著者
中村 研一
出版者
日本比較政治学会
雑誌
日本比較政治学会年報 (ISSN:21852626)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.131-152, 2007-06-30 (Released:2010-09-09)
参考文献数
37

テロリズムは暴力の一種であり, 他の暴力と同様, 人々を殺傷し, 関心の焦点となり, 激しい感情を呼び起こす。また政治学の観点からは, テロリズムは, 政治変化を起こそうとする政治的行為であり, 同時に, 政治的なものを攻撃する反政治的手法である。こうしたテロリズムを認識するとき, 攻撃者の政治的狙いと反政治的手法を切り離して論じることに意味はない。そこで小論はつぎの5点を論じる。 (1) テロリズムを定義することの困難さがテロリズムの特質を反映している。 (2) テロリズムを人間類型ないし思想として定義することは不適切であり, それを「見せる効果のための暴力」と定義する。 (3) テロリズムをコントロール不能に導く《文法》として, 「見せる効果の極大化」「 (攻撃者と犠牲者との間の) 意図上の非対称性志向」を取り出す。 (4) テロリズムに伴う反道義的アナキー的行動様式は, 二つの《文法》から導かれる。 (5) 暴力の方向とコミュニケーションの方向を分裂させるテロリズムの特徴が, 見る人々の間に同様の連鎖反応を引き起こすとき, 政治空間が解体する。