著者
池上 和範 江口 将史 大﨑 陽平 中尾 智 中元 健吾 日野 亜弥子 廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.74-82, 2014 (Released:2014-06-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

目的:本研究の目的は,若年労働者のメンタルヘルス不調の特徴を明らかにし,実効的なメンタルヘルス対策を検討することである.方法:国内の産業医386名に無記名の自由回答式質問票を送付し,109名から回答を得た.質問票は,産業医として対応したメンタルヘルス不調者の年齢階層別の特徴に関する設問と,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する2つのパートで構成された.全ての回答をデータ化し,質問毎に頻出語句とその出現数を数えた.前者に関しては,各年齢階層と頻出語句の関連性を検討するために統計学的処理を加えた.後者では,共同研究者および研究協力者10名にて,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する記述を整理した.結果:コレスポンダンス分析において,20歳代の周辺には,性格,未熟,他罰的,発達障害,統合失調症,新型うつ病,不適応,入社,社会,上司,同僚などの語句が布置された.30歳代では業務の質的負担,量的負担といった仕事に関する語句,40歳代は家庭,子供,介護といった職場外要因に関する語句が布置された.若年労働者に対して実施した対策は,教育と面談に関する記述が頻出したが,その効果は不明であるという回答が最も多かった.複数名の回答者から,上司や人事担当者,産業医といった職場関係者と若年労働者の家族との連携により家族の支援の向上が認められたという回答が得られた.考察:若年労働者のメンタルヘルス不調は,職場への不適応や未熟で他罰的な性格といった個人的要因や精神障害,労働者の背景や職場組織に関する職業性ストレスといった様々な要因の影響を受けていることが示唆される.職場と家族との連携は若年労働者にとって重要なメンタルヘルス対策となる可能性がある.
著者
永田 頒史 廣 尚典 真船 浩介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.109-121, 2009-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

職場のメンタルヘルス対策の有効性を調べるために,1次予防(疾病の発生予防),2次予防(早期発見・早期対処),3次予防(疾病管理,復職支援)のアプローチ事例を対象として比較検討を行った.1次予防に関しては,2004年にメンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)を開発し,2005年度に15事業場9,800名を対象として,職場環境改善のための介入的アプローチを行い,2006年度に効果評価を行った.改善が行われた部署では,ストレスの軽減がみられた.費用便益の評価では,6社中4社で疾病休業は減少していたが,今回用いた計算法では2社のみが黒字であった.また,継続的な管理職研修を含めた総合的対策により,休職事例数が半減した.2次,3予防に関しては,3事業場の相談事例162名および臨床事例113例に対する比較調査を行った.事業場の事例に関しては55.6%,臨床事例に対しては20.4%に対して職場調整を行ったが,前者のほうが有意に有効事例が多かった.転帰に関しては,事業場事例のほうが治癒率は有意に高かった.
著者
池上 和範 田川 宜昌 真船 浩介 廣 尚典 永田 頌史
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.120-127, 2008 (Released:2008-08-08)
参考文献数
18
被引用文献数
5 6

積極的傾聴法を取り入れた管理監督者研修による効果:池上和範ほか.産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学研究室―今回,我々は従業員数1,900名の電子機器製造業A事業場の管理監督者に対し,積極的傾聴法を取り入れたメンタルヘルス研修(以下,管理職メンタルヘルス研修と略す)を実施した.本研究の目的は,この管理職メンタルヘルス研修の管理職への効果,及び職場への効果について検討することである.対象は,A事業場において一般労働者を直接管理する全ての者とした.管理職メンタルヘルス研修は2006年9月から11月に実施し,調査は2006年5月から2007年2月に行った.研修内容は,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年厚生労働省)の“管理職への教育研修・情報提供”に掲げられている項目を,2回に分けて実施した.“労働者からの相談対応”の項目として積極的傾聴法を掲げ,1回目にその解説,2回目に発見的体験学習による実習を行った.更に,産業保健スタッフが作成した積極的傾聴法や研修に関する資料を研修実施1ヶ月後配布した.研修の効果指標として,全受講者に対し,積極的傾聴態度評価尺度(ALAS)を研修実施前後に実施し,他に研修内容に関する質問票調査,研修後の積極的傾聴に関する意識・行動変容に関する質問票調査を行った.更に,A事業場の従業員を対象に職業性ストレス簡易調査表(BJSQ)12項目版を管理職メンタルヘルス研修実施前後に調査を実施した.ALASは,有効な回答が得られた124名の結果を用い,BJSQ12項目版は協力が得られた約1,300名のうち,有効な回答が得られた908名を分析対象とした.ALASは,調査時点の主効果で有意差は認められなかったが,「傾聴の態度」,「聴き方」ともに平均値の上昇を認め,特に,「聴き方」は有意傾向であった.BJSQ12項目版では,「仕事の量的負担」,「上司の支援」,「同僚の支援」は調査時点の主効果で研修実施後に有意に上昇していた.特に「上司の支援」について,所属課毎の比較で研修開催後に有意に上昇していたものは全47課中8課認められた.今回の結果より,研修受講者が職場において積極的傾聴を実践し,相談対応の充実を図ることで,「上司の支援」が強化された可能性が示唆された. (産衛誌2008; 50: 120-127)
著者
池上 和範 江口 将史 大﨑 陽平 中尾 智 中元 健吾 日野 亜弥子 廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.E13003, (Released:2014-04-02)
被引用文献数
2 1

