著者
鳴海 史生 Fumio NARUMI 尚美学園大学芸術情報学部
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.35-42, 2009-11-01

「固定ド・移動ド」は単なる譜読みの方式ではなく、音楽解釈や演奏にまで深くかかわる。本学に入学してくる学生たちの大半は、現代日本の音楽教育環境を背景として「固定ド」しか知らないのだが、その現状を放置することは許されないであろう。歴史をひもといたときに明らかなのは、「ドレミファ…」は元来、階名、つまり「移動ド読みのためのツール」だということだ。一方、固定ドは平均律に調律された現代ピアノを拠り所としている。それは一見、便利かつ合理的なものにみえるが、われわれは平均律そのものの欠点をよくよく認識しなくてはならない。「良い音楽家」を目指す者には、やはり「移動ドのセンス」が必要なのである。The " fixed doh/movable doh" is not simply a way of music reading, but also a matter of music interpretation.Most students who get into our department of music expression only know the " fixed doh"against the background of music-educational environment in present-day Japan; but I think we must notoverlook this situation. When we trace the " movable doh" back to its origins, it is obvious that " dore-mi-fa…" are essentially the syllable names, in other words a tool for the movable doh reading. The" fixed doh" is based on the equally tempered piano. It seems to be convenient and reasonable, but wehave to understand sufficiently its weak points. Students who aim at becoming good musicians are requiredto have the sense of " movable doh."
著者
鳴海 史生 Fumio NARUMI 尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.35-42, 2009-11-01

「固定ド・移動ド」は単なる譜読みの方式ではなく、音楽解釈や演奏にまで深くかかわる。本学に入学してくる学生たちの大半は、現代日本の音楽教育環境を背景として「固定ド」しか知らないのだが、その現状を放置することは許されないであろう。歴史をひもといたときに明らかなのは、「ドレミファ…」は元来、階名、つまり「移動ド読みのためのツール」だということだ。一方、固定ドは平均律に調律された現代ピアノを拠り所としている。それは一見、便利かつ合理的なものにみえるが、われわれは平均律そのものの欠点をよくよく認識しなくてはならない。「良い音楽家」を目指す者には、やはり「移動ドのセンス」が必要なのである。
著者
坪口 昌恭 Masayasu TSUBOGUCHI 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.28, pp.21-39, 2018-03

バリー・ハリスのメソッドは、平均律12 音のクロマチックスケールを大前提とし、それを二つに分けたホールトーン・スケール、三つに分けたディミニッシュ・コードがビバップ・ジャズにおけるDNA だというとらえ方からスタートする。これはドミナント7thコードを捉える上でもっとも根源的かつシンプルな法則であり、1950 年代までのジャズ・サウンドを表現する上で欠かせない要素である。一方ダイアトニックコードはオープン・ヴォイシングで習得することで、ジャズ特有の響きやアプローチがしやすくなる。また、主要なコードを6th コードとして捉えることもバリー氏の特徴であり、ディミニッシュ・コードと組み合わせることにより、コードネームやスケールだけでは表現できない、味わい深い音の動きを作り出すことができる。ここでは主にピアノでの演奏を想定したコードに対する様々な音の動かし方を紹介する。The method of Barry Harris is based on the chromatic scale of the 12-note average scale, a wholetone scale that divides it into two, a method from the view that the three diminished chords are DNA in bebop jazz Start. This is the most fundamental and simple rule to capture the dominant 7th chord, which is an indispensable element in expressing the jazz sound until the 1950s. On the other hand, learning diatonic chord with open voicing makes it easier for jazz-specific sounds and approaches. It is also a feature of Mr. Barry to capture the main chord as the 6 th chord, and by combining it with the diminished chord, it is possible to create a tasteful sound movement that can not be expressed only by a chord name or a scale. Here, I will introduce the way to move various sounds mainly for the chord assuming performance at the piano.
著者
林 容子 Yoko HAYASHI 尚美学園大学芸術情報学部情報表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.57-79, 2004-12-24

