著者
西藤 奈菜子 川端 康雄 若林 暁子 吉川 真衣 金沢 徹文 寺嶋 繁典 米田 博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.64-74, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
23

本研究では, P-Fスタディを用いて, 併存疾患の背景に存在する診断閾下の自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder : ASD) のアセスメント可能性について検討した. P-Fスタディの量的分析の結果, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して評定不能のU反応が多く認められた. 質的分析では, 閾下ASD群のU反応において, 「対処困難」 「状況承認」 「自己本位」 「状況誤認」 の4つの特徴が, 全24場面に対する回答内容において, 「過度な他責」 「共感に乏しい自己主張」 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 の4つの特徴が認められた. また, 閾下ASD群は非ASD臨床群に比して, U反応の 「状況誤認」, 回答内容の 「状況に不適当な発言」 「違和感のある語用」 が多く認められた. P-Fスタディには, 診断閾下のASD者が有する一見しただけでは表面化しにくい対人交流の課題が反映されやすい可能性があり, 二次的な症状の背景にある診断閾下のASDの把握に有用であると考えられる.
著者
日高 なぎさ 田中 英高 土田 こゆき 寺嶋 繁典
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.55-59, 2001-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

従来から指摘されているように心因性発熱の発生機序を不十分な情動表現から生じるとするなら, 言語化を促す箱庭療法はきわめて有効な治療手段であろう.箱庭療法が奏効した心因性発熱の1例の治療過程について報告する.導入当初は統合性の低い箱庭が多くみられ, 制作中はほとんど話をせず言語表現の乏しさが目立ったが, 治療を終結する頃には全体として統合性の高い箱庭があらわれるようになった.同時に言語化も促され, 家庭や学校での出来事を自発的に話し, 発熱もなく登校するようになった.本症例では箱庭療法を通じて欲求や感情の言語化が促され, 心的浄化が図られた結果として症例の重篤化を防ぐことができたと考えられる.
著者
西田 裕子 寺嶋 繁典
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.10, pp.27-37, 2020-03-16

本邦における男性の育児休業取得率は2018年度の調査ではいまだ6.16%であり、厚生労働省が向上を目指しているものの、欧米諸国と比較すると極めて低い。本稿では、男性の育児休業取得率の低さの背景に存在する制度的な課題と共に、文化的・心理的課題を明確にし、男性の育児休業取得の促進に寄与する取り組みについて検討を行った。文化・心理的背景には、性役割分業意識や、集団意識、母性原理、自己主張の仕方などがあり、こうした現状の中で男性労働者が育児休業を取得したいと主張することは非常に困難である。男性の育児休業取得率向上は、企業や労働者への育児休業取得の利点を浸透させ、制度を拡充し、義務化を検討すること、さらには親になる教育を早期に始めることなど、多方面からの政策によってはじめて可能となるであろう。
著者
寺嶋 繁典
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
no.1, pp.13-21, 2011-03-12

従来、投影法の内容分析は形式分析と同様に、重要な結果の整理方法と考えられてきた。しかし内容分析は特殊な能力を有する一部の臨床家が行う名人芸という認識が定着し、結果の信憑性に疑義の表明されることが少なくない。この背景には内容分析の方法や訓練の方式が一定でなく、専ら臨床家個人に委ねられていることがある。内容分析からクライエントに有用な情報が得られることは、熟練した臨床家なら誰しもが経験的に理解していることである。パーソナルコンピュータの普及による形式分析偏重の昨今、内容分析の定式化を改めて模索する必要があろう。本稿ではロールシャッハ・テストを中心に内容分析を体系的・段階的に行う手順を提示するとともに、初心者への技能訓練の方法について述べる。
著者
西藤 奈菜子 川端 康雄 寺嶋 繁典 米田 博
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-40, 2018-03-16

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)の心理アセスメントでは、ASD特性を測定するための心理検査の開発やASDに特有な反応の調査など、様々な側面から研究が進められてきた。特に近年は、精神症状や疾患を有する軽度のASDへの適切な治療や支援が注目されており、軽微なASD特性のスクリーニングが課題となっている。ASDのスクリーニングには、従来、養育者による他者評価や患者自身の自己評価に基づく自記式の質問紙検査が使用されてきた。しかし、ASD特性が軽微で知的発達にも顕著な遅れがみられないケースについては、的確にスクリーニングすることが難しい。特にセルフモニタリングを苦手としているASDでは、自記式の質問紙検査による判定が適切に行えない場合も少なくない。本稿では、軽度のASDの青年や成人のスクリーニングにおける自記式の質問紙検査の限界と投影法検査によるスクリーニングの可能性について概観し、有用なスクリーニングツールのあり方について検討する。
著者
香川 香 土屋 由希 西藤 奈菜子 寺嶋 繁典
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.748-756, 2013-08-01

本研究の目的は,女子大学生の月経前症状と,レジリエンスやソーシャルサポートなどのストレス緩和要因,月経へのイメージおよびコーピングとの関連を明らかにすることである.女子大学生296名を対象に,質問紙調査を実施した結果,精神的訴えの顕著な者にレジリエンスやソーシャルサポートとの関連性が示され,彼女らは月経を否定的に認知し,何もせず我慢するといった消極的な対処態度を選択しがちであった.一方,身体的訴えの顕著な女子学生は,身体的訴えの強さとストレス緩和要因との間に関連性を認めなかった.また本調査結果から,身体的訴えの顕著な者は受診に結びつきやすく,月経を肯定的にとらえがちでスポーツなどの積極的な対処行動を用いる傾向が認められた.精神的訴えの顕著な学生には,(1)治療者との信頼関係の構築を目的にしたカウンセリングや,(2)周囲の他者への認知の変容を図るカウンセリングが有用と考えられる.また,月経前症状に関する啓発活動を通じて,実際のソーシャルサポートを増やすことも重要である.
著者
加藤 佑佳 中野 明子 山本 愛 岡村 香織 小海 宏之 吉田 麻美 園田 薫 安藤 悦子 岸川 雄介 寺嶋 繁典
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.721-730, 2011-08-01

2型糖尿病者を対象にProblem Areas in Diabetes(PAID)scaleを実施し,フロア効果がある6項目を除いて因子分析を行ったところ単因子構造が確認された.このPAID尺度とProfile of Mood States(POMS),Tokyo University Egogram New version(TEG)との関連を検証した結果,PAID尺度はPOMSの「Tension-Anxiety」「Depression-Dejection」「Fatigue」との有意な関連がある一方,TEGとは関連がみられなかった.よって,PAIDとPOMSを併せて用いることは,糖尿病の負担感と関連する心理的状態をより詳細に把握することができ,各人に応じた心理的援助を提供する際に有効であると考えられる.