著者
前田 宗宏 五十嵐 勝
出版者
一般社団法人 日本歯内療法学会
雑誌
日本歯内療法学会雑誌 (ISSN:13478672)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.83-90, 2021 (Released:2021-06-15)
参考文献数
71

抄 録 : 垂直性歯根破折 (Vertical Root Fracture : VRF) が長期間放置されると, 当該歯根の破折線に沿って歯周組織の広範な破壊が進行する. このため, 単根歯であれば抜歯, 大臼歯ではルートアンプテーションやヘミセクションなどの対応が普遍的にとられてきた. 1980年代以降では, 4-META/MMA-TBBレジンをはじめとする接着修復材料の開発が進むとともに, 破折歯根や支持歯槽骨の状態により, 破折歯根を口腔内で接着する方法, 破折歯根の口腔外接着再植法といったVRFの保存的治療法が試みられ, さまざまな知見が得られてきた. 歯周組織の炎症が拡大する前であれば保存的治療法の予後も良好となることが報告されている. 加えて, 近年普及が著しいCBCT, 歯科用マイクロスコープ, 超音波振動装置などを応用することで, 新たな展開も期待されている.  歯内療法医としてはVRF治療の現状を踏まえ, 可能な限り歯の延命を図ることが重要と考える. 本稿ではVRFの今日的な保存的治療についてまとめてみた.
著者
五十嵐 勝朗
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.235-239, 2007-04-20 (Released:2011-10-07)
参考文献数
6

新生児には出生直後から, 生きていくための力, すなわち反射が備わっていて, すぐにさまざまな動きをする. 原始反射(新生児反射)は健常な新生児に観察される反射的行動で, 健常な新生児では中枢神経系の発達とともに多くは生後4-5ヵ月で消失する.新生児は胎内あるいは母乳を通して母親から闘う力を得ているが, ウイルスや細菌などに対して自ら闘うほどの力は持っていない. 成長過程において, ウイルスや細菌などに対して白血球が増加したり, 抗体をつくってウイルスや細菌などを排除できるように徐々に力をつけていく.新生児は3-4時間の授乳リズムで寝たり起きたりして過ごし, 昼夜の区別はあまりなく, 1日20時間近く眠る. 睡眠と覚醒が昼夜の周期に同期するようになるのは生後2-3ヵ月頃からである.
著者
種村 健太郎 古川 佑介 大塚 まき 五十嵐 勝秀 相崎 健一 北嶋 聡 佐藤 英明 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-5, 2012 (Released:2012-11-24)

個体の胎生期-幼若期の脳は、その発生-発達段階にある。その期間に、遺伝子という設計図を元にして、脳の基本構造が出来ると共に、神経活動(主に神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナル)による微調整がなされ、脳が完成に向かう。すなわち、脳は「活動」しつつ、その「形態・機能」を完成させていく。従って、この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルのかく乱は、一時的な神経症状を呈するだけに留まらず、脳構造や神経回路の形成過程に影響を及ぼす危険を高める。そして、こうした影響が不可逆的に固定されたまま成長した結果、成熟後に遅発性行動異常等の脳高次機能障害として顕在化することが危惧される。しかしながら、従来の神経毒性評価手法は成熟動物への化学物質投与による急性~亜急性の、痙攣、麻痺といった末梢神経毒性を主対象としており、遅発性の中枢神経機能に対する影響評価への対応は、比較的に立ち遅れてきた。こうした問題に対して、我々は、マウスを用いて、①神経作動性化学物質の胎生期~幼若期暴露、②複数の行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の情動-認知行動解析による行動異常の検出、及び③行動異常に対応する神経科学的物証の収集、により遅発性の中枢神経毒性検出系の構築を進めてきた。 本シンポジウムでは、モデル化学物質として、イボテン酸(イボテングダケ等の毒キノコとされる一部のテングタケ属に含まれる)を用いた解析として、幼若期(生後2週齢)における単回強制経口投与による、成熟期(生後12~13週齢時)の不安関連行動の逸脱、学習記憶異常、情報処理不全といった異常行動と、それと対応する海馬の形態所見、及び遺伝子発現プロファイルについて紹介する。さらに、遅発中枢影響としての異常発現のメカニズム解明を目的とした、イボテン酸投与後の遺伝子発現変動解析結果についても議論したい。
著者
五十嵐 勝秀 大塚(出田) まき 成田 年
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.265-271, 2017-03-01 (Released:2017-03-01)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

