著者
大門 純平 伊藤 元裕 綿貫 豊
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.95-104, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1 3

The status of seabirds breeding on Daikoku Island, eastern Hokkaido, Japan, was updated. The number of nest burrows of Leach's Storm Petrel Oceanodroma leucorhoa was estimated using nest densities and areas of each habitat in 2014, and was 415,674; about half of the annual population estimates for 1972–1994. The number of nest burrows of the Rhinoceros Auklet Cerorhinca monocerata was estimated similarly, and was 77,734; about 10 times the estimate for 1986. These population changes were due to changes of both nest density and area of habitats. The number of nests of the Slaty-backed Gull Larus schistisagus was directly counted, and was 5–30 in 2014–2018; less than 5% of that recorded annually from 1982–1994 (3,500–8,200 pairs). The number of nests of the Japanese Cormorant Phalacrocorax capillatus was counted directly and was 120–245 in 2014–2018, except 2016; similar to that seen in 1980–2015 (172–321 nests). Disturbance by White-tailed Eagles Haliaeetus albicilla was observed in the colonies of Slaty-backed Gulls and Japanese Cormorants.
著者
長 雄一 綿貫 豊
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.107-141, 2002-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
102
被引用文献数
26 33

北海道の海鳥類の保護及び研究を進めるために,既存の調査報告書を収集して,飛来数あるいは繁殖つがい数といった繁殖地サイズの動向と海鳥類の繁殖に対する人為的攪乱及び自然界での攪乱について分析を行った。北海道では少なくとも12種の海鳥類が繁殖している。繁殖規模の概数は,ウミガラス(Uriaaalge),10つがい以下;エトピリカ(Lunda cirrhata),15つがい;ケイマフリ(Cepphus carbo),100つがい;ウミスズメ(Synthliboramphus antiquus),20つがい以下;ウトウ(Cerorhinca monocerata),300,000つがい;オオセグロカモメ(Larus schistisagus),10,000つがい;ウミネコ(Larus crassirostris),30,000つがい;チシマウガラス(Phalacrocorax urile),25つがい;ウミウ(Phalacrocorax capillatus),3,000つがい;ヒメウ(Phalacrocorax pelagicus),10つがい;オオミズナギドリ(Calonectris leucomelas),120つがい;コシジロウミツバメ(Oceanodroma leucorhoa),900,000つがいであった。その他にマダラウミスズメ(Brachyramphus perdix)の繁殖については不明である。天売島のウミガラス繁殖地にいた成鳥数は,1938年から1980年の間に年平均で12.2%ずつ減少しており,1981年から1994年の間には年平均で26.6%ずつ減少し,1998年には7つがいが確認されたに過ぎない。モユルリ島のウミガラスについて,その繁殖地にいた成鳥数は1965年から1985年までに年平均で24.8%ずつ減少したが,1985年以来飛来個体が確認されておらず,繁殖地が消失したと考える。さらにモユルリ島エトピリカ繁殖地周辺にいた成鳥数は1960年から1995年の間に年平均で10.0%ずつ減少しており,現在ではユルリ•モユルリ島を中心に15つがい前後が繁殖していると考えられる。ケイマフリでは,天売島において年平均8.8%ずつ,ユルリ島においては14.4%ずつ減少しており,北海道全体の生息数も100つがい程度と考えられることから,この減少傾向が続くと繁殖地の消失も考えられる。その一方で,モユルリ島のウトウ繁殖地サイズは1960年から1996年の間で年平均14.2%ずつ増加していた。過去30年間の間にオオセグロカモメは増加傾向にあると考えられたが,モユルリ島の繁殖地サイズは1982年から減少に転じ,1996年までで年平均7.0%ずつ減少していた。天売島のウミネコは,1980年代には3万つがいが営巣していたが,ネコ等の捕食により1990年代に半減した。その一方で利尻島のウミネコは1987年に新たな繁殖地が形成されて以来,年平均19.5%ずつ増加し,現在では1万つがい以上が営巣するに至っている。調査報告書に攪乱の記述のある繁殖地は14箇所であった。カモメ類あるいはカラス類による攪乱の記述があったのは12箇所,死因が漁網への混獲との記述があったのは8箇所,人為導入されたドブネズミ類あるいはネコによる攪乱の記述があったのは5箇所であった。日本の海鳥類繁殖地の多くは,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律等によって保護されている。しかしながら,繁殖地周辺の採餌域あるいは越冬域といった場所は保護の対象となっていない。そのため,海鳥が混獲しにくい漁具を開発することや,繁殖地周辺での漁業活動を見直すこと,あるいは石油流出事故に対応するたあの体制構築の必要があろう。また,人間によって繁殖地に導入された,あるいは人間の出すゴミによって増加したドブネズミ,ネコ,カモメ類,カラス類等の影響について考える必要があろう。
著者
伊藤 元裕 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.140-147, 2008-11-01 (Released:2008-12-09)
参考文献数
28
被引用文献数
5 6

