著者
村本 健一郎 播磨屋 敏生 久保 守 藤田 政之 椎名 徹
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

雲の中で成長した雪結晶は自分の重みで落下が始まり,雲粒の中を落下していく途中で雲粒が雪結晶に付着して種々の形に成長するが,落下速度は遅いので,すぐに空間密度が高まり互いに接触する割合が高く,しかも枝の構造が機械的にからみやすいため,いくつもの結晶の合体した雪片となる.この雪片同士が衝突併合には,雪片輪郭線の複雑さや落下運動の不規則さが関与していることが報告されているが,実際に雪片同士が衝突した瞬間の映像は捉えられていない.また,雪片が複雑な運動を伴って落下する理由も十分には解明されていない.本研究では,できるだけ自然に近い状態で落下中の雪片の映像を録画するシステムを製作し,次にそれらの映像を画像処理技術を使って定量化し,降雪現象の物理的特性を定量的に解明するシステムを開発することを目的として以下の実験を行った.(I)降雪雪片撮影システムの開発できるだけ自然現象に近い状態で落下中の雪片を観測するために4m(縦)×5m(横)×13m(高さ)の観測塔内で,地面に対して水平方向に1台,および鉛直方向に4台のCCDカメラを設置し,降雪雪片の落下中の運動を2方向から同時に撮影するシステムを開発した.(I)降雪観測と解析実際に、降雪中の切片を5台のカメラで撮影した.撮影した画像から降雪雪片の形状と3次元的な落下運動軌跡を求めた.
著者
菊地 勝弘 堀江 成人 播磨屋 敏生 近野 好文
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.125-139, 1988
被引用文献数
11

一般に北海道における年平均降雨量や年間の大雨日数は、本州方面に比較して少ない。しかし、北海道胆振支庁管内のオロフレ山系南東斜面では、4月から10月までの7ケ月間の平均降雨量は2,000mm近くにも達し、日降雨量90mm以上の大雨の日も年間4~51回発生し、しばしば災害をもたらし、大雨地域として知られている。近野&bull;菊地(1981)による観測から、この地域の大雨は、その最大降雨量の位置から、山岳型、海岸型、平野型、北西斜面型、その他の5つに分類される。これらのことを更に詳細に調らべるために、この地域にAMeDASその他7ケ所の雨量計に更に独自に16ケ所の雨量計のメソスケールネットワークを設け、1980、81年の2年間、6月から10月にかけて集中観測を行った。雨量計の間隔は約5kmであった。<br>山岳型降雨の場合に限ってみると、最大降雨量は、オロフレ峠(海抜930m)と、白老の滝(海抜380m)付近に現われた。海抜高度が付近の山々に比べて、比較的低い白老の滝付近に最大降雨量が現われる原因を、地形を考慮して考察した。その結果、この斜面の南東側の太平洋からの暖湿気の南東風による移流では、比較的弱い降雨が緩斜面や平坦部で観測されるが、急斜面になる山岳部では強い降雨が観測された。このことから、海岸部から山岳部にいたる沢の形状が水平収束による降雨の増幅をうながしていることが推定された。<br>これらのことを確かめるために数値実験を行った。その結果、単なる上昇流だけでは観測値に達しなかった降雨量は、水平収束の効果を加えることによって、観測値とよい一致を示した。また、山岳部の降雨強度、風速、上層の雲からの降水強度の関係が議論された。その結果、上層の雲からの降水強度が強いほど、また風速が強いほど山岳部の降雨強度が強かった。これらの結果を、数値実験と比較した。山岳部の計算による降雨強度は、上層の雲からの降水強度と風速によって増加した。したがって、もし上層の雲からの降水強度と地上での風速が、かなり正確に得られれば、オロフレ山系南東斜面での山岳部の降雨強度を推定できることが示唆された。
著者
播磨屋 敏生
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.272-279, 1968 (Released:2008-05-27)
参考文献数
13
被引用文献数
2 5

