著者
川瀬 博 松島 信一 長嶋 史明 宝 音図
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-17

今回の熊本地震における被害の発生要因を理解するため、我々は4月29日から5月1日にかけて、益城町および西原村において、被害状況の観察と微動調査、および余震観測点の敷設を行った。まず益城町役場周辺の被害集中の原因に関して推察することができるだけの情報を抽出したので、それらの結果をもとに被害集中の原因に関する仮説の構築を行った。まず益城町中心部での被害集中の特徴を調査結果に基づいて整理した。益城町中心部での被害は、東西方法は国道443号線の西から始まり県道235号線の東まで(約1.5km~2km)、南北方向は県道28号線の両側、幅約±300mの領域に広がっている。その特徴は以下の通りである。①被害集中域では、旧耐震の構造物だけでなく、新耐震の構造物も被害を受けている事例がある。②一方、旧耐震の構造物でも外見上大きな被害が見られず生き残っている建物も多数存在している。③子細に見ると被害域は東西方向に帯状に分布し、ある程度連続している。④倒壊した建物の倒壊方向は高い確率で東西方向となっている(添付写真)。転倒した墓石もほぼ東西方向(断層並行方向)に転倒している。⑤被害集中域の東西ラインを横切る南北方向の舗装道路においてはほぼ必ず顕著な地盤変状が見られる。次に益城町の被害集中域において、約100m間隔で格子状に700m✕1kmの領域で微動計測を行った。益城町役場を中心とする南北測線の北端・中央・南端の3地点での水平上下比(MHVR)を比較したところ、観測されたMHVRは2~3Hz付近にピークを持ち、そのピークレベルは約4~5倍であり、地下構造にはそれなりのインピーダンスコントラストがあることを示唆しているが、3地点でのMHVRの違いはわずかであり、それをもたらしている表層地盤の空間的差異で被害集中を説明することはできない。さらに、益城町役場に置かれていた自治体震度計の観測波形を用いて、兵庫県南部地震の観測被害に対して構築した木造2階建用の非線形応答解析モデルにより、推定被害率を計算した。その結果、前震・本震いずれもEW成分に対してより大きな被害が発生するという結果が得られた。またその計算被害率は最大の被害率が計算された本震のEW成分に対しても高々30%程度に収まり、決して大きな破壊力を持った地震動とは言えないことがわかった。以上の調査結果、および本震発震点座標、さらに産総研GSJがまとめた活断層マップとInSARの地殻変動図を参照すると、今回の益城町中心部における被害集中は、観測された強震動そのものが原因というよりも、強震動とそれに伴って発生した地殻変動およびそれによる地盤変状の発生が複合的に作用した結果、生じたものと推察される。その理由は以下の通り。1)地震動は確かに強烈だが、観測されているほどの大被害を出すレベルではない。2)横ずれ断層で卓越するはずの断層直交成分ではなく平行成分の被害が卓越している。3)被害の帯は東西方向に連続し、南北方向には連続していない。連続する東西方向の被害帯を横切る道路には高い確率で地盤変状が見られた。4)上記被害帯の内側では新耐震の建物も壊れているケースがある一方、その外側では旧耐震の脆弱そうな建物でも軽微な被害に留まっているケースが多く見られる。「地震動のみによる震動被害」ではそうはならないはずである。5)被害集中域の内外で地盤構造に大きな違いがある可能性は低い。6)GSJの活断層マップでは県道28号線沿いに分岐小断層(地震本部報告では木山断層)が引かれている。その西縁は被害集中域のスタート位置に当たる。これは被害集中域では過去の断層変位が広い幅に分布してきたためではないかと推察される。InSARの変動分布も木山断層までは明瞭な線が見いだせるが、その西側では幅1km、長さ2kmにわたって変動が明瞭でない領域が形成されている。7)本震発震点は上記分岐断層の西側延長上にあり、布田川断層主部に合流するまでの分岐断層が地表変位の北端であるとInSARから推定できる。謝辞本報告には科学研究費補助金、特別推進研究費(代表者:清水洋)によるサポートを受けた。微動調査には川瀬研究室・松島研究室の学生諸君の協力を得た。記して感謝の意を表す。
著者
松島 信一 川瀬 博
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.534, pp.33-40, 2000
被引用文献数
15 12

