著者
奥田 圭 田村 宜格 關 義和 山尾 僚 小金澤 正昭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.109-118, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

栃木県奥日光地域では、1984年以降シカの個体数が増加し、1990年代後半から植物種数が減少するなど、植生にさまざまな影響が生じた。そこで当地域では、1997年に大規模な防鹿柵を設置し、植生の回復を図った。その結果、防鹿柵設置4年後には、柵内の植物種数がシカの個体数が増加する以前と同等にまで回復した。本研究では、防鹿柵の設置がマルハナバチ群集の回復に寄与する効果を検討するため、当地域において防鹿柵が設置されてから14年が経過した2011年に、柵内外に生息するマルハナバチ類とそれが訪花した植物を調査した。また、当地域においてシカが増加する以前の1982年と防鹿柵が設置される直前の1997年に形成されていたマルハナバチ群集を過去の資料から抽出し、2011年の柵内外の群集とクラスター分析を用いて比較した。その結果、マルハナバチ群集は2分(グループIおよびII)され、グループIにはシカが増加する以前の1982年における群集が属し、シカの嗜好性植物への訪花割合が高いヒメマルハナバチが多く出現していた。一方、グループIIには防鹿柵設置直前の1997年と2011年の柵内外における群集が属し、シカの不嗜好性植物への訪花割合が高いミヤママルハナバチが多く出現していた。これらのことから、当地域におけるマルハナバチ群集は、防鹿柵が設置されてから14年が経過した現在も回復をしていないことが示唆された。当地域では、シカが増加し始めてから防鹿柵が設置されるまでの間、長期間にわたり持続的にシカの採食圧がかかっていた。そのため、柵設置時には既にシカの嗜好性植物の埋土種子および地下器官が減少していた可能性がある。また、シカの高密度化に伴うシカの嗜好性植物の減少により、これらの植物を利用するマルハナバチ類(ポリネーター)が減少したため、防鹿柵設置後もシカの嗜好性植物の繁殖力が向上しなかった可能性がある。これらのことから、当地域における防鹿柵内では、シカの嗜好性植物の回復が困難になっており、それに付随して、これらの植物を花資源とするマルハナバチ類も回復していない可能性が示唆された。
著者
奥田 圭 田村 宜格 關 義和 山尾 僚 小金澤 正昭
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.109-118, 2014-11-30

栃木県奥日光地域では、1984年以降シカの個体数が増加し、1990年代後半から植物種数が減少するなど、植生にさまざまな影響が生じた。そこで当地域では、1997年に大規模な防鹿柵を設置し、植生の回復を図った。その結果、防鹿柵設置4年後には、柵内の植物種数がシカの個体数が増加する以前と同等にまで回復した。本研究では、防鹿柵の設置がマルハナバチ群集の回復に寄与する効果を検討するため、当地域において防鹿柵が設置されてから14年が経過した2011年に、柵内外に生息するマルハナバチ類とそれが訪花した植物を調査した。また、当地域においてシカが増加する以前の1982年と防鹿柵が設置される直前の1997年に形成されていたマルハナバチ群集を過去の資料から抽出し、2011年の柵内外の群集とクラスター分析を用いて比較した。その結果、マルハナバチ群集は2分(グループIおよびII)され、グループIにはシカが増加する以前の1982年における群集が属し、シカの嗜好性植物への訪花割合が高いヒメマルハナバチが多く出現していた。一方、グループIIには防鹿柵設置直前の1997年と2011年の柵内外における群集が属し、シカの不嗜好性植物への訪花割合が高いミヤママルハナバチが多く出現していた。これらのことから、当地域におけるマルハナバチ群集は、防鹿柵が設置されてから14年が経過した現在も回復をしていないことが示唆された。当地域では、シカが増加し始めてから防鹿柵が設置されるまでの間、長期間にわたり持続的にシカの採食圧がかかっていた。そのため、柵設置時には既にシカの嗜好性植物の埋土種子および地下器官が減少していた可能性がある。また、シカの高密度化に伴うシカの嗜好性植物の減少により、これらの植物を利用するマルハナバチ類(ポリネーター)が減少したため、防鹿柵設置後もシカの嗜好性植物の繁殖力が向上しなかった可能性がある。これらのことから、当地域における防鹿柵内では、シカの嗜好性植物の回復が困難になっており、それに付随して、これらの植物を花資源とするマルハナバチ類も回復していない可能性が示唆された。
著者
山尾 僚 深野 祐也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.93-98, 2019 (Released:2019-08-08)
参考文献数
21
被引用文献数
1

つる性の植物の地上部は、他の植物に巻きつくために垂直・水平方向に大きく展開し、様々な種類の植物と接触する。つる植物にとってどの植物に巻きつくかは、その後の生長を左右する極めて重要な決定である。つる植物の特徴的な旋回運動や巻きつき反応に関する研究はダーウィン以来多くなされているものの、つる植物のホスト選択における識別能力についてはこれまでほとんど研究されていなかった。近年われわれは、つる植物のなかでも巻きひげのもつ識別能として、自己識別能力(自株と同種の他株を見分ける能力)と同種識別能力(同種と他種を見分ける能力)のふたつに注目し、検証を行った。本稿では、これまでの巻きひげの応答研究について概説しつつ、著者等が明らかにしてきた巻きひげのホスト選択に関する研究を紹介する
著者
横田 智 山尾 僚 鈴木 信彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.252-263, 2012-10-05