Epigenetics has drawn much attention as a mechanism of transcriptional regulation involving modifications to genomic DNA and histone, without changes to nucleotide sequences. Epigenetics is related to various biological phenomena. We defined one of these phenomena as “epigenetic toxicity”, in which chemicals affect epigenetic regulation and result in undesirable effects on living organisms. We then detailed the importance of epigenetics and the need for intensive research. Epigenetics is a mechanism that might explain the long-lasting effects of chemicals in an organism, and the formation of a predisposition to various diseases. Recent significant technological advancement in the study of epigenetics could break through the barrier of the mysterious black box of epigenetic toxicity. However, at present it is difficult to say whether the epigenetic point of view is being fully utilized in the evaluation of chemical safety. In this review, we will first summarize the epigenetic toxicity research field, with examples of epigenetic toxicities and technologies for epigenetic analysis. Following that, we will point out some challenges in which an epigenetic viewpoint may be essential for the evaluation of chemical safety, and we will show some current approaches. We hope this review will trigger a discussion about epigenetic toxicity that will lead to encouraging research advancements.
著者
角竹 功次 吉岡 隆知 北島 佳代子 五十嵐 勝
出版者
一般社団法人 日本歯内療法学会
雑誌
日本歯内療法学会雑誌 (ISSN:13478672)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.126-129, 2015 (Released:2017-09-30)
参考文献数
20

Abstract : We experienced a case of accidental ingestion of a root canal instrument. At first, surgical extraction was suggested by a medical doctor, however, the therapeutic strategy was changed upon presentation of a previously published paper. After ingesting fibrous foods, the patient excreted the instrument naturally on the seventh day. The maintenance of guidelines on accidental ingestion would enable treatment policies to be shared with other medical departments.
著者
池上 大悟 五十嵐 勝秀 大塚 まき 葛巻 直子 成田 年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.225-229, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
46

生物は生きていく上で,外界から絶えず様々なストレスに曝されている.こうした外界からのストレスに対して生体は適切に反応し,外界の変化に適応していく.これは生体レベルだけでなく,細胞レベルでも同様に起こる生命現象であり,後生的な遺伝子修飾機構であるエピジェネティクスの関与が考えられる.エピジェネティクスは,その効果を発揮するための遺伝子配列の変化を必要とせず,膨大なゲノム情報の各所を修飾することにより,転写装置が効率よくアクセスできるようにゲノム情報を制御している.このような制御機構は,外界からの様々なストレスを受けた細胞が,その変化を記憶・保持するために,なくてはならないものである.一方,痛みは急性痛と慢性痛に大別される.急性的な痛み反応は,危害から生体を防御するシグナルであり,『生体防御』に関与する重要なバイタルサインである.それに対し,慢性疼痛は,その病変部位が治癒あるいは修復に向かっている状態にも関わらず断続的に疼痛が認められる症状を示す.慢性的な痛みという不必要な強いストレスに曝されることにより,細胞が誤った変化を記憶し,末梢ならびに中枢神経の各所で不可逆的な神経可塑的変化が生じてしまうのである.これが,いわゆる「難治性」の疾患として認識される状態である.本稿では,慢性的な痛みストレスによる中枢のエピジェネティクス異常について概説することにより,エピジェネティクスの特徴,難治性の疾患に対する関与の可能性について論じる.
著者
新井 恭子 赤松 俊嗣 長谷川 有紀 北島 佳代子 五十嵐 勝
出版者
一般社団法人 日本歯内療法学会
雑誌
日本歯内療法学会雑誌 (ISSN:13478672)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.30-35, 2009 (Released:2017-11-30)
参考文献数
30