かぎ状絹雲をmother-cloudからの降水のtrai1によるものと考えて,その特異な形を決める因子を観測値に基づいた温度,湿度,風速の垂直分布のもとで数値計算により調べた.計算の結果から次の事が結論される.かぎ状絹雲の形は,降水粒子の質量および風の垂直シャーに非常に依存する.また軸比が非常に大きい針状結晶を除いては,降水粒子の形にはあまり依存しない.
著者
渡辺 輝夫 藤井 義明 播磨屋 敏生 福田 正己 川村 信人 宇井 忠英
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は1996年2月10日午前8時頃,国道229号線の豊浜トンネル古平側(西側)坑口上部の急崖が崩落し,バスの乗員,乗客と自家用車の運転手20名が圧死した事故に関係する斜面崩落とその災害に関する調査研究である.地質,地形,地球物理,凍結岩盤の物性,気象などに関する研究がまとめられた.すでに1996年9月14日に,豊浜トンネル崩落事故調査委員会が調査報告書を北海道開発局局長に提出しているため,本研究は,その報告内容をふまえ,1996年10月以降に実施した.研究は,復旧工事との関係で今後永久に観察出来なくなる崩落斜面下部の観察を最重点として行なわれた.岩盤表層の凍結深度の変化と気象の関係を岩盤の凍結前から観察することも重点的に行なった.さらに,岩盤崩落の機構に関する考察を深めた.その結果,岩盤下部の表面構造は上部とは違っていることを明らかに出来た.また,崩落面下部では火山レキの破断が特徴的に見られたが,岩石圧裂引張実験から,6MPaで破断することが明らかとなった.これは,岩石上部に少なくとも300mは累重しなければ破断が生じない圧力である.したがって,レキの破断は特殊に応力がかかるか,地質時代にさかのぼる長い時間の出来事であると考えられる.研究はハイアロクラスタイト中の火山岩の全岩化学組成やスメクタイトの鉱物組成も明らかにした.岩石の応力解析の研究は,崖の鉛直面では粘着力の失われたある長さ以上の初期不連続面が不安定に成長すること,水平面では2次連続面が生じ,自由面に達することを明らかにした.凍結一融解の実験は調査地域の気象が岩石の脆弱化を招くことを明らかにした.地質の研究は,地質構造に規制された地下水の浸透面と枝わかれパイプ状の流路と地下水圧が崩落面の形成に関係し,過去の落石も同様の経過で崩落したものと推測された.
著者
村本 健一郎 椎名 徹 播磨屋 敏生 長野 勇
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

降雪雪片は雲内で発生した氷晶が成長し,さらにいくつも併合して落下してきたものである。この落下中の氷粒子や雪片の併合には,これらの形状や落下運動が関与している。降雪現象は,雲物理学に関しての考察だけではなく,リモートセンシングや通信,最近の地球気候モニタリング分野などの多様な工学的応用にも重要である。また、電磁波伝搬における減衰には、降雪現象が大きく関係する。降雪の研究で主に使用される観測機器の一つとしてレーダがある。降雪のレーダ観測は、レーダ反射因子Zと降雪強度Rとの間の関係式に基づいている。この降雪のZ-R関係式を決定するためには、ZとRのそれぞれを短い時間間隔でしかも高精度で測定しなければならない。しかしながら、短時間間隔かつ高精度で測定可能な降雪測定システムは、これまで開発されていなかった。そこで、画像処理手法を用いた降雪の物理的パラメータを測定する新しいシステムを開発した。落下中の雪片の映像を画像処理して、粒径、落下速度、密度を計算した。また、降雪強度は、画像データから計算するとともに、電子天秤から直接重量を測定する方法でも求めた。更に、これらの観測と同期して、小型Xバンド・ドップラーレーダを用いて受信電力も測定した。Xバンド波の減衰と降雪強度との間の関係を調べると同時に、雪片の物理的特徴量との比較も行った。これらの実験から、電波減衰には、降雪強度だけでなく雪片の粒径分布や密度も関係することがわかった。
著者
播磨屋 敏生 中井 安末
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.101-115, 1999-02-25
被引用文献数
1

日本の日本海側の山岳地域において、毎年のように豪雪が起る。その降雪の形成に貢献する雲粒捕捉成長過程が、レーダーと微物理解析によって調べられた。観測結果は次のようにまとめられる。レーダー解析によると、日本海上で形成された降雪雲は、海上から陸上に向かって移動するにつれて、発達期から最盛期となる。その後陸上を移動するにつれて消滅期をむかえる。それらの降雪雲が山岳地域に到達する時、地形性上昇流によって再発達するのが観測された。降雪強度の増加につれて付着雲粒量が増加すること、および上方がら降る氷結晶の質量フラックスの影響をとりのぞいた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが示された。そのうえ、風上から移流する雲粒量を差引いた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが風速と雲粒寄与率の関係図から推測された。この観測事実から、風速の強い時には再発達して雲粒の増加した雲内を氷結晶が落下することによって、たくさんの雲粒を捕捉して、結果として高い雲粒寄与率をもち、強い降水強度をもつ降雪となることがわかる。このようにして、雲粒捕捉成長過程が山岳性降雪の形成へ非常に貢献する。観測結果は、昇華と雪片形成成長過程もまた山岳性降雪の形成に貢献することを示した。降雪雲内の雲水量は、地形性上昇流によって形成される雲粒量のみだけでなく、氷結晶の質量フラックスとの兼ね合いで決まることが示された。観測結果は、雲粒量に比べて氷結晶の質量フラックスが少なくなる風速の強い条件下と風速が弱くても発達初期段階の降雪雲である条件下の二つの場合が人工種まき実1験のために可能性が高いことを示した。