2002年から2004年の夏にかけて、マンスフィールド財団、アジア財団、パシフィックフォーラムという3つの米国系財団の招聘で、日韓の諸問題を討議するリトリートに参加した。安全保障や外交の専門家に加え、NGO、文化、ジャーナリズムを専門とするそれぞれの国の代表が一同に招聘され、自由に討議した。それぞれの視点より、日韓関係を述べることになったとき、筆者のカウンタパートである韓国の美術史家より、「日本は、日帝期時代に多くの朝鮮墳墓を発掘し、朝鮮美術品を不当に日本に持ち帰り、返還していない。日本には、多くの逸品を含む30万点に上る朝鮮文化財があり、韓国の研究者は、自国の文化財なのに、わざわざ日本まで見に行かなければならないし、なかなか見ることができない。」と開口一番に指摘された。文化分野を代表していたものの、私の専門はアートマネージメントであり、朝鮮美術の専門家ではない。これまで、特に朝鮮美術はおろか、日韓関係についても特別の関心は持ってこなかった。彼女が指摘したのは、いわゆる略奪文化財の問題であるが、略奪文化財といえば、それまで私の脳裏に浮かぶのは、大英博物館保有の古代ギリシアの大理石彫刻(別名:エルギンマーブル)やナチスが略奪して、散逸した美術品の数々であり、「日本が朝鮮から美術品を略奪した」といわれても"晴天の霹靂"といわざるをえなかった。その場では、残念ながら日本代表として弁護することも、謝罪することもできず、とにかく自分なりに事実関係を確認し、次に報告すると約束するのが精一杯だった。これが本稿の切掛けとなった。帰国後、このことを日本の様々な知人に話すと様々な反応が帰ってきた。しかし、この件について無知だったのは、私だけでなく、朝鮮美術や東洋美術の専門家の友人を除いて、多くにとって、このことは初耳のようだった。事情を話すと、一般の人は「それなら返還したらいいじゃない。」と別に人事のような反応だった。一方、日本の東洋美術の専門家の友人たちに話すと、「この件は、すでに決着がついているのに、何故いまさらそんな過去のことを調査するのか。日韓の文化交流はとてもよくなっているのに、あなたがしようとしていることは、全くの時間の無駄であり、それよりも何故、もっと前向きなことにエネルギーを使わないのか。」と大変な勢いで抗議された。本問題に関して、両国の国民の間の意識レベルに大きなギャップが存在する。この問題に対する双方の一般国民の意識の低さおよび事実関係の認識の欠如が他の日韓の歴史問題同様に感情論の問題にしてしまい、根本的な問題解決を妨げていることも否めない。その一方で、日本と韓国の交流は、日韓ワールドカップの共催を経て両者の政府の方針もあり急速に高まっている。韓国側でも政府主導の友好的な外交政策がとられ、少なくとも日本では韓国に対する国民感情が少しずつながら好意的なものになっている。結果として85年以降日本人コレクターによる韓国への文化財の恣意的な寄贈も増えている。今、日本は、国交正常化以来の韓国文化ブームに沸いている。また、韓国でも、日本の朝鮮半島占領政策がもたらした経済効果を数字で分析する経済学者1が現れるなど、単なる感情論を越えて、日本の植民地政策を分析しようという動きが出てきている。調査を進めるうち、本問題は、日本の朝鮮植民地政策、日韓条約などの歴史問題に深く関わることはいうまでもないが、さらに、現在の国際法上での略奪美術品の扱いの問題や日本における美術品に関する税制や公開の制度の未整備など、国内外のアートマネージメント上の問題が大きく関わっていることがわかった。そこで本稿では、大きく第一に、在日朝鮮文化財の歴史的経緯、第二に、国際的および日本の国内事情の抱えるアートマネージメント関連の問題の考察、つまり、多くの在日朝鮮美術品の返還と公開に関わる問題を取り上げる。最後に、これらを踏まえた上でのこの問題に対する改善試案を提案する。Few in Japan's public know that approximately 29000 pieces of Korean artifacts are found housed in Japan's public museums. This accounts for only 10% of all Korean artifacts in Japan including those held in private hands. Many of them were supposed to be taken to Japan from Korea illegally during the colonial period. In Korea, the issue of illegally taken artifacts is a well-known to public. The gap in the awareness between Korea and Japan on the historical issue creates tensions between the two countries. The unsolved issue of restitution goes back to the flawed Korea Japan Treaty. While it is not feasible to solve this problem from legal perspective, voluntary donations of Korean artifacts by Japanese private collectors has gradually increased as the relationship between the two countries became improved since 1985. The research on current status of those Korean artifacts in Japan revealed another problem, which is many of them are still hidden and not even available for public view. The domestic problems surrounding art collection in Japan such as lack of tax incentive for public display and donation of artworks constitute the major factors behind Korean artifacts staying in hidden Japanese private collections. In order to promote the public access to the Korean artifacts in Japanese private collections, tax reform is needed. Also, public and private initiatives should be created to begin joint research and scholarly exchange dedicated to increasing public awareness on this subject, which will contribute to improve relations between Japan and Korea as well as to flowering of cultural sharing in the region.
著者
霧生 トシ子 Toshiko KIRYU 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.33-44, 2004-09-30