ワーカー多型の進化とその生態学的意義を解明するために,ワーカーに二型(メジャーおよびマイナーワーカー)がみられるオオズアリの分業体制を定量的に解析すると共に,メジャーの重要性が高い餌条件下で,カースト比やメジャー形態の可塑的変化が生じるのかを検証した.室内でサイズの異なる餌(大きい餌:フタホシコオロギ成虫,小さい餌:大きい餌を凍結粉砕したもの)を与え,餌場に現れたワーカーの個体数やメジャー比,行動様式,餌の解体の有無などを観察した.大きな餌を与えた場合,メジャーが餌場に多く現れ,マイナーが運搬行動に従事し,メジャーが解体行動に従事するという明確な分業がみられた.メジャーがいるコロニーでは,ほとんど場合餌が解体されたのに対し,メジャー不在のコロニーでは解体が生じたのはわずかであり,いずれも女王によるものであった.63日間,大きな餌を与えたコロニーと小さな餌のみを与えたコロニーのメジャー比及びメジャーの頭幅を比較したところ,メジャー比には違いはみられなかったが,頭幅には餌の大きさに相関した違いが生じた.腹部に栄養を貯蔵したメジャーがいるサブコロニー,貯蔵していないメジャーがいるサブコロニー,メジャーがいないサブコロニーをそれぞれ飢餓条件に置いて生存率を記録した結果,貯蔵したメジャーがいるコロニーが最も生存期間が長かった.以上の結果から,オオズアリの採餌におけるワーカーの明確な分業体制とメジャーによる食物貯蔵機能が明らかになり,メジャー形態の可塑的変異も確認された.メジャーカーストは餌の解体や栄養貯蔵に重要な役割を担っており,餌資源の獲得や維持に大きく貢献していると考えられた.
著者
山尾 僚
出版者
佐賀大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

植物は植食者に対して、毛などによる物理的防御や化学物質を含有することによる化学的防御、植食者の天敵を誘引し、植食者を排除させる生物的防御といった多様な防御戦略を進化させてきた。さらに、被食に対する耐性もまた防御戦略の一つとして知られている。本研究では物理的防御形質であるトリコーム、化学的防御形質である腺点および生物的防御形質である花外蜜腺と食物体を備えるアカメガシワ属を材料とし、複数の防御形質を用いた植物の防御戦略を解析する事を目的としている。本年度は、以下の3点を明らかにすることができた。1)前年度に、岡山、沖縄、石垣島のアカメガシワ個体群はそれぞれ異なる防御形質を発達させていることを明らかにした。本年度は新たに奄美大島のアカメガシワ個体群がアリによる生物的防御を発達させていることを解明した。2)岡山、奄美大島、沖縄、石垣島のアカメガシワ実生を用いて被食に対する耐性能力を評価した。その結果耐性能力の大きさは、沖縄株奄美株・石垣株、岡山株の順に高かった。3)被食処理後の光合成速度の時間的変化を調べたところ、'岡山株では光合成能力に大きな変化は確認できなかったが、奄美大島、沖縄、石垣島由来の株では被食処理後に光合成能力が増大した。また、光合成能力の増大の程度は耐性能力と相関していることが判明した。これまでの結果から、アカメガシワの耐性能力は被食後の光合成能力の増大によりもたらされていると考えられた。岡山個体群では主としてアリによる生物的防御を、奄美個体群では生物的防御と耐性、沖縄個体群では物理、化学的防御と耐性、石垣個体群では化学的防御と耐性を発達させていることを解明した。
著者
横田 智 山尾 僚 鈴木 信彦
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.252-263, 2012-10-05 (Released:2018-09-21)

ワーカー多型の進化とその生態学的意義を解明するために,ワーカーに二型(メジャーおよびマイナーワーカー)がみられるオオズアリの分業体制を定量的に解析すると共に,メジャーの重要性が高い餌条件下で,カースト比やメジャー形態の可塑的変化が生じるのかを検証した.室内でサイズの異なる餌(大きい餌:フタホシコオロギ成虫,小さい餌:大きい餌を凍結粉砕したもの)を与え,餌場に現れたワーカーの個体数やメジャー比,行動様式,餌の解体の有無などを観察した.大きな餌を与えた場合,メジャーが餌場に多く現れ,マイナーが運搬行動に従事し,メジャーが解体行動に従事するという明確な分業がみられた.メジャーがいるコロニーでは,ほとんど場合餌が解体されたのに対し,メジャー不在のコロニーでは解体が生じたのはわずかであり,いずれも女王によるものであった.63日間,大きな餌を与えたコロニーと小さな餌のみを与えたコロニーのメジャー比及びメジャーの頭幅を比較したところ,メジャー比には違いはみられなかったが,頭幅には餌の大きさに相関した違いが生じた.腹部に栄養を貯蔵したメジャーがいるサブコロニー,貯蔵していないメジャーがいるサブコロニー,メジャーがいないサブコロニーをそれぞれ飢餓条件に置いて生存率を記録した結果,貯蔵したメジャーがいるコロニーが最も生存期間が長かった.以上の結果から,オオズアリの採餌におけるワーカーの明確な分業体制とメジャーによる食物貯蔵機能が明らかになり,メジャー形態の可塑的変異も確認された.メジャーカーストは餌の解体や栄養貯蔵に重要な役割を担っており,餌資源の獲得や維持に大きく貢献していると考えられた.