著者
安藤 朗
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.1939-1946, 2015-11-05 (Released:2015-11-05)
参考文献数
26

ヒトは進化の段階で4つの門に属する細菌を選択し,腸内細菌として備えている.腸内細菌はヒトには備わっていない機能を通してヒトの生命維持に重要な役割をはたしている.われわれは,腸内細菌が食物繊維を分解して生じる短鎖脂肪酸(酢酸,プロピオン酸,酪酸)を利用してエネルギーホメオスタシスを維持している.一方,ヒトは腸内細菌と共生するために,複雑かつ巧妙に制御された免疫機構を発達させてきた.われわれのからだはヒトと細菌からなる超生命体と呼ばれるが,分子生物学的解析法の進歩によりヒトと腸内細菌の共生関係の詳細が明らかにされつつある.今回の特集に当たり,腸内細菌とその機能について概説する.
著者
安藤 朗 藤本 剛英 高橋 憲一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.2983-2989, 2013-11-10 (Released:2014-11-10)
参考文献数
19
被引用文献数
1

我々は腸内細菌を利用してさまざまな食物からエネルギーを獲得している.腸内細菌は糖吸収を促がすだけでなく,食物繊維を発酵して脂肪酸を誘導しこれらがエネルギーとして利用される.一方,腸内細菌の存在は複雑な免疫機構の発達を誘導した.腸管は生体内最大のリンパ装置とされ,ここでは腸内細菌や食物抗原に対する免疫誘導と寛容が巧妙にコントロールされ過剰な免疫応答による組織障害が未然に防がれている.このホメオスタシスの乱れが炎症性腸疾患の発症につながる.一方,機能性消化管障害は,腹痛と便通異常などの症状があるにもかかわらず消化管検査では症状の原因を特定できないことから,腸管運動の機能障害と内臓神経の知覚過敏に起因する疾患と考えられてきた.しかし,最近の研究から機能性消化管障害の病態にも腸内細菌叢の関与が示唆されている.ここでは,腸疾患と腸内細菌叢のかかわり,腸内細菌を標的とした治療の実際について解説した.
著者
安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.29-34, 2015-01-10 (Released:2016-01-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 3
著者
佐々木 雅也 荒木 克夫 辻川 知之 安藤 朗 藤山 佳秀
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

腸管粘膜細胞の増殖・分化は,消化管ホルモンなどの液性因子や食餌由来の腸管内増殖因子などにより巧妙に調節されている.腸管内の増殖因子として,ペクチンなどの水溶性食物繊維には顕著な腸粘膜増殖作用があり,それには発酵性と粘稠度が関与している.発酵により生じた短鎖脂肪酸,特に酪酸は大腸粘膜細胞の栄養源であり,腸管増殖因子としても作用する.一方,酪酸には抗炎症作用があり,傷害腸管の修復にも関与する.これらは,デキストラン硫酸(DSS)にて作成した潰瘍性大腸炎モデルにおいても確認されている.さらに,酪酸産生菌である Clostridium butyricum M588経口投与によってもDSS大腸炎の炎症修復が確認された.一方,発芽大麦から精製されたGerminated barley foodstuff (GBF)は,潰瘍性大腸炎モデルなどによる基礎研究の成績をもとに臨床応用され,優れた臨床成績から病者用食品として認可されている.また,レクチンにも食物繊維と同様の腸粘膜増殖作用があるが,これらは腸内細菌叢に影響を及ぼすことなく,おもに腸粘膜への直接的な増殖作用とされている.これらの増殖因子は傷害からの修復にも寄与するものと考えられる.
著者
安藤 朗 馬場 重樹
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.456-469, 2018 (Released:2018-10-25)
参考文献数
141
被引用文献数
2 1

Clostridium difficileはグラム陽性偏性嫌気性菌で,抗菌薬治療などで腸内細菌叢が撹乱されると,異常増殖と毒素産生が起こりClostridium difficile感染症を発症する.2000年初頭以降,Clostridium difficile感染症は欧米を中心に強毒型であるNAP1/B1/027株によるアウトブレイクが問題となった.欧米ではfidaxomicinなどの新規治療薬が使用可能となっており,また,2013年には再発性Clostridium difficile感染症に対する糞便微生物叢移植の有用性が示され注目を浴びた.近年はさらにトキシンBに対するモノクローナル抗体やワクチン,トキシンに対する吸着療法などが開発されている.本稿ではClostridium difficile感染症の疫学,病態,診断,治療,潰瘍性大腸炎とのかかわりなどについて概説する.
著者
佐々木 雅也 荒木 克夫 辻川 知之 安藤 朗 藤山 佳秀
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2005-01-01
参考文献数
21
被引用文献数
1

