療する患者の中には, 腸管ガスに困難感をもつ一群が存在する. 本稿では腸管ガスに関連する症状を主訴とする多様な病態の診断と鑑別について述べた後, それらの病態をIBS・機能性腹部膨満を中心とした機能性消化管障害・呑気症・自己臭症のカテゴリに整理し, 治療についてまとめた. 中でも治療に難渋することが多い自己臭症は, 同様の病態がolfactory reference syndrome (ORS) として海外でも報告されている. 筆者らが自己臭症について国内外の治療法の効果研究報告を調査したところ, 現時点でRCTを含む比較研究は存在しなかった. そこで, システマティック・レビューと症例報告を紹介した. それらの文献では, 薬物療法では抗うつ薬を有効とする報告が, 心理療法では行動的介入の有効性の報告が多かった. 行動的介入の有効性の報告からは, わが国で自己臭症患者に適用されてきた森田療法や, 第三世代の認知行動療法のacceptance and commitment therapy (ACT) と治療構成要素の共通性が見出される. 腸管ガスに関連する症状には, 多様な病態が関与しうる. 病態理解と効果的な治療のために, さらなる研究とエビデンスの蓄積が期待される.
著者
鴨井 正樹 清水 能人 河内 光男 藤井 靖久 菊池 武久 水川 士郎 吉岡 薄夫 木畑 正義 三橋 正和
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.153-158, 1972-07-25 (Released:2010-10-29)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

The metabolism of orally administered maltitol was investigated and compared with clinical study, especially in two groups, one which exhibited diabetic type and the other non-diabetic type (contained intermediate type) in 50g glucose tolerance test.The following results were obtained. The variation curves of blood sugar, immunoreactive insulin, and non-esterified fatty acids levels effected by 50g maltitol tolerance test in both groups had been extremely lower than those effected by 50g glucose tolerance test.So, it was considered that maltitol per se had been hardly absorbable through intestinal wall, clinically as so with animal study. In the case of concurrent administration of 50g maltitol and 50g glucose, the absorption of glucose was inhibited, resulting in a lower increase of blood sugar level than in the case of an individual administration of 50g glucose.
著者
船場 美佐子 河西 ひとみ 藤井 靖 富田 吉敏 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.330-334, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
24

難治性の過敏性腸症候群 (IBS) に対する心理療法の1つとして, コクラン・レビューでは認知行動療法 (CBT) の有効性が示されている. 本稿では, 近年日本で臨床研究が実施されている, IBSに対する 「内部感覚曝露を用いた認知行動療法 (CBT-IE)」 とその構成要素, CBT-IEの臨床研究の動向を紹介する.
著者
藤井 靖之 田中 成佳 ムーア デイビッド イハ カツノリ
出版者
日本LCA学会
雑誌
講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.164, 2011

地球温暖化問題に伴い、製品のライフサイクルを通じたCO2排出量が注目される反面、ほかの環境負荷の存在が見え難くなることが指摘されている。我々は、持続可能性評価指標のひとつであり、CO2排出量を含めた包括的な環境負荷の可視化が可能なエコロジカル・フットプリント指標を用い、企業活動が及ぼす環境負荷を評価した。その結果、CO2排出ばかりでなく、原材料の調達に必要な土地(耕作地、牧草地、森林地)への環境負荷も明らかになった。
著者
藤井 靖彦
出版者
Japan Society of Ion Exchange
雑誌
日本イオン交換学会誌 (ISSN:0915860X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.68-79, 2004-05-20 (Released:2010-03-18)
参考文献数
15

イオン交換は言うまでもなく, 優れた化学分離法であり, 同位体の分離までにも応用されうる。本論文は化学平衡において発生する同位体効果の原理から説き始め, イオン交換樹脂を用いた同位体分離への応用まで記述している。本研究では種々の条件下で実験をおこない同位体分離係数と理論段高さを実験から求めており, 特に15N濃縮系のHETPについて流速, 吸着帯移動速度依存性を詳しく調べた。分離係数を求める研究はより重い元素, 遷移金属元素, 希土類元素, アクチノイド元素等の同位体効果へ拡大してきた。錯形成の同位体効果よりも, 酸化還元をともなう系がより大きな同位体効果を示すことから, 今後とも化学交換反応は有効な同位体分離技術として発展する可能性がある。
著者
大越 実 鳥井 弘之 藤井 靖彦
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.421-433, 2007 (Released:2012-03-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