目的:本研究の目的は,若年労働者のメンタルヘルス不調の特徴を明らかにし,実効的なメンタルヘルス対策を検討することである.方法:国内の産業医386名に無記名の自由回答式質問票を送付し,109名から回答を得た.質問票は,産業医として対応したメンタルヘルス不調者の年齢階層別の特徴に関する設問と,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する2つのパートで構成された.全ての回答をデータ化し,質問毎に頻出語句とその出現数を数えた.前者に関しては,各年齢階層と頻出語句の関連性を検討するために統計学的処理を加えた.後者では,共同研究者及び研究協力者10名にて,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する記述を整理した.結果:コレスポンダンス分析において,20歳代の周辺には,性格,未熟,他罰的,発達障害,統合失調症,新型うつ病,不適応,入社,社会,上司,同僚などの語句が布置された.30歳代では業務の質的負担,量的負担といった仕事に関する語句,40歳代は家庭,子供,介護といった職場外要因に関する語句が布置された.若年労働者に対して実施した対策は,教育と面談に関する記述が頻出したが,その効果は不明であるという回答が最も多かった.複数名の回答者から,上司や人事担当者,産業医といった職場関係者と若年労働者の家族との連携により家族の支援の向上が認められたという回答が得られた.考察:若年労働者のメンタルヘルス不調は,職場への不適応や未熟で他罰的な性格といった個人的要因や精神障害,労働者の背景や職場組織に関する職業性ストレスといった様々な要因の影響を受けていることが示唆される.職場と家族との連携は若年労働者にとって重要なメンタルヘルス対策となる可能性がある.
著者
廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-6, 2001-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
20
被引用文献数
3 5

本稿は, 職場のストレス対策において管理監督者が担うべき役割を論じた過去の文献を概観し, それを推進するための教育研修のあり方をまとめた.従来から職場で行われるストレス対策およびメンタルヘルス対策の多くで, 管理監督者教育は, 重要な活動のひとつとして位置付けられている.その効果についても, 職場のストレスの軽減や労働者の仕事に対する満足度の向上の面で, 高く評価する報告がみられる.しかしながら, その数はまだ多くなく, 前向きの介入研究により評価を行った研究報告は極めて少ない.さまざまな管理監督者教育プログラムの有用性に関する検討は今後の課題といえる.また, 最近多くの企業で組織や勤務形態などに変化がみられており, 従来型の上司-部下関係も徐々に変貌しつつある.それに伴って, ストレス対策において管理監督者に求められる役割も見直される余地があるであろう.
著者
廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.329-340, 2023-11-20 (Released:2023-11-25)
参考文献数
87

わが国において,職場のメンタルヘルスに関する研究は,労働者のメンタルヘルス不調の第三次予防から,第二次予防,さらには第一次予防にまで,その主題を広げてきた.最近では,産業保健以外の領域の議論も取り込む動きがみられ,労働生活の質の向上や,組織の活性化といった,ゼロ次予防とも呼ばれる範疇の視点を持つものも散見される.こうした流れを踏まえて,拙論では,まず第三次予防,第二次予防に関する議論の成果であるとともに,研究や実践の基盤にもなってきたメンタルヘルス不調に係る用語,概念をまとめた.次に,1990年代以降の数々の研究で用いられてきた,仕事関連のストレスとそれがもたらす影響に関する主要なモデル,精神健康(不調)の指標などを紹介した.これらは,本領域の研究の拡がりに多大な貢献をしたと言える.他方,仕事関連のストレス要因と健康問題との関係に介在する影響因子は多数存在し,社会,文化的なものも少なくない.そのため,わが国で汎用性の高いメンタルヘルス対策の手がかりを得るためには,対象を国内に限定した大規模研究やメタ分析などを含む系統的なレビューが必要である.そうしたことから,第三に,わが国における本領域の代表的な大規模研究を,それらの推進に対する期待を込めて拾い上げた.もっとも,それらがいかに推進されても,その結果を現場での実践にどのように活用するかという課題がなくなることはないであろう.産業保健従事者が自らの担当する職場の実情を把握し,実践に落とし込む努力は重要であり続けるはずである.
著者
廣 尚典
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.95-105, 2018 (Released:2020-12-01)
参考文献数
5