We simulate strong motions in Kobe during the Hyogo-ken Nanbu (Kobe) earthquake of 1995 using a multiple asperity source model and a three-dimensional (3-D) basin structure. We derive a relatively simple rupture process, which consists of four asperities, using theoretical synthetics so that it matches the deconvolved bedrock motion at JMA Kobe. A realistic 3-D basin structure is constructed based on the exploration data. A 3-D finite difference method with fourth ordered staggered-grid scheme developed by Graves (1996) is used. The results show that with the combination of a relatively simple four asperity model and a 3-D basin structure, it is possible to reproduce strong ground motions in a wide area quite accurately. Peak velocity distribution is very similar to the JMA intensity distribution. From these results we confirm that we can reproduce strong ground motion in Kobe quite quantitatively by using a relatively simple source model that efficiently generate 1 second velocity pulses, together with a realistic 3-D basin structure.
著者
佐藤 智美 佐藤 俊明 川瀬 博 植竹 富一
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.63, no.506, pp.83-92, 1998-04-30 (Released:2017-02-02)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

Using more than two hundred JMA-87 type strong-motion records we show that pseudo-velocity response spectra are noticeably different from Fourier acceleration spectra in several occasions because response spectra are sensitive to other frequency components or attenuation due to dispersion but insensitive to duration. Therefore, regression coefficients such as magnitude coefficients, attenuation coefficient, and site amplification factors for response spectra and Fourier spectra show clear differences. We conclude that physical characteristics of strong motion cannot always be represented by the regression coefficients for response spectra.
著者
松島 信一 川瀬 博
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.534, pp.33-40, 2000-08-30 (Released:2017-02-03)
参考文献数
19
被引用文献数
9 12

We simulate strong motions in Kobe during the Hyogo-ken Nanbu (Kobe) earthquake of 1995 using a multiple asperity source model and a three-dimensional (3-D) basin structure. We derive a relatively simple rupture process, which consists of four asperities, using theoretical synthetics so that it matches the deconvolved bedrock motion at JMA Kobe. A realistic 3-D basin structure is constructed based on the exploration data. A 3-D finite difference method with fourth ordered staggered-grid scheme developed by Graves (1996) is used. The results show that with the combination of a relatively simple four asperity model and a 3-D basin structure, it is possible to reproduce strong ground motions in a wide area quite accurately. Peak velocity distribution is very similar to the JMA intensity distribution. From these results we confirm that we can reproduce strong ground motion in Kobe quite quantitatively by using a relatively simple source model that efficiently generate 1 second velocity pulses, together with a realistic 3-D basin structure.
著者
齋藤 秀樹 今井 英行 中口 努 久後 地平 川瀬 博隆 竹岡 政治
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大學學術報告. 農學 (ISSN:00757373)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.46-58, 1989-11-18
被引用文献数
8

林分1ha当りの生殖器官各部分の生産量(乾重と個数)について, ミズナラの若齢Y林分と老齢O林分とを比較し, 種子生産に関係する要因を考察した。各部分の生産量はトラップ法で測定し, 花粉については開花前の雄花序試料に含まれる花粉量と林分の開花雄花序数を掛けて求めた。調査は若齢林が3年間, 老齢林は5年間行った。主な知見は次の通りである。(1) 落果は多く, 8月末で80&acd;90%に達した。これは同化物質の節約になる。(2) 雄花序1個当りに含まれる花粉量は年によって9.3&acd;16mgと0.8&acd;1.2×(10)^6個の範囲にあった。(3) 乾物生産量(kg/ha・yr)は次の通りである(左側が若齢林, 右が老齢林。括弧内は平均値)。開花雄花序(花粉なし) : 7.7&acd;38.5(20.1);17.8&acd;55.9(42.2)。花粉だけ : 11&acd;43(26);24&acd;78(61)。雌性部分 : 81.7&acd;544.4(244.2);25.7&acd;256.4(158.8)。生殖器官合計 : 100&acd;625(291);68.0&acd;379(262)。(4) 各部分の乾物生産量の年次変動は3&acd;10倍(最大値/最小値)であった。しかし老齢林では, 連続4年間の雄花生産の変動は小さく(1.3倍), これはアカマツ林の場合に似ていた。(5) 雄性部分の乾物生産量が生殖器官全体に占める割合は, 若齢林が20%前後, 老齢林では種子豊作年に30&acd;40%で, 凶作年には60%前後を示した。(6) 花粉の乾物生産量は, 開花雄花序(花粉をのぞいた残り)より数%&acd;10%多い。(7) 花粉粒の生産量(個/ha・yr)を求めると若齢林が1.2&acd;5.3(平均2.9)×(10)^<12>, 老齢林2.8&acd;7.9(同5.2)×(10)^<12>となった。この最大値はスギ, ヒノキのそれより少ない。しかし, ミズナラの年次変動はこの2樹種より小さい。老齢林の値はアカマツ林にほぼ一致している。(8) 雄花序, 花粉粒, (総)雄花の個数生産量の年次変動は大きかったが, 雌花に対する雄花序及び花粉粒の数比は2倍以内の小さな変化であった。雌花1個に対して放出された花粉粒は若齢林が1.3&acd;2.4×(10)^6個, 老齢林1.9&acd;4.3×(10)^6個である。既報の2老齢林を加えた比較から, 林分によって雄花対雌花の比率に著しい偏りがあり, これは林齢と無関係であった。(9) 種子の豊作年には結実率が高かった。結実率の上昇は, 巨視的には放出される花粉粒の多少に関係がありそうである。これは将来, 解明しなければならない問題である。
著者
仲野 健一 川瀬 博 松島 信一
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1_38-1_59, 2015 (Released:2015-02-25)
参考文献数
51
被引用文献数
2

