- 著者
-
長 雄一
綿貫 豊
- 出版者
- Yamashina Institute for Ornitology
- 雑誌
- 山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.2, pp.107-141, 2002-03-20 (Released:2008-11-10)
- 参考文献数
- 102
- 被引用文献数
-
26
33
北海道の海鳥類の保護及び研究を進めるために,既存の調査報告書を収集して,飛来数あるいは繁殖つがい数といった繁殖地サイズの動向と海鳥類の繁殖に対する人為的攪乱及び自然界での攪乱について分析を行った。北海道では少なくとも12種の海鳥類が繁殖している。繁殖規模の概数は,ウミガラス(Uriaaalge),10つがい以下;エトピリカ(Lunda cirrhata),15つがい;ケイマフリ(Cepphus carbo),100つがい;ウミスズメ(Synthliboramphus antiquus),20つがい以下;ウトウ(Cerorhinca monocerata),300,000つがい;オオセグロカモメ(Larus schistisagus),10,000つがい;ウミネコ(Larus crassirostris),30,000つがい;チシマウガラス(Phalacrocorax urile),25つがい;ウミウ(Phalacrocorax capillatus),3,000つがい;ヒメウ(Phalacrocorax pelagicus),10つがい;オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas),120つがい;コシジロウミツバメ(Oceanodroma leucorhoa),900,000つがいであった。その他にマダラウミスズメ(Brachyramphus perdix)の繁殖については不明である。天売島のウミガラス繁殖地にいた成鳥数は,1938年から1980年の間に年平均で12.2%ずつ減少しており,1981年から1994年の間には年平均で26.6%ずつ減少し,1998年には7つがいが確認されたに過ぎない。モユルリ島のウミガラスについて,その繁殖地にいた成鳥数は1965年から1985年までに年平均で24.8%ずつ減少したが,1985年以来飛来個体が確認されておらず,繁殖地が消失したと考える。さらにモユルリ島エトピリカ繁殖地周辺にいた成鳥数は1960年から1995年の間に年平均で10.0%ずつ減少しており,現在ではユルリ•モユルリ島を中心に15つがい前後が繁殖していると考えられる。ケイマフリでは,天売島において年平均8.8%ずつ,ユルリ島においては14.4%ずつ減少しており,北海道全体の生息数も100つがい程度と考えられることから,この減少傾向が続くと繁殖地の消失も考えられる。その一方で,モユルリ島のウトウ繁殖地サイズは1960年から1996年の間で年平均14.2%ずつ増加していた。過去30年間の間にオオセグロカモメは増加傾向にあると考えられたが,モユルリ島の繁殖地サイズは1982年から減少に転じ,1996年までで年平均7.0%ずつ減少していた。天売島のウミネコは,1980年代には3万つがいが営巣していたが,ネコ等の捕食により1990年代に半減した。その一方で利尻島のウミネコは1987年に新たな繁殖地が形成されて以来,年平均19.5%ずつ増加し,現在では1万つがい以上が営巣するに至っている。調査報告書に攪乱の記述のある繁殖地は14箇所であった。カモメ類あるいはカラス類による攪乱の記述があったのは12箇所,死因が漁網への混獲との記述があったのは8箇所,人為導入されたドブネズミ類あるいはネコによる攪乱の記述があったのは5箇所であった。日本の海鳥類繁殖地の多くは,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律等によって保護されている。しかしながら,繁殖地周辺の採餌域あるいは越冬域といった場所は保護の対象となっていない。そのため,海鳥が混獲しにくい漁具を開発することや,繁殖地周辺での漁業活動を見直すこと,あるいは石油流出事故に対応するたあの体制構築の必要があろう。また,人間によって繁殖地に導入された,あるいは人間の出すゴミによって増加したドブネズミ,ネコ,カモメ類,カラス類等の影響について考える必要があろう。