著者
新原将義 太田礼穂 広瀬拓海 香川秀太 佐々木英子 木村大望# 高木光太郎 岡部大介#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

企画趣旨 近年,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(ZPD)」概念はホルツマンによって「パフォーマンス」の時空間として再解釈され,注目を集めている(e.g., Holzman, 2009)。パフォーマンスの時空間という考え方によってZPDは,支援者によって「測定」されたり「支援」されたりするものから,実践者らによって「創造」されるものへと転換したといえるだろう。 こうした潮流において現在,パフォーマンスの時空間を創造するための手法として,インプロ及びそれを題材としたワークショップ形式の実践が注目されている(Lobman& Lundquist, 2007)。こうした試みの多くは,単発的な企画として実施される(e.g., 上田・中原,2013;有元・岡部,2013)。 こうしたインプロ的な手法は,確かに対象についての固定化された見方から脱し,新たな関係性を模索するための手法として有用なものであり,また直接的には協働しないがその後も互いに影響し合う「触発型のネットワーク」を形成する場としての機能も指摘されつつある(青山ら,2012)。しかしインプロやワークショップを,単発の企画としてではなく実践現場への長期的な介入の手法として捉えた場合,ただインプロ活動やワークショップを実施するのみではなく,「それによって実践現場に何が起こったのか」や,「インプロやワークショップは実践現場にとって“何”であったのか」,そもそも「なぜ研究者の介入が必要だったのか」といったことも併せて考えていく必要がある。インプロという手法がパフォーマンスや「学びほぐし」のための方法論として広まりつつある今,問われるべきは「いかにインプロやワークショップ的な手法を現場に持ち込むのか」だけではなく,「パフォーマンスという観点からは,介入研究はいかにあり得るのか」や「インプロやワークショップの限界とは何か」といった問いについても議論するべきであろう。 社会・文化的アプローチではこれまでも,コールの第五次元(Cole, 1996),エンゲストロームの発達的ワークリサーチ (Engeström, 2001) など,発達的な時空間をデザインすることを試みた先駆的な実践が複数行われてきた。本企画ではこうした知見からの新たな取り組みとして,パフォーマンスの時空間の創造としての介入研究の可能性について考える。長期的な介入の観点としてのパフォーマンス概念の可能性のみではなく,そこでの困難や,今後の実践の可能性について,フロアとの議論を通して検討したい。公園で放課後を過ごす中学生への“学習”支援:英語ダンス教室における実践の記録広瀬拓海・香川秀太 Holzman(2009)の若者を対象とした発達的活動には,All Stars projectにおける「YO!」や,「ASTSN」といった取り組みがある。これらの背景には,学習・発達を,社会的・制度的に過剰決定されたアイデンティティや情動をパフォーマンスによって再創造することとしてとらえる哲学および,このような意味での学習・発達の機会を,学校外の場において社会的に奪われた人種的マイノリティの若者の存在がある。近年,日本においても経済的な格差が社会問題化しはじめている。これらの格差は,日本においても子ども達の学校外の体験格差としてあらわれ,特に情動性・社会性といった面での発達格差をもたらすと考えられる。 話題提供者はこのような関心のもと,2014年3月から,放課後の時間に公園で屯する若者を主な対象とした計6回の活動を実施してきた。これは,調査対象者の「英語学習」に対する感情の再創造を目的として,彼らが「興味あること」として語った「ダンス」を活動の基礎に,外国人ダンサーがダンスを英語で教える学習活動を組織したものである。外国人ダンサーとのやりとりの中で,子ども達がデタラメや片言で英語を「話している」状態を作り出すことによって,学校での経験を通して形作られた彼らにとっての英語学習の意味が解放され,新たに創造されることが期待された。 本シンポジウムでは特に,これらの活動に子ども達を参加させることや,ダンスというアクティビティに子ども達を巻き込むうえでの困難に注目してこの活動の経過を報告する。そしてそれらを通して,日本においてこのようなタイプの学習の場を学校外に組織していく上で考慮すべき点について議論したい。パフォーマンスとしてのインプロを長期的に創造し続ける: 方法論から遊びの道具へ木村大望 話題提供者は,2010年10月にインプロチームSAL-MANEを組織した。発足当初のチームは,子どもから大人までを対象とした対外的なワークショップ活動を積極的に行っていた。インプロは「学びほぐし」の方法であり,それを通じた自他の学びや変容が関心の中心であった。しかし,2012年に話題提供者が海外のインプロショーを鑑賞したことをきっかけに,チームは定期公演を主軸としたパフォーマンスとしてのインプロの追究へ活動の方向性をシフトさせた。ここでインプロはチームにとって「遊び」の道具となり,それ以前の方法論的理解は後景に退くこととなった。それに伴い,チームの活動は対外的なワークショップ活動から対内的な稽古的活動に転換していく このようにSAL-MANEの活動はインプロを方法論的に用いて第三者の学習を支援するための場づくりから,チームに携わるメンバー自らがパフォーマンスを「創造」する場づくりへ変遷している。この背景には,インプロに対するメンバーの理解や認識の変化が密接に関連している。インプロを手法として用いながら,自らがインプロによって変容した事例と言えるだろう。 本シンポジウムでは,この経過の中で生じた可能性と課題・困難について報告する。パラダイムシフトする「場」:21世紀のドラマへ佐々木英子 2000年前後から,同時多発的に世界各地で急速に発達してきた応用演劇という分野がある。この多元的な分野は,演劇を応用した,特定のコミュニティや個人のための参加者主体の参加型演劇であり,産業演劇とは一線を画している。この現象は,急速なグローバルチェンジの波を生き延びるための,多様性の中で相互作用によりオーガニックに変容し,持続可能な未来を「再創造」しようとする人類の知恵かもしれない。 話題提供者は,英国にて,応用演劇とドラマ教育を学ぶと共に,それに先駆け,2000~2003年,この21世紀型ドラマの「場」を,社会への「刺激」として,勉強会を行い身の丈で提案活動をした経験がある。社会から突然変異と見られたその活動は,子ども時代,正に「ZPD」において手を差し伸べられず,発達しようとする内的衝動が抑圧され腐らされるような苦痛の中,どうすれば生き延びるかを,体験と観察,思考を積み重ねた末に行った自分なりの代替案でもあった。 本シンポジウムでは,提案活動のきっかけとなった自身の子ども時代のドラマ体験,2001年の発達障害の子ども達が参加した演劇,また,最近では2014年に中学校で行った異文化コミュニケーション授業を通して経験・観察された可能性や困難などについて報告する。
著者
井出 将弘 市野 順子 横山 ひとみ 淺野 裕俊 宮地 英生 岡部 大介
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:21888760)
巻号頁・発行日
vol.2021-HCI-194, no.1, pp.1-8, 2021-08-16