2015年の労働安全衛生法の改正により創設された「ストレスチェック制度」は、労働者のメンタルヘルス不調の第一次予防を主眼としている。しかし、その一部である高ストレス者に対する医師による面接指導は、第二次予防の面も考慮されなければならない。医師面接の対象は、「メンタルヘルス不調」が強く疑われる者および「メンタルヘルス不調」が疑われ,それに影響しているストレス要因として仕事や職場関連の事項が主である者であると考えられる。 筆者らは、3年間の研究により、ストレスチェック制度のうち,医師面接とそれに付随する活動,その後のフォローアップの効果的なあり方を検討し,実施マニュアルに沿って医師面接を円滑かつ効果的に行うためのヒントをまとめた「ストレスチェック制度における医師による面接指導のヒント集」(ヒント集)を作成した。ヒント集は、ぜひ実施すべき「重要事項」、できれば実施したい「勧奨事項」および「留意事項」からなっている。本論の別添として、ヒント集の全文を付した。 産業医は、ストレスチェック制度においても、現場の実態をよく知り、それを踏まえた活動を行える立場からの寄与が求められる。
著者
真船 浩介 廣 尚典 永田 頌史
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.643-649, 2010
参考文献数
20

職場のメンタルヘルス対策では,持続的な効果が期待できる組織的アプローチが求められつつある.職場環境改善は,労働者の心身の健康と生産性の保持増進を目的とした組織的アプローチである.持続的・実効的な職場環境改善を展開するには,労働者の主体的な参画が不可欠である.MIRRORやWINは,主体的な参画と建設的な検討を促すため,労働者のニーズに焦点をあてたポジティブな表現の項目から構成されるツールとして開発されている.これらのツールの特徴を生かした7つのステップに基づく職場風土の改善は,職業性ストレスの変化や精神健康度との関連から,労働者の心身の健康と生産性の保持増進に寄与することが示唆された.今後は,事後対応型のメンタルヘルス対策だけでなく,事前対応型の建設的なストレスマネジメントの科学的根拠に基づく展開と普及が望まれる.
著者
池上 和範 田川 宜昌 真船 浩介 廣 尚典 永田 頌史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.120-127, 2008-07-20
参考文献数
18
被引用文献数
2 6

<b>積極的傾聴法を取り入れた管理監督者研修による効果:池上和範ほか.産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学研究室―</b>今回,我々は従業員数1,900名の電子機器製造業A事業場の管理監督者に対し,積極的傾聴法を取り入れたメンタルヘルス研修(以下,管理職メンタルヘルス研修と略す)を実施した.本研究の目的は,この管理職メンタルヘルス研修の管理職への効果,及び職場への効果について検討することである.対象は,A事業場において一般労働者を直接管理する全ての者とした.管理職メンタルヘルス研修は2006年9月から11月に実施し,調査は2006年5月から2007年2月に行った.研修内容は,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2006年厚生労働省)の"管理職への教育研修・情報提供"に掲げられている項目を,2回に分けて実施した."労働者からの相談対応"の項目として積極的傾聴法を掲げ,1回目にその解説,2回目に発見的体験学習による実習を行った.更に,産業保健スタッフが作成した積極的傾聴法や研修に関する資料を研修実施1ヶ月後配布した.研修の効果指標として,全受講者に対し,積極的傾聴態度評価尺度(ALAS)を研修実施前後に実施し,他に研修内容に関する質問票調査,研修後の積極的傾聴に関する意識・行動変容に関する質問票調査を行った.更に,A事業場の従業員を対象に職業性ストレス簡易調査表(BJSQ)12項目版を管理職メンタルヘルス研修実施前後に調査を実施した.ALASは,有効な回答が得られた124名の結果を用い,BJSQ12項目版は協力が得られた約1,300名のうち,有効な回答が得られた908名を分析対象とした.ALASは,調査時点の主効果で有意差は認められなかったが,「傾聴の態度」,「聴き方」ともに平均値の上昇を認め,特に,「聴き方」は有意傾向であった.BJSQ12項目版では,「仕事の量的負担」,「上司の支援」,「同僚の支援」は調査時点の主効果で研修実施後に有意に上昇していた.特に「上司の支援」について,所属課毎の比較で研修開催後に有意に上昇していたものは全47課中8課認められた.今回の結果より,研修受講者が職場において積極的傾聴を実践し,相談対応の充実を図ることで,「上司の支援」が強化された可能性が示唆された.<br> (産衛誌2008; 50: 120-127)<br>
著者
廣 尚典
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.151-156, 2013-10-01

我が国の産業精神保健活動の歴史を,行政の動向と併せて簡潔に振り返り,今後産業医がそれに対していかなる関わりを持つべきかをまとめた.産業医は,労働安全衛生法規からみても,職場の精神保健活動に関して,幅広い取り組みが求められている.それは精神障害の疾病管理だけに留まらない.精神保健活動のみを担当する産業医を認めることは,現時点では様々な副作用を招きうる.導入の可否に関する慎重な議論が必要である.