秋季の北太平洋の北海道東部海域は様々な種の海鳥の重要な採餌海域である.この海域の大陸棚,大陸棚斜面および深海域において海鳥の分布を明らかにするために,2003年9月27~29日の3日間,北海道大学水産科学院練習船おしょろ丸によって目視観測を行った.襟裳岬西方は津軽暖流域 (>19℃) であり,東方は親潮域 (<14℃) であった.海鳥の採餌個体数密度は,一次生産が高く餌が豊富であると予測される親潮海域の大陸棚域(フロント域を含む)及び大陸棚斜面域で高かった.これらの海域の中でも,潜水採食種(ウトウ,Puffinus spp.)はフロント域や大陸棚で密度が高く,表面採食種(オオミズナギドリ,コアホウドリ)は大陸棚斜面域で密度が高かった.
著者
風間 健太郎 綿貫 豊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1916, (Released:2021-08-31)
参考文献数
55

洋上風力発電(洋上風発)の健全な運用のためには、建設時に海鳥への影響が大きい場所を事前に予測する必要がある。本総説では、こうした洋上風発センシティビティマップの作成事例を紹介し、その作成手法や活用における課題について解説する。センシティビティマップには、船舶や航空機により取得した長期広域の洋上海鳥分布データをもとに通年にわたる広域のリスク感受性を予測したマップ(大スケールマップ)と、繁殖個体群を対象とした海鳥のトラッキングデータを用いて繁殖期間のリスク感受性を予測したマップ(小スケールマップ)がある。これらのマップは海鳥の分布に種ごとの飛行高度などリスクに関した指標と絶滅リスクなど保全に関した指標を勘案して作られている。海鳥の長期広域的な分布データの蓄積がある場合は大スケールマップが作成できる。小スケールマップは洋上風発建設にともなう対象個体群へのリスクをより詳細に示すことができる。技術的制約から現状では対象種が限られるが、トラッキング手法の進展により今後小スケールマップはより多くの種で作成されることが期待される。小スケールマップにハビタットモデルの手法を応用することで別の年や場所における採食場所や飛行経路を予測できるので、汎用性の高い手法を確立することが可能である。いずれの手法においても、生息地改変によるリスクと風車との衝突リスクは個別に評価されるので、これらの合理的な統合方法の確立が今後の課題である。
著者
綿貫 豊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-11, 2010-03-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
1

気候変化は生物にフェノロジーの変化をもたらし、餌生物と捕食者などの出現の時期がずれること(ミスマッチ)をとおして生物群集に影響を与える。そのため、ミスマッチがおきる条件を理解することはますます重要になってきており、その検証や生態系への影響を知るには、野外における長期研究が不可欠である。この論文では、ミスマッチが生じる原理と陸上生態系と海洋生態系における例をレビューし、ミスマッチがおきる条件について検討した。陸上生態系では、温暖化により森林性鳥類、昆虫や植物のフェノロジーが近年早まっているが、早期化の程度は異なる。異なる物理要因(日長や温度など)がそれぞれに影響するか、ひとつの物理要因が異なる程度にこれらそれぞれの機能グループに影響するため、これらの間にミスマッチが起きている。海鳥の繁殖時期は必ずしも早期化していないが、海氷や海水温などの年変化の影響を受け、海鳥の餌要求が最大になる時期と餌生物の入手可能時期の間にミスマッチが起きることがある。北海道天売島に繁殖するウトウCerorhinca monocerataの餌として重要なのはカタクチイワシEngraulis japonicusである。その長斯研究によって、北半球における異なる気圧分布が、ウトウの産卵時期を決める春の気温とカタクチイワシが入手可能になる時期を決める対馬暖流勢力に影響するため、年によってはウトウの繁殖時期と餌が利用可能になる時期にミスマッチが起こることがわかった。このように、地域気候に影響する大スケールでの気圧分布や海流の変化が、直接また海洋生態系の変化を通じて海鳥の繁殖成績に影響する。しかしながら、いくつかの地域におけるウトウの研究から、そのメカニズムは地域によって異なることもわかった。また、恒温動物である海鳥の活動は環境温度の影響を直接受けることはなく、海鳥が、年ごとに、餌の利用可能性が高くなる時期に繁殖のタイミングをあわせている可能性も指摘されている。そのため、気候変化が海鳥にあたえるインパクトを明らかにするには、地球規模での気候変化が地域の海洋システムと海洋生態系に与える影響を調べるとともに、彼らが繁殖時期を調節する能力とそれを制限する要因を明らかにする必要がある。
著者
酒井 理佐 山田 和佳 西澤 文吾 越智 大介 新妻 靖章 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.57-66, 2023-04-25 (Released:2023-05-11)
参考文献数
45

