著者
小長谷 有紀 Yuki Konagaya
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.425-447, 2013-03-29

2012 年11 月14 日,モンゴル国政府は「チンギス・ハーン生誕850 周年」記念行事をおこない,エルベグドルジ大統領は,チンギス・ハーンの末裔たちがひろく分散しているという歴史を利用して,中央ユーラシア諸国との国際的な協働的関係を強調した。1989 年の民主化以降,こうしたチンギス・ハーンをめぐる政治的な利用が活発化しており,一般にモンゴル社会でチンギス・ハーン崇拝がつよまっている。こうしたナショナリズムとむすびついた,近代的なチンギス・ハーン崇拝の起源について考察するために,本稿では,社会主義以前の中国内モンゴルで日本人によって流布されたと思われる「肖像画」と「軍歌」に着目し,協働的ナショナリズムが明示される資料をあきらかにした。
著者
小長谷 有紀 Yuki Konagaya
出版者
河出書房新社
巻号頁・発行日
1997-12-15
著者
小長谷 有紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.34-42, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
17
被引用文献数
2

モンゴル牧畜システムは移動性が高いという特徴に加えて,多くのオスを維持し,多種の家畜を多角的に利用するという特徴を有しており,自然環境のみならず,社会環境にも適応的であった.それは単なる生存経済ではなく,軍事産業であり情報産業でもあった.20世紀になると社会主義的近代化のもとで脱軍事化すなわち畜産業化が進行した.市場経済へ移行してからは,牧畜に従事する人々すなわち遊牧民の間で地域格差と世帯格差が拡大している.今日,遊牧民たちは必ずしも自然環境だけではなく,むしろ社会環境に対して積極的に適応して移動している.
著者
小長谷 有紀 小長谷 有紀
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.517-567, 2021

本稿は,19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてモンゴルを訪問したさまざまな調査隊が撮影した写真について,研究上の重要な資料として利用されるように概要を紹介するものである。一次資料となる写真は各国のアーカイブなどで保管されているため,国別に扱う。具体的には,ロシア地理学協会などの地理学協会や,北欧諸国の博物館など,調査隊の派遣元や資料の所在地ごとに写真コレクションを紹介する。こうした総合的な紹介は,とりわけコレクションの横断的な比較分析研究に寄与するであろう。
著者
小長谷 有紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会 E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.34-42, 2007
被引用文献数
4 2

モンゴル牧畜システムは移動性が高いという特徴に加えて,多くのオスを維持し,多種の家畜を多角的に利用するという特徴を有しており,自然環境のみならず,社会環境にも適応的であった.それは単なる生存経済ではなく,軍事産業であり情報産業でもあった.20世紀になると社会主義的近代化のもとで脱軍事化すなわち畜産業化が進行した.市場経済へ移行してからは,牧畜に従事する人々すなわち遊牧民の間で地域格差と世帯格差が拡大している.今日,遊牧民たちは必ずしも自然環境だけではなく,むしろ社会環境に対して積極的に適応して移動している.
著者
Yuki Konagaya 小長谷 有紀
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.517-567, 2021-01-28

本稿は,19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてモンゴルを訪問したさまざまな調査隊が撮影した写真について,研究上の重要な資料として利用されるように概要を紹介するものである。一次資料となる写真は各国のアーカイブなどで保管されているため,国別に扱う。具体的には,ロシア地理学協会などの地理学協会や,北欧諸国の博物館など,調査隊の派遣元や資料の所在地ごとに写真コレクションを紹介する。こうした総合的な紹介は,とりわけコレクションの横断的な比較分析研究に寄与するであろう。
著者
小長谷 有紀 Yuki Konagaya
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.9-138, 2010-11-15

モンゴル国では,近年,農業開発のための政策が実施され,成果を挙げている。一方,農耕放棄地にはヨモギがはえてアレルギー源となり,人々に健康被害をもたらしている。したがって,農業をめぐり開発と保全のバランスをいかにとるかが今後の大きな課題となる。この目標に貢献するために,本稿で筆者は,モンゴル高原北部における農業に関する知見について,人々の知識と経験という観点から整理した。 知見は4 領域から構成される。1 つめは,考古学や歴史学の成果。とくに元朝時代は他の時代に比べて資料が多く,研究も進んでいるので,より詳しく記した。2 つめは民族学が提供するいわゆる伝統的知識。用いたモンゴル語資料は日本語に翻訳して末尾に添付した。3 つめは社会主義時代の人びとの経験。筆者自身が集めた口述史の資料を利用した。また,国営農場のリストの作成を試みた(モンゴル農牧省にもない)。4 つめは統計。 これらの整理から得られることは多いが,結論は以下の通り。 1.匈奴以来,モンゴル高原では外来の農民によって農業開発がしばしば行われた。とくにウイグル時代には積極的に都城が建設されたが,この時期は中世の温暖期に相当しており,有利な気象条件に恵まれていたと思われる。 2.モンゴル国西部ではオイラート・モンゴル人による農耕が発達していた。その技術は,牛による犂,灌漑,大麦など,休閑期があることなどの特徴がある。 3.社会主義的近代化の過程で導入された農業は,伝統的な技術と異なる,大規模乾燥農法であった。作付面積が40 万ヘクタールを超えると,規模の経済のメリットが得られるが,非常に投機的なビジネスとなり,社会的に安定的ではなくなる。 4.歴史的に農業開発はそれぞれの時代の政策によって実施されてきたので,断続的であるにすぎず,カラコルム地区を除いて決して持続的ではない。にもかかわらず,現実に農業開発は行われ,牧畜の定着化を同時に促進しているので,今後は,遊牧に適した非均衡モデルではなく,むしろ均衡モデルを適用した考察が必要になっている。