チャーリー・パーカーをめぐって1940年代初頭には、ビバップの最盛期を迎えた。そこから多くのジャズの巨人達が生まれた。彼らがその後、いかなる状況のもとで、どのような方向へ展開していったか、彼らの発展の源となったものは何であったかを見てみよう。It was towards the beginning of 1940s that Bebop was at its peak with many leading figures appearing, such as Charlie Parker as a uncleous. The following is a glimpse on their motives and subsequent activities under the surrounding conditions in those days.
著者
河内 純 Jun KAWACHI 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.49-62, 2004-12-31

フランツ・リストは現代にまで名が残っている作曲家はもとより、すでに忘れ去られた数多の作曲家の作品をピアノ用に編曲している。リストがさまざまなジャンルにわたる膨大な数の作品を編曲した目的は、ヨーロッパ中で活発に行っていた演奏会のプログラム・レパートリーとすることと原曲を広く紹介すること。及び、それらの原曲からさまざまな作曲技法を学び取り、それをオリジナルの作品に反映させることだったと考えられる。本稿ではシューベルト歌曲のピアノ編曲を取り上げ、リストが歌とピアノによる演奏効果をいかに1台のピアノに置き換えたのか考察した。その結果、リストが原曲を詳細に研究してシューベルトの音楽を深く理解していたことが導き出された。Franz Liszt has left numerous solo piano arrangements based on many other composers' non-piano works, not only well known ones but also presently remain unknown ones. Covering wide variety of original instrumentation, Liszt's intension of composing such works can be considered to be to discover various new repertoire for the programs of the concerts that he was actively performing all over European countries at that period of time, to introduce them to the public, and finally to learn different styles of compositional technique that could be utilized in his own works. In this paper, I have particularly investigated Liszt's works for solo piano arrangement of Schubert's songs in order to prove how he effectively turned the songs with piano accompaniment to solo piano pieces. As a result, I have reached the conclusion that Liszt had observed the original scores in detail and understood Schubert's music to the deepest level.
著者
鈴木 常恭 Tsuneyasu SUZUKI 尚美学園大学芸術情報学部
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.12, pp.37-55, 2007-11

テレビジョン番組は、ほとんどが先行する演劇、大衆演芸、歌劇などの実演形式、そして映画の表現形式を敷衍したものである。しかし、クイズ番組は放送メディア(テレビ、ラジオ)が、独自に開発した数少ない番組形式である。この番組形式は、テレビが登場して以来いまも多くの視聴者を獲得している。そして、この番組形式は、いま世界中のテレビジョン放送が共有する主要なジャンルとして位置づけられている。この研究ノートでは、テレビ番組研究の一貫として、はじめにテレビ番組におけるジャンルの生成と確立に言及し、これを踏まえクイズ番組の構成要素、出題と知、演出そして受容のされかたを番組の変遷を踏まえ考察する。
著者
伊藤 紫織 Shiori ITO 尚美学園大学芸術情報学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.29, pp.1-16, 2018-10