Siting of radioactive waste management facilities frequently raise arguments among stakeholders such as a municipal government and the residents. Risk communication is one of the useful methods of promoting mutual understanding on related risks among stakeholders. In Finland and Sweden, siting selection procedures of repositories for spent nuclear fuels have been carried out successfully with risk communication. The success reasons are analyzed based on the interviews with those who belong to the regulatory authorities and nuclear industries in both countries. Also, in this paper, risk communication among the Japan Radioisotope Association (JRIA), a local government and the general public, which was carried out during the establishment process of additional radioactive waste treatment facilities in Takizawa Village, Iwate Prefecture, is analyzed based on articles in newspapers and interviews with persons concerned. The analysis results showed that good risk communication was not carried out because of the lack of confidence on the JRIA, decision making rules, enough communication chances and econmic benefits. In order to make good use of these experiences for the future establishment of radioactive waste management facilities, the lessons learned from these cases are summarized and proposals for good risk communication (establishment of exploratory committee and technical support system for decision making, and measurements to increase familiarity of radioactive waste) are discussed.
著者
大越 実 鳥井 弘之 藤井 靖彦
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.393-403, 2007 (Released:2012-03-07)
参考文献数
29

Clearance is one of the useful concepts to manage large amounts of slightly contaminated solid radioactive materials generated from the decommissioning of nuclear facilities. Cleared materials are expected to be disposed of as conventional wastes or recycled to produce consumer goods. In Japan, the legal framework for clearance was established in 2005 by amending the Law to regulate nuclear materials, reactors and so on. However, it is not so clear whether the general public understands clearance well. In this paper, major concerns about clearance from the general public are analyzed based on the public comments for reports on clearance prepared by the Nuclear Safety Commission and the Nuclear Institute Safety Agency. The major anxieties for clearance expressed by the general public are the safety of clearance, unknown factors of radiation effects, possibilities of excess radiation exposure due to inadequate measurements of radioactivities and fairness in decision making. In order to deal with those anxieties, some countermeasures including the confidence in nuclear operators and regulatory authorities and controllability of clearance by the general public are discussed to promote the social acceptance of clearance by the general public.
著者
藤井 靖彦 鬼塚 初喜 野村 雅夫 冨安 博 岡本 眞實
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

昨年度の研究結果に基づき、本年度の主要な研究タ-ゲットを次のように設定した。1.ガドリニウムのイオン交換クロマトグラフィ-を行い、同位体分離係数を実測する。2.高速陰イオン交換樹脂を充填した、分離装置を使用してUー232,Uー233の濃縮挙動を解析し、他のウラン同位体と比較する。3.100℃以上での化学交換ウラン濃縮実験を行い、同位体分離係数の温度依存性を検討する。本年の研究結果は上記番号と対応し、次の通りである。1.EDTA、りんご酸を錯形成剤とするガドリニウムのイオン交換クロマトグラフィ-を行い、20m及び14mの長距離展開により、Gdー156,Gdー157,Gdー158のGdー160に対する同位体分離係数を決定した。EDTA系ではこの値が3.9×10^<-5>,4.0×10^<-5>,2.5×10^<-5>(上記同位体に対し)の値であった。2.U(IV)ーU(VI)交換陰イオン交換クロマトグラフィ-を90m/日の速度で約200m展開し、Uー232,Uー233,Uー234,Uー235の濃縮挙動を実験的に検討した。その結果、奇数のUー233はUー235と同じ方向の異常性示し、Uー232は他の偶数核種と同じ正常性を示した。この事から同位体効果の偶・奇数依存性が確認され、核スピンが関与することが明らかとなった。3.87℃と160℃でU(IV)ーU(VI)交換陰イオン交換クロマトグラフィ-を行い、同位体分離係数が温度に依存しない結果を得た。これも従来の理論を覆す事実である。
著者
雨宮 正樹 今江 理人 藤井 靖久 鈴山 智也 内藤 孝 浦川 順治 海老原 清一 照沼 信浩
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. C, 電子・情報・システム部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. C, A publication of Electronics, Information and System Society (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.644-650, 2010-04-01

A precise frequency dissemination system using optical fiber is studied. The purpose of the system is to transmit frequency standard with little deterioration to distant many users. It is composed of a phase compensation transmitter, bidirectional optical amplifiers, optical amplified distributor, and receiver. The system target is to achieve a stable transmission of hydrogen maser class signals. For short term stability, it is shown the required optical received power to realize the Allan deviation of 1×10<sup>-13</sup> (averaging time of 1 s). For long term stability, a new compensation method using third wavelength transmission is effective to suppress phase fluctuation induced by fiber temperature change. Experimental result shows stability of 8×10<sup>-17</sup> at 10<sup>5</sup> s in a fiber link of 160 km in total with one bidirectional optical amplifier.