Abstract : This case report describes the root development following apexification of an immature tooth. The patient was a 9-year-old girl. The upper right central incisor suffered apical periodontitis with gingival abscess after rapid orthodontic treatment with a removable appliance. The root canal was cleaned by both biomechanical preparation and biochemical preparation with 6% sodium hypochlorite and 3% hydrogen peroxide. After disinfection of the root canal, calcium hydroxide paste was applied. The medicaments were replaced several times during the follow-up term. After five years and six months, radiographic images showed disappearance of the apical lesion and continuous root development. The shape of the root-end was an irregular, sharp-pointed outline with narrow canal. Following confirmation of the calcified apical barrier at the root end by palpation with a K-file, the lateral condensation procedure with a custom cone and canal sealer was done. This report suggests that root development after apexification occurs because of the existence of apical vital tissue even if the tooth is a non-vital tooth with open apex.
著者
中道 静郎 秋元 義巳 五十嵐 勝朗 黒沼忠 由樹 小出 信雄 大竹 進 成田 俊介
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.751-754, 1988-08-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
3

DMDの3症例を紹介する. 発病年令は2~3才, 入院時年令は4~9才, ステージV到達年令は9~10才, ステージVよりVIIまでの到達期間は平均8年であり, 身長, 体重とも健常男子に比すると著しく低下していた. 肺活量(VC)は末期に610±25ccまで低下し, 2例が気管切開を受けた. CPK, LDH, アルドラーゼ, GOT, GPTなどの血清酵素は入院時非常に高く, 病勢の進行とともに漸減していつた. PaO2の低下とPaCO2の上昇が末期に顕著で, 血液は呼吸性アシドーシスとなり, 意識混濁, 頭重, 失見当識の状態になつた. 頻回の喀痰喀出困難のため体位ドレナージ, バイブレーター, タツピングなどにより排痰を図つた. 3例はそれぞれ呼吸不全, 肺炎, 気管無名動脈瘻よりの大出血で死亡した.
著者
種村 健太郎 五十嵐 勝秀 松上 稔子 相崎 健一 北嶋 聡 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.146, 2010 (Released:2010-08-18)

個体の胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し,その基本構造と共に,神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによ り神経回路が形成される時期である。従って,この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルかく乱は,異常な神経回路形 成を誘発し,それが成熟後の異常行動として顕在化する蓋然性がある。しかしながら,従来の成熟動物を主対象とした神経行動毒性試 験では,その様な遅発性の異常を検出し難い。そこで,我々は暴露タイミング,情動・認知行動解析,及び神経科学的物証の収集の最 適化により,遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回,アミノ酸系神経伝達物質 受容体シグナルをかく乱するイボテン酸(テングダケ毒成分)の結果を報告する。 胎生期(胎生14.5日齢),幼若期(生後2週齢),及び成熟期(生後11週齢)のマウスに対して,イボテン酸(1mg/kg)を単回強制経口投 与(胎生期は母獣投与による経胎盤暴露)した。いずれの群にも,一般状態の異常を認めなかったが,生後12~13週齢時の行動解析に おいて,幼若期投与群に,オープンフィールド試験と明暗往来試験における不安関連行動の逸脱,条件付け学習記憶試験における音 連想記憶能の低下,プレパルス驚愕反応抑制試験における顕著な抑制不全が認められた。投与後2,4,8及び24時間における,海馬 のPercellome法による網羅的遺伝子発現解析の結果,幼若期投与群では,神経系発達において重要な役割を演じるGnRHシグナルや CRHシグナル及びEph受容体シグナルへの影響が,成熟期投与群と比べて極めて大きいことが明らかとなった。これらは幼若期の海馬 の感受性がイボテン酸に対して高いことを示し,また,そのプロファイルは成熟後の遅発性の中枢神経行動毒性発現の分子メカニズム 解明の端緒となる情報をもたらすと考えられた。