- 著者
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張 子見
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2014-04-25
今年度は、当初から研究計画であった、福島第一原子力事故由来のホットパーティクル(HP)の破壊分析に史上はじめて成功した。帰宅困難区域で採取された環境試料から、オートラジオグラフィーによって強放射能源の位置を特定し、最終的に顕微鏡下でHP粒子を取り出した。単離されたHPを、高純度ゲルマニウム半導体検出器で測定し、HPに含まれる放射性セシウムを定量した。この放射能測定の結果から、Cs-134/Cs-137放射能比が得られる。この放射能比は、福島第一原子力発電所の原子炉ごとに異なる値をとるため、それらの値との比較から、今回採取されたHPがすべて一号機から放出されたことが推測できた。アルカリ溶融法によってHPを溶液化したのち、固相抽出―イオン交換法によってSr-90を分離した。分離されたSr-90を含む溶液をチェレンコフ光測定することで、Sr-90の放射能を定量した。これまで、計6つのHPに対して上記のSr-90分析を行った。HPに含まれるSr-90は最大で1.3 Bqであった。また、Sr-90/Cs-137放射能比は、すべて0.0001のオーダーであった。これらの結果から、今回分析対象としたHPのSr-90の含有量は低く、Sr-90による人体への被ばく影響はCs-137に比べて無視できると言える。この傾向は、事故後に行われた大規模な陸域の調査からも知られている。一般的に、原子炉過酷事故において、Csは、核燃料から放出されやすい揮発元素として知られており、Srは、比較的放出されにくい非揮発性核種として知られている。定性的にいえば、SrはCsに比べて核燃料からの放出率が低いために、最終的に環境中に放出された放射性物質のSr-90/Cs-137放射能比は低い傾向にある。これら成果は、測定試料の公開手続きを経て、随時論文化して発表する予定である。