コンピュータを介したコミュニケーションは対面と比較して社会的手がかりが少ないため,より率直な議論を促進することがわかっている.しかしながら,VR 空間におけるアバターを介したコミュニケーションがグループディスカッションにどのような影響を与えるかは十分に調査されていない.本研究では,4 人組 24 グループ 96 名の参加者を対象とした実験を行い,3 つの実験条件(ビデオチャット,参加者の写真から生成したアバターを用いた VR,性別や年齢等の外見上の社会的手がかりがないアバターを用いた VR)を用いてグループディスカッションを行った.その結果,参加者の総発話長を元にした参加のバランスの分析結果において,性別や年齢等の外見上の社会的手がかりがないアバターは社会的手がかりがあるアバターと比較して参加者の議論のバランスの均衡を促進することが分かった.
著者
大谷 紀子 岡部 大介 白井 大輔 高田 志麻 沼尾 正行
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.21-22, 2017-03-16

アーティストの潜在的な創造性を刺激し,創作の幅を広げることを目的として,プロのアーティストの作曲活動における自動作曲システムの活用方法を提案する.本研究で使用する自動作曲システムは,個人の感性に即した楽曲の生成を目的として開発されたもので,特定の感性に響く既存楽曲から共通する特徴を抽出し,進化計算アルゴリズムにより抽出した特徴を反映した楽曲を生成する.入力する既存楽曲や,生成楽曲の構成要素の一部をアーティストが指定することで,自身の創作意図を生成楽曲に盛り込む.活用事例として,フォークデュオ「ワライナキ」が共同募金応援ソングを作成した過程を示すとともに,作成された楽曲の印象に関するアンケート調査結果を報告する.
著者
岡部 大介
出版者
昭和女子大学
巻号頁・発行日
2001

博士論文