- 著者
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丸山 里美
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.4, pp.898-914, 2006-03-31
- 被引用文献数
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2
近年, 野宿者の存在が社会問題化している.これまでの野宿者研究では, 野宿者の生活に見られる自立的で主体的な側面を描き出すことによって, 野宿者は更生すべきだとするまなざしに対抗しようとしてきた.そのときには一枚岩の男性労働者を想定しながら, 野宿者の勤勉性を主張するというやり方がしばしばとられてきた.しかしこうした主張は, 勤勉な男性野宿者以外の存在を排除するものとなっている.<BR>本稿は, ある公園と施設において行った調査に基づいて, 女性野宿者の生活世界に焦点をあてるものである.野宿者の中で女性の割合は2.9%にすぎず, 従来の研究では女性はほとんど存在しないものとされてきた.しかし彼女たちの実践から見えてくるのは, 男性野宿者の場合とは異なる, ジェンダー化された女性野宿者の世界である.さらに彼女たちに特徴的に見られたのは, 周囲との関係性に拠りながら, 状況に応じて野宿を続けたり, 野宿から脱出することを繰り返す姿だった.<BR>こうした断片的な生のあり方は, 女性に顕著にあらわれているが, 女性野宿者に本来的に固有なものでも, 女性野宿者だけに見られるものでもない.これまでの研究では一貫した意志のもとに合理的な選択を行う主体像を想定し, 行為遂行的な実践は見落とされてしまっていたが, それは, このような女性野宿者たちの実践に接近することに先立って, 野宿者に抵抗や主体的な姿を見ようとする欲望が存在していたためだろう.