スペクトルインバージョン手法に基づき加速度フーリエスペクトルから分離抽出された強震動特性の性質について詳細な検討を行った。伝播経路特性としてのQモデルについて既往の研究と比較し、減衰傾向の新たな知見が得られた。また、サイト増幅特性の方位依存性について検討したが、約2Hz以上の高周波域でNS/EW比が2倍 (あるいは0.5倍) 程度になる観測サイトがあることがわかった。分離した震源スペクトルからコーナー周波数fcを読み取り、Brune (1970)の応力降下量および短周期レベルAを計算した結果、川瀬・松尾 (2004)の先行研究との間に顕著な差はないこと、本震と余震の応力降下量には地震モーメント依存性がみられること、壇・他 (2001)の地殻内地震の短周期レベルとは回帰式にもばらつきに対するt検定にも有意な差があること、佐藤 (2003)の短周期レベルとは地殻内地震のばらつきに対するt検定を除いて有意な違いがないことがわかった。
著者
川瀬 博 井上 公 茂木 透 倉本 洋 山崎 文雄 吉嶺 充俊
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2006

2006年5月27日インドネシアのジャワ島のマグニチュード(M)6.3の地震によって、死者は5,700名以上、倒壊家屋14万戸以上という大被害が生じた。今回の地震被害の特徴は、地震規模が小さい割には極めて大きな人的、物的被害が発生していることである。そこで本研究では、震源位置を含めた震源特性や地盤構造・地盤特性を明らかにし、構造物の耐震性や被害状況からこのような大きな被害を引き起こした原因を解明することを目的として研究を実施した。研究体制は大きく地震・地震動チーム、地盤構造チーム、被害概要・人的被害調査チーム、建築系調査チーム、土木系調査チームに別れ、現地調査および国内での解析作業を実施して検討に当たった。まず地震・地震動チームでは余震観測を実施して余震の発生域を同定するとともに、地震観測データを利用して、詳細な震源メカニズムを推定した。その結果震源域は被害集中地域の直下もしくはその西側と推定され、Opak断層にはつながらないことが指摘された。地盤構造については、地磁気・地電流法によって基盤形状を含めた堆積構造を明らかにするとともに、微動計測によって表層地盤構造を明らかにした。その結果、場所による被害の差は主に表層地盤構造にあることが指摘された。建築構造物に関しては、まず地震前後に撮影された衛星画像を用いたリモートセンシング技術により、広域被害分布を明らかにした。また建物の地震被害について、実際の施行実態や地盤状況などから分析を行い、特にRC造および煉瓦造のいくつかの建物について原位置での強度試験を行うなどして、建物の耐震性を詳細に調査した。また土木系構造物・地盤・ライフライン等の被害状況も調査しその被害原因について考察した。以上の検討結果から、今回の地震では最大でも震度6弱レベルでそれほど大きな入力ではなかったが構造物が脆弱なために大被害が生じたものと推察された。
著者
林 康裕 宮腰 淳一 田村 和夫 川瀬 博
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.62, no.494, pp.59-66, 1997
参考文献数
20
被引用文献数
14 5

We developed a relationship between calculated peak ground velocities (PGV) and damage ratios of residential houses in the Chuo-ward, Kobe, during the 1995 Hyogo-ken Nambu earthquake. Using the relationship, we evaluated the PGV distribution in the whole Hanshin area, and demonstrated that it corresponded to the PGV of observed records. The PGV was estimated to be more than 110 cm/sec in the damage belt. Finally, we discussed the records observed in an office building near the JR Kobe station and compared them with the PGV calculated from the damage ratio of houses. We concluded that the PGV of the record should be much smaller than that in the damage belt zone.