北太平洋西部の日本列島本州沖にて2014年から2018年に混獲されたコアホウドリPhoebastria immutabilis 96個体とクロアシアホウドリP. nigripes 25個体の胃内容物を調べた.胃内にプラスチックを持っていた個体の割合はコアホウドリ(91%)の方がクロアシアホウドリ(48%)より高く,この傾向は北太平洋中央部での先行研究と同じであり,また,飲み込んでいた硬質プラスチックあるいはレジンペレット各々の重量と長さそれぞれの平均はコアホウドリ(0.073 g, 8.25 mm)の方がクロアシアホウドリ(0.031 g, 5.86 mm)より大きかった.このプラスチック負荷の種間の差が,利用海域と食性の種間差によって説明できるとする強い証拠は,本研究では得られなかった.北太平洋でのこれら2種のプラスチック負荷は,南太平洋西部で混獲された,あるいは海岸に漂着したアホウドリ科より高く,その影響が懸念される.
著者
新妻 靖章 高橋 晃周 黒木 麻希 綿貫 豊
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.145-150,165, 1999-10-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
21
被引用文献数
14 14

野外調査において対象としている鳥種の性を判別することは重要である.しかし,ウミスズメ類は明らかな性的二型を外部形態に,またどちらかの性のみによる繁殖ディスプレイを示さないため,外見から性を判別することは難しい.北海道北西部,日本海に浮かぶ天売島に繁殖するウトウ,73羽(雄34羽雌39羽)の外部形態を計測した後,内部生殖器によって性を判別した.嘴高,頭長とフショ長において,雄の方が有意に大きいという性的二型が認められたため,増加ステップワイズによる判別分析を試みた.その結果,以下の式が得られた.D=114.22-3.25BD-0.64HL(F2.70=71.96,p<0.001,BD:嘴高,HL:頭長)判別式が,D<0のとき雄,D>0のとき雌とウトウは性別され,雄,雌の判別率はそれぞれ91.2%と100%であった.しかし,外部形態は同一種であっても繁殖地間で異なることが知られているので,天売島以外で繁殖する個体にこの判別式を適用するには注意する必要がある.外部形態から性を判別することの利点は,野外調査において,その場で性を判別し実験操作を可能とするところである.
著者
高田 秀重 綿貫 豊
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

海洋漂流プラスチックおよび海岸漂着プラスチック中に添加剤由来および周辺の海水中から吸着してきた有機汚染物質が1ng/g~10000ng/g程度の濃度で含まれることを明らかにした。これらの有機汚染物質はプラスチックが生物に摂食された場合に、生物の組織中に移行することを、海鳥を対象にして、明らかにした。添加剤由来の化学物質の海鳥への移行において、海鳥の胃内のストマックオイルという油に富む消化液による溶出が鍵となっていることを室内溶出実験により明らかにした。今後、摂食プラスチックを介した化学物質の生物への曝露について、その規模と広がりを明らかにしていく必要がある。
著者
倉沢 康大 本田 聡 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.216-227, 2011 (Released:2011-10-26)
参考文献数
44
被引用文献数
4 6

