- 著者
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山口 薫
山路 永司
- 出版者
- 農村計画学会
- 雑誌
- 農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, pp.275-280, 2013
- 被引用文献数
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学習能力の高いサルによる獣害対策の一環として,2005年度から特区制度を利用し,犬を活用した取り組みを始めてから8年が経過した。その後,動物愛護管理法に基づく基準が改正(2007年)されて,訓練した犬を放し飼いにすることが法的に可能となり,一気に全国に広まった。現在,全国で393頭(農林水産省,2011)の犬が主にサル対策として活動している。人に代わって,執拗に山へサルを追い上げる犬を活用して益々頭数を増やす自治体もあれば,打ち切りもあってばらつきがみられる。先行研究では,イヌの追い上げの有用性の実験(小金澤,2008),ニホンザルの追い払いの実態(吉田ら,2006),追い払い犬を技術面から捉えたもの(市ノ木山,2012),野生鳥獣対策ツールとして犬を利用して検証(矢口,2009)など,電気牧柵やネットの改良と同様の科学的視点から犬の有用性を考察している。また被害住民意識に基づいたサルの追い払い対策(中村ら,2007),集落ぐるみでサルを追い払い,農作物被害軽減の効果を検証(山端2010,東口ら2012)など,人による追い払いに着目した研究はあるが,犬の飼育者の特に地方自治体担当者や地域住民の評価を分析したものは少ない。また犬側の動物の福祉に配慮した考察や,ペット動物として飼育しながら活動する問題点への考察はほとんどない。そこで本研究では,東日本地区の全容把握と,最も事業を推進している長野県南木曽町の忠犬事業の飼育者への聞き取り調査をもとに分析し,提言を行うことを目的とした。なお「追い払い」事業は,犬がサルを本来の住処へ戻すことだが,その実施には「犬を好きか嫌いか」といった感情面の対立が伴いやすい。その課題も含めて検証した。