万葉集にも登場する景勝地松川浦(福島県相馬市)を表す「松川十二景和歌色紙帖」(相馬市教育委員会、相馬市指定文化財)は一帯を治めた藩主相馬昌胤(1661 ~ 1728)によって元禄元年(1688)頃に作られた。松川十二景は、瀟湘八景の八景風に場所と季節や天候を組み合わせるのではなく、十二の場所を選んでいる。松川十二景は東山天皇の勅許を得て、公家が和歌を詠むことにより、新名所の権威を高めている。新名所を定め、権威づけることは、兄の急死により新しく藩主となった昌胤の正統性を示すものであった。新名所の権威を高める和歌に合わせて実景図というよりは名所絵風の狩野派の絵が描かれた。十二景は季節の順となる1 松川浦2 水茎山3 梅川4 沖賀島5 松沼浜6 川添森7 長洲磯8 紅葉岡9文字島10 離崎11 飛鳥湊12 鶴巣野が元来の順序とみられる。絵師は狩野常信ら江戸狩野の正統的な顔ぶれであり、絵も新名所、そして新名所を制定する藩主の正統性を補強する。Sōma Masatane (1661–1728), the feudal lord of Sōma Domain (now Fukishima Prefecture),commissioned the album Matsukawa jūni-kei waka-shikishi-chō (Tanka poems and pictures for the Twelve Views of Matsukawa; Sōma Board of Education) around 1688. Matsukawa is a famous place, which we can already find mention of in the Man'yōshū, a collection of poems from the 8th century. The Twelve Views of Matsukawa designates places only, unlike the Eight Views of Xiaoxiang or the Eight Views of Ōmi, which combine places with seasons or particular kinds of weather. The Emperor Higashiyama sanctioned the Twelve Views newly-chosen by Masatane, and twelve court nobles composed tanka to accompany them. In this way, the new Twelve Views of Matsukawa were officially accepted. Masatane, who inherited Sōma Domain due to his brother's sudden death, wanted to represent his legitimacy through this official acceptance. Moreover,the pictures of the Twelve Views were painted by genuine Edo Kano painters, including Kano Tsunenobu, to further legitimize Masatane's authority. These pictures were not painted as real landscape, but as idealized ones with overtones of classical literature. The order of the Twelve Views was originally determined by season, but it is different in the album.
著者
竹内 誠 Makoto TAKEUCHI 尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.83-106, 2010-11-01

ソルフェージュとハーモニーの能力は、音楽を専門とするには不可欠であり、音楽大学の専門科目では根幹となる授業である。従って、ソルフェージュ教育とハーモニー教育の現状と問題点は、音楽大学の現状と問題点をそのまま映し出している。今回の研究ノートは、芸術情報研究第16号に鳴海史生教授が書かれた、"「固定ド・移動ド」をめぐって"への私の回答であり、現在すすめている新規ハーモニーテキスト内容の一部である。また、工学系大学の音楽への取り組みを紹介して、音楽大学の現在置かれている社会的立場を考察する。
著者
鶴原 勇夫 Isao TSURUHARA 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.89-120, 2004-12-31

ガブリエル・フォーレは19世紀から20世紀にかけて、フランスで活躍した作曲家である。ロマン主義の時代から現代に至る変化の激しい時代において、彼は、古い権威に頼ることなく、新しい流行に惑わされず、自己に忠実に独自の作風を築いた。彼の音楽の特色は、優美な旋律とユニークな和声進行にある。特に彼の和声進行と転調方法が、当時としてはあまりに斬新だったために、師匠であるサンサーンスが「とうとう彼は気が狂ってしまった」と叫んだくらいである。この研究はそうしたフォーレの作品の中から和声進行と転調の特色を発見することを目的としている。この研究で私が彼の音楽の独創性に少しでも近づくことが出来ていれば幸いである。Gabriel Faure was a French composer who was actively engaged in the musical world in France from the 19th century to the 20th century.In the violent period of changes --from the time of romanticism to the present -- Faure established devotedly his own idiom by excluding the old authority and new fashion of that time. The superb feature of his music is in a graceful melody and a unique progress in harmony. Because his harmony progress and modulation method were extremely unconventional at that time, Saint-Saens, who was Faure's master, shouted, "He at last went mad!" In this paper, I attempt to explore the special feature of Faure's harmony progress and modulation out of his works. I certainly hope that this research could prove to be access to the originality of Faure's music even a bit.
著者
田村 和紀夫 Wakio TAMURA 尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.53-63, 2014-03-31

モーツァルトのオペラ・ブッファ『フィガロの結婚』K.492 はオペラの歴史に画期的な一頁を開いた。バロックのオペラ・セリアは、登場人物の感情を表現することによって、劇を形成していた。しかし『フィガロの結婚』では、盲目的な「欲望」が劇を動かす。この全く新しい劇的原理を明らかにしたのが、ケルビーノのアリアである。この論文では、ボーマルシェの原作との比較を通じて、ダ・ポンテとモーツァルトの「改作」の意味を検証する。そしてそこから『フィガロの結婚』がもつ画期性を具体的に解明し、バロック・オペラからの決定的な訣別の軌跡を辿る。Mozart's opera buffa "The Marriage of Figaro" K.492 became a epoch-making work in the history of operas. The opera seria in the baroque era had formed a drama by expressing the various emotions of characters. However, in "The Marriage of Figaro", it is a blind "desire" thatdevelop the play. The aria of Cherbino revealed this completely new dramatic principle. This study, through the comparison with Beaumarchais's original play, intends to clarify the meaning of"adaptation" of Da Ponte and Mozart., and to verify the decisive progress of "The Marriage of Figaro" that made the farewell to baroque operas.
著者
鳴海 史生 Fumio NARUMI 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.27, pp.29-36, 2017-10