A survey of the at-sea distributions of 1) planktivorous Short-tailed Shearwater Puffinus tenuirostris, migrating to their northern summering area and 2) piscivorous Rhinoceros Auklet Cerorhinca monocerata, breeding in the northern Sea of Japan off Hokkaido, was carried out by ship, from 16 to 28 May 2008. Avian censuses were combined with: acoustic surveys aimed at measuring prey density, and sea surface temperature (SST) surveys. Surface Chlorophyll a distribution was obtained using satellite imagery. The density of shearwaters was correlated positively with 200 kHz SA (the index of density of zooplankton including krill) at the 10 km scale, and 200 kHz SA was correlated negatively both with SST and Chlorophyll a. However, shearwater densities were not correlated significantly with SST and Chlorophyll a. The result suggest that migrating shearwaters may be able to find patches of krill in cold water. In contrast, the density of Rhinoceros Auklets was not correlated with 38 kHz SA (the index of pelagic fish density) or 200 kHz SA at any scale.
著者
綿貫 豊 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.31-35, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
22

要旨: 環境化学分野では環境汚染のモニタリング、影響評価、コントロールのためにこれまで数多くの研究がなされてきた。その結果、過去に排出され未だに環境中に蓄積している物質に加え、新規に開発・合成された化学物質の影響により、生態系における汚染は今現在も進行しており、野生生物に対する影響も時として甚大になることが明らかとなってきた。一方、自然界における汚染物質の挙動は、親水性などの汚染物質の性質だけでなく、汚染物質を摂取した動物の生理・行動特性や汚染物質が取り込まれた食物網や生態系によっても異なるので、その理解には生態学的視点が欠かせない。従来、環境汚染物質の影響評価は毒性試験を通した催奇形性や致死率の評価、あるいは自然界における残留蓄積量の評価に焦点があてられてきたが、生態学は個体群・群集・生態系といったより複雑な系を対象とした影響評価に貢献できるだろう。このシンポジウムではさらに、リスク削減や回避の目標を明確にした上で、モニタリングと影響評価のコストを組み込んだ現実的対応策にもとづいた「順応的管理」の考えを導入することや、汚染物質に対する感受性の種内変異を考慮した集団遺伝学的アプローチなどを取り入れることが提案された。
著者
倉沢 康大 板橋 豊 山本 麻希 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.137-141, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2 5

繁殖地を離れて1週間にもおよぶロングトリップ中にミズナギドリ類は餌の大部分を消化・吸収し,吸収しづらいトリアシルグリセロール(TAG)やワックスエステルを胃油として胃に蓄積する.胃油のもととなる餌生物を特定するため,胃油中のTAGの脂肪酸組成を新潟県粟島で育雛中のオオミズナギドリにおいて分析し,潜在的な餌の脂肪酸組成と比較した.胃油の脂肪酸組成は,カタクチイワシあるいはサンマに似ていたが,他の外洋性の生物を食べた可能性も完全には否定できない.この2種だけを食べたと仮定すると,その比率はオイルベースでカタクチイワシが77%,サンマが24%と推定された.
著者
宮下 和士 三谷 曜子 綿貫 豊 米崎 史郎 服部 薫
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

北方海洋生態系を広く回遊し,摂餌を行っている海鳥や海棲哺乳類などの高次捕食者をモデルとして,様々な計測機器や分析によりモニタリングを行った.各種において回遊や摂餌生態は個体・地域によって様々であり,このような違いが繁殖成功や生残を左右する可能性が考えられた.また,高次捕食者の生態を通じて,海洋生態系の変動を捉えることができた.今後もモニタングを続けていくことで,我々の目には見えにくい海の中での生態系変動を把握することができるようになるだろう.
著者
綿貫 豊 佐藤 克文 高橋 晃周 岡 奈理子 高田 秀重
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

海鳥の移動と体組織の汚染物質をつかって汚染分布をモニタリングする新しい手法を開発した。ミズナギドリ類2種130個体以上をバイオロギング手法で追跡した。繁殖期において、尾腺ワックス中の残留性有機汚染物質濃度は異なる海域で採食する個体毎に異なり、PCBs,DDTs,HCHsでそのパタンが違った。越冬中に生える羽の水銀濃度にも、異なる海で越冬期を過ごす個体毎で差があった。これらの地域差は汚染物質の放出源と拡散によって説明できた。この手法によって海洋汚染を海洋区プラニングで必要とされる空間スケールで測定できる。
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。