著者
日野 愛郎 新川 匠郎 藤田 泰昌 網谷 龍介 粕谷 祐子 上谷 直克 木寺 元 岡田 勇
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2023-06-30

本研究は質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis)の開発、比較検討、実践を共創的に展開し、政治学の更なる発展に道筋を付ける。QCAは複数条件の組み合わせを網羅的に扱い、必要条件性や十分条件性をブール代数や集合論を基に把握する。本研究は(1)政治学が強い関心を払う歴史的・時間的な変動を分析可能とするTime-differencing QCAの方法を開発し、(2)先行研究のデータ分析を再現する中で、結果を規定する原因の「条件性」を他の手法と比較検討してQCAの独自性を明確にし、(3)比較政治、国際関係、行政学の各領域での実践を基に分析のガイドラインを作成する。
著者
新川 匠郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-22, 2016 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本論はドイツの州での大連立成立パターンを問うものである。従来の経験的分析では、異なる大連立の仕組みを捉える比較の視座が欠落しがちであった。また政党の動機と制度にフォーカスした理論的分析もドイツの州の多様性から限られた特徴を引き出すのが主であった。本論は、多元的で結合的な因果を想定した大連立分析から従来の研究にあった空白へ光を当てることを試みる。そこでは、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の事例を通じて大連立に向けた制度的条件を浮き彫りにする。それが議会少数派と権力分掌する一院制という条件である。この知見を踏まえた条件組み合わせ分析を通じて本論は、「権力を分掌する一院制下では、分極化した政党間競合を伴い議会多数派の形成に行き詰った場合に大連立が選択肢になる」という仮説を提起する。この結果は政党の動機・制度のどちらかで大連立を説明しきるのは困難と想起させるが、議会権限(veto point)の議論を洗練させる機会になると提起する。
著者
新川 匠郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1_203-1_226, 2017 (Released:2020-07-01)
参考文献数
67

本論は集合論の考えから連立研究の帰納的・演繹的な接近法を相対化, 理論の開きうる新たな地平を考えるものである。連立研究では量・質の方法論的な対立軸は提起されていたが, その議論は抽象的なものに留まっていた。また分析法の新しさが議論になることはあっても, 連立研究のための種々の方法論はテーマ化してこなかった。こうした研究の空白を埋めるべく本論は, 集合論から見て分析に必須となる次の要素から連立研究の方法論的な前提を捉え直す。それは古典的カテゴリーとプロトタイプカテゴリーによる概念理解, 概念間を結び付ける相関と集合の因果, 不確実さと曖昧さという概念・因果の認識法である。この分析の結果, 演繹的な接近法で古典的カテゴリー・相関・不確実さを基にする相対的に少ない分析パターンを見てとれる一方, 帰納的な接近法はより柔軟な分析構造を持つことについて示す。これを踏まえて本論は従来型と異なる二種類の組み合わせ, 不確実さと曖昧さを想定した相関ないし集合分析が連立研究の刷新を考える上で有益と提起する。
著者
新川 匠郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-56, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
55

本論は、なぜ西欧諸国内で異なるメディアの特徴が生じるのかという問いに対して、政権のアカウンタビリティの異なる実践に注目して考察を加えるものである。これまでのメディアシステムの国際比較では類型学的な関心が強く、メディアシステム形成については多く議論されてこなかった。アカウンタビリティ研究では政党を中心に比較分析が重ねられており、メディアとの関係については十分な検討が進められていない。こうしたメディアシステム研究とアカウンタビリティ研究の相互補完を目指し、本論は西欧諸国における政権のアカウンタビリティと社会アカウンタビリティを行使するメディアの関係について、多様性と複雑さを捉える質的比較分析(QCA)から探っていく。この分析からは、政権のアカウンタビリティを支える政治制度は国別のメディアシステム形成の各種パターンで中核的要素になることを確認する。また、その政治制度が機能不全に陥ると、それは分極的なメディアシステムの助長につながるとも提起する。この結果からは有権者を補助するメディアの特徴が浮き彫りになる一方、それは政権のアカウンタビリティ欠如により異なる役割を果たすようになることも示唆される。
著者
新川 匠郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_105-1_131, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
31

欧州諸国では組閣に向けた政党間の連立交渉が常態化している。政権で得られる役職や実現できる政策を見定めるべく、交渉に各党は慎重を期すと考えられる。だが実際には組閣時間で国別の違いが見られる。なぜ組閣過程に違った特徴が生じるのか。先行研究は 「複雑性」、「不確実性」 の克服という理論枠組みに依拠して、組閣遅延の分析を行ってきた共通点がある。ただし、その実証分析では選挙後という不確実性の条件を除き、政党システムにかかわる各条件や制度的条件に関して異なる見解が示されてきた。これら分析での不一致について本論は、先行研究が各種条件を並列させて検討していたことに着目する。組閣遅延を生み出す複雑性と不確実性の条件は同質的でなく、さらに複数の結合条件を通じて影響するかもしれない。本論では 「質的比較分析 (QCA)」 を使い、こうした特徴について欧州の政権発足に至る困難な道のりの中で経験的に問うことを試みる。この結果、組閣遅延の前提 (必要条件) になる不確実性の結合条件を基に、複雑性にかかわる政党システムでの破片化と分極化が大統領の権限不在、二院制・連邦制の構造とも連動しながら組閣遅延の経路を作ることを浮き彫りにする。