アメリカのチェンバリスト、ブレドリ・リーマンが2005 年に『アーリー・ミュージック』誌で発表した論文は、斯界に大きなセンセーションを巻き起こした。バッハがいかなるやり方で鍵盤楽器を調律していたのかは長らく不明であったが、われわれが頻繁に目にする《平均律クラヴィーア曲集》第1 巻の序文に記された渦巻模様こそ、その方法を示すものだ、というのである。加えてリーマンは、三種類の渦巻が5度の調整の度合いを具体的に表わすとし、「バッハ調律」の姿をきわめて鮮明に描き出した。こんにち、いわゆる古楽の世界では、それが定説となっている感がある。しかし、実際に「バッハ/ リーマン調律」で演奏してみると、多少なりとも違和感を覚えない人はいないであろう。本論は、それを再検討し、三種類の渦巻が示すであろう5度の調整の度合いを修正することによって、より快適な「バッハ調律」を提案するものである。Bradley Lehman's article in the "Early Music" (2005) made huge waves internationally in the world of music, especially of harpsichord and pipe organ. The exact temperament used by J. S. Bach has been unclear for a long time. Lehman claims that the key to the mystery has been hidden in the spiral diagram at the title page of "Das wohltemperierte Clavier" manuscript (1722). He regards three different kinds of spiral diagrams as intervals of narrowed 5ths: it could clear the tuning system used by Bach. Sadly, Bach/Lehman temperament is not comfortable. This paper aims to reconsider the temperament, and to propose the more comfortable keybord tuning for Bach's music.
著者
金子 晋一 Shinichi KANEKO 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.39-67, 2002-03-31

In this article an attempt is made to examine the features and essence of the following three types of music : Tonal music, Blues music, and Shamisen music. Basically, Eastern music and Western music are very different from each other. Western tonal music primarily has a harmonic pitch and the fundamental chords are always fixed, and evenly tempered. For example, the tonic chord I (A-Major key) is always determined by Concert pitch A 440 : the number of vibrations in the sound. 0n the other hand, the tone at the center of Eastern Shamisen music is free-floating, with freer uses of pitches. The first issue I focus on in this paper is the tonal music, especially of the late stage. I will discuss the fundamental chord and harmonic pitch of Wagner's Tristan und Isolde and Schoenberg's Verklaerte Nacht. I will also examine the Mode music of Olivier Messiuen and his floating pitches, as well as the Bluesy tonal music of George Gershwin, specifically Rhapsody in Blue and An American in Paris and their harmonic pitches. The second issue focused on is Blues Music : blue tonality (Bluesy harmonic pitch) exemplified in Dizzy Gillespie's Blue 'N' Boogie or the chord changes in Charlie Parker's works. Finally, I will discuss the uniqueness of Shamisen music and its tonal center such as Hon-Choshi, Ni-Agari and San-Sagari. My discussion and examination are meant to search for ideas aimed at creating new fresh music for the 21st century. I believe that an equal treatment of Western and Eastern music, and their distinctive notions of tone techniques, will play a key role in the creation of a new type of music.
著者
茂出木 敏雄 Toshio MODEGI 尚美学園大学芸術情報学部情報表現学科非常勤
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.26, pp.85-104, 2017-03

既開発の音響信号からMIDI 符号に自動変換するツール「オート符」は、一般化調和解析に基づく周波数解析を採用することにより倍音を含む和音を高精度に解析できるという特徴があり、楽器音に限らずボーカルなど、標準的なMIDI 音源で近似的に原音響信号を再現可能なMIDI データを生成できる。このソフトウェアは、1996 年にWin32 アプリケーションとしてWindows NT/95 上で開発に着手し、2001 年より一般財団法人デジタルコンテンツ協会のホームページより約14 年間無償配布を行いながら、改良を重ねてきた。その間、Microsoft のWindows OS は数々のアップグレードがなされてきたが、本ツールはそれらの影響を受けず、最新OS のWindows 10/64bits 版まで問題無く稼働し続けてきた。しかし、2016 年夏に行われた"Windows10 Anniversary Update" により、MIDI 再生系に不具合が生じるようになった。これに対し、アプリケーション側に改良を加え、従来通り安定に稼働するように復旧させることができた。本稿では、本問題の調査結果と回避策について報告する。Our previously developed audio to MIDI-event converter tool "Auto-F" has a feature of highprecision harmonic tone analysis functions based on the Generalized Harmonic Analysis algorithm. Applying this tool, from given vocal acoustic signals we can create MIDI data, which enable to playback voice-like signals with a standard MIDI synthesizer. We began developing this software as a Win32 application on the Windows NT/95 platform in 1996. Since 2001, we have distributed this software tool for free at the Website of the Digital Content Association Japan for about 14 years, with several improvements added. In these years, Microsoft has released several upgraded Windows Operating Systems, and our developed tool could catch up with these updates and continue running on newer platforms until the latest Windows 10/64bits. However, the "Windows 10 Anniversary Update" released in the last summer, has influenced on the MIDI sequencer function of this tool. Then, we have improved this tool and we could successfully make its execution stable on this newest platform. In this report, we present results of our tracking of this software defect and our adopted technique for avoiding it.
著者
久保田 葉子 Yoko KUBOTA 尚美学園大学芸術情報学部
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.33-44, 2008-11-01

