- 著者
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早川 智
- 出版者
- NIHON UNIVERSITY MEDICAL ASSOCIATION
- 雑誌
- 日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.1, pp.43-48, 2008
昆虫など大部分の無脊椎動物は短命であるが,タラバガニやダイオウイカなどは獲得免疫系を有しないにも関らず,30 年を超える寿命がある.興味深いことに自然界で採集される無脊椎動物には悪性腫瘍の報告が殆ど見られず,有顎魚類以上で初めて悪性腫瘍がしばしば見られるようになる.子宮内で胎児・胎盤を育てる真胎生は大部分の哺乳類で見られるが,哺乳類特有のものではなく,他の脊椎動物門のみならず無脊椎動物にも見られることがある.特異免疫系は軟骨魚類のレベルで進化したシステムであるが,真胎生を行う脊椎動物は父親由来の抗原を有する胎児に対して免疫学的拒絶を来たす可能性があり,その制御が重要な課題となる.近年,胎児胎盤が母体の免疫学的拒絶を免れるシステムが明らかにされるに至った.興味深いことにその多くは悪性腫瘍が拒絶を免れるために使用するメカニズムと一致している.悪性腫瘍の立場からすると,新たな免疫回避機構を発明するよりは,胎児胎盤が母体の拒絶を免れるシステムを用いたほうが手っ取り早いということになる.この事実から,脊椎動物における悪性腫瘍の出現は胎児胎盤の生着を許すような抑制性免疫システムの進化に依存する,言い換えれば進化の上でのトレードオフになっているのではないかという仮説を導くことができる1).