腸管粘膜細胞の増殖・分化は,消化管ホルモンなどの液性因子や食餌由来の腸管内増殖因子などにより巧妙に調節されている.腸管内の増殖因子として,ペクチンなどの水溶性食物繊維には顕著な腸粘膜増殖作用があり,それには発酵性と粘稠度が関与している.発酵により生じた短鎖脂肪酸,特に酪酸は大腸粘膜細胞の栄養源であり,腸管増殖因子としても作用する.一方,酪酸には抗炎症作用があり,傷害腸管の修復にも関与する.これらは,デキストラン硫酸(DSS)にて作成した潰瘍性大腸炎モデルにおいても確認されている.さらに,酪酸産生菌である <i>Clostridium butyricum</i> M588経口投与によってもDSS大腸炎の炎症修復が確認された.一方,発芽大麦から精製されたGerminated barley foodstuff (GBF)は,潰瘍性大腸炎モデルなどによる基礎研究の成績をもとに臨床応用され,優れた臨床成績から病者用食品として認可されている.また,レクチンにも食物繊維と同様の腸粘膜増殖作用があるが,これらは腸内細菌叢に影響を及ぼすことなく,おもに腸粘膜への直接的な増殖作用とされている.これらの増殖因子は傷害からの修復にも寄与するものと考えられる.<br>
著者
馬場 重樹 佐々木 雅也 安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1099-1104, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
84

ヒトは腸内細菌叢と共生している。腸内細菌叢は宿主であるヒトの栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達に大きく寄与している。ヒトの腸内細菌叢の異常はdysbiosisと呼ばれ、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、メタボリック症候群、喘息、心血管疾患など種々の疾患との関連性が示唆されている。また、dysbiosisの原因として、抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬などの薬剤だけでなく、欧米型の食事、環境因子など種々の要因が考えられている。日本人の腸内細菌叢は他の国と比較し生体に有益な機能を有していると報告されているが、ここ数十年で炎症性腸疾患の患者数が爆発的に増加しており、欧米型の食事パターンとの密接な関連性が示唆されている。腸内細菌叢は食事内容の影響を大きく受けるためdysbiosisの原因となるライフスタイルを避ける必要がある。本稿では腸内細菌叢の機能やdysbiosisがどのような要因で生じるのかについて解説を行う。
著者
馬場 重樹 安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.133-138, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

Crohn病は,遺伝的素因を関連した免疫応答が食事抗原や腸内細菌に対して過剰に反応して発症すると考えられている.ここでは,小腸疾患の中でもCrohn病における免疫異常,特にTh17細胞を中心とした免疫応答について解説する.
著者
安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.466-471, 2017-03-10 (Released:2018-03-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
佐々木 雅也 丈達 知子 栗原 美香 岩川 裕美 柏木 厚典 辻川 知之 安藤 朗 藤山 佳秀
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.189-194, 2007-06-25
参考文献数
14
被引用文献数
2

【はじめに】クローン病症例の入院時SGAによる評価と疾患活動度、治療のアウトカムとの関連について検討した。<BR>【対象及び方法】2004年1月より2005年12月までに滋賀医科大学消化器内科にて入院治療された27例(男性19例女性8例、平均年齢30.7歳)を対象とした。入院時のSGAは、栄養状態良好(A判定)10例、中等度の栄養障害(B判定)11例、高度の栄養障害(C判定)6例であった。<BR>【結果】CRP値、IOIBDアセスメントスコア、CDAIはB判定群、C判定群で有意に高値であった。TPN施行率、手術施行率もB判定、C判定群で有意に高率であり、在院日数もB判定、C判定群で有意に長かった。<BR>【考察】クローン病入院時SGAによる評価は、疾患活動度とよく相関した。またTPN施行率、手術施行率、在院日数と有意な関連があり、疾患予後の推定に有用であった。
著者
髙岡 あずさ 佐々木 雅也 井上 真衣 馬場 重樹 安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.1320-1323, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
22

クローン病と潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患と称され、高率に栄養不良を認める。これにはエネルギー代謝の変化も関与しているが、十分な検討はなされておらず、一定の見解は得られていない。我々が入院時に間接熱量測定を施行した成績では、両疾患ともに健常人より安静時エネルギー消費量(REE)が有意に高かったが、両疾患に有意差はなかった。一方、疾患活動性との相関は潰瘍性大腸炎にのみ認められた。これは近年の欧米からの報告を支持する結果である。また、潰瘍性大腸炎における寛解導入前後のエネルギー代謝の変化をみると、REEは有意に低下し、呼吸商は上昇した。エネルギー代謝が変化する要因として、炎症性サイトカインとの関連について検討したところ、両疾患ともにREEとIL-6の間に正の相関が認められたが、TNF-αとの関係性は認めなかった。炎症性腸疾患では、このようなエネルギー代謝の変化に応じた栄養療法が重要である。