Johannes Brahms(1833-1897)は自作の交響曲、ピアノ協奏曲、声楽を含むオーケストラ作品、セレナーデ、序曲、ほとんどの室内楽作品をピアノ・デュオの編成にアレンジして残している。また、同時代の他の作曲家も次々とブラームスの作品を編曲し、彼の作品は当時、様々な編成で世に広まっていった。ここでは19世紀の編曲のあり方、作曲家と出版社の関係、ブラームスの作品がどのように市民に享受されたかを考えたい。Johannes Brahms (1833-1897) arranged most of his orchestral- and chamber music for piano duo. Many contemporaries of Brahms also arranged his works in various instrumental combination. The common practice in 19th century realized, that more people would have opportunity to play and know his music. In this report, I study arrangements not by Brahms, about arrangers who worked with piano music of Brahms, and how the publishers dealt with works of Brahms.
著者
皆川 弘至 Hiroshi MINAGAWA 尚美学園大学芸術情報学部音楽表現学科
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.71-164, 2004-09-30

1790年から今日に至る凡そ200年余の間に、我が国を訪れた外国人音楽家の公演歴を包括した調査資料は無いに等しい。特に、明治時代以前(1868年以前)、明治時代(1868-1912)、大正時代(1912-1926)の記録は、本稿巻末の参考資料に示した通り、わずかに記録として残されている程度であり、現在は絶版で入手不可能でもある。そこで本稿では、外来クラシック演奏家公演に限定し、新聞記事、刊行物、当時の公演プログラム等を渉猟し、調査・整理・分析・統合を加え、(1)明治時代以前 (2)明治時代 (3)大正時代 (4)昭和時代I<第2次世界大戦前> (5)昭和時代II<戦後> (6)平成元年から現在、の6つに分類した。その主脈を時系列的に概観することにより浮き彫りとなる諸点の中から、特に世界的に著名なオーケストラ14団体の来日公演に絞り、入場料金の推移を、厚生労働省調査による「大卒者初任給額及び対前年増減率の推移」及び総務省調査による「消費者物価総合指数」、「持家の帰属家賃を除く消費者物価総合指数(全国)」と対比し、更にアート・マネージメントの視点から考察を加えた。In the slightly more than 200 years from 1790 until the present day, research documents covering the history of performances of foreign musicians who have visited Japan are virtually non-existent. In particular, as shown in the reference material at the end of this document, records of the Pre-Meiji Era (before 1868), the Meiji Era (1868-1912), and the Taisho Era (1912-1926) barely remain, and furthermore are currently out of print and unobtainable.In light of the above, in this document, newspaper articles, printed publications, contemporary performance programs, etc. relating to the performances of visiting foreign musicians have been extensively read, organized, analyzed, and consolidated, and have in addition been classified into six categories: (1) Pre-Meiji Era; (2) Meiji Era; (3) Taisho Era; (4) Showa EraI (pre-World WarII); (5) Showa EraII (post-war); and (6) Heisei Era through the present.In addition, from among the points which come into focus as a result of taking a broad overview of the main currents therein, and in particular drawing from the performances in Japan of 14 eminent orchestras, an examination of admission prices is provided from the perspective of arts management, in correlation with "Transitions in Year-on-Year Differences in University Graduate Starting Salaries" from a survey by the Ministry of Health, Labor, and Welfare, and with "General Consumer Price Index" and "General Consumer Price Index Excluding Rent of Homeowners (for entire country)" from surveys by the Ministry of General Affairs.