著者
清水 晶平 望月 翔太 山本 麻希
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.173-182, 2013-12-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
4 3

イノシシ(Sus scrofa)による農業被害が近年深刻な社会問題となっている.被害の地理的発生要因を解き明かすことは,被害対策を効率的に実施するうえで重要である.本研究の調査地である新潟県上越市柿崎地区では,被害地域が大きく拡大した後,電気柵を設置したことにより,被害地域の縮小に成功している.そこで本研究では,新潟県上越市柿崎地区におけるイノシシ由来の農業被害に対し,被害の拡大前期(2004年~2007年),拡大期(2008年),そして,減少期(2009年~2010年)の3期に分け,3つの期間における被害地点とその周辺の地理的要因との関係を明らかにすることを目的とした.本研究では,「水稲共済損害評価に係る獣害(イノシシ)申告データ」と,現地踏査により作成した土地利用図を使用して分析した.被害地点と被害のない地点について,林縁や河川からの距離など,被害地点の景観構造を示す変数を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った.また,電気柵を張る前と後の被害地点についても,同様にロジスティック回帰分析を行った.この結果,林縁,沢,耕作放棄地に近いほど被害が増加する傾向が認められた.河川,道路,都市部に関しては距離が遠いほど被害が増加する傾向が認められた.また,電気柵を設置したことにより,被害の分布が都市部に近づいていることが判明した.イノシシによる被害は見通しの悪い林縁や耕作放棄地の周辺で発生していることが明らかになり,イノシシによる被害対策には,林縁の刈払いや耕作放棄地の管理と個体数調整を同時に考慮した対策を見出す必要性があることを示した.電気柵を設置する場合は,十分な捕獲計画と併用するか,被害がまだ起きていないエリアも全体的に電気柵で一気に囲ってしまうなどの配慮が必要であろう.
著者
清水 晶平 望月 翔太 伊豫部 勉 山本 麻希
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.107, 2013 (Released:2014-02-14)

イノシシ (Sus scrofa)は他の大型哺乳類と比較すると,足が体重と比べて短い.そのため,雪が深いと活動が困難となり,積雪 30cm以上の日が 70日を超える北陸~東北地方には生息できないと考えられていた.しかし,積雪量が 4mを超える 新潟県十日町市では,1995年頃からイノシシの生息痕が報告されている.新潟県では 1978年にはイノシシの生息は確認されなかったが,2003年に生息が確認され,2004年度は 20頭だった捕獲頭数が,2011年度には 791頭まで急増した.そこで本研究では,新潟県で定着しつつあるイノシシの分布に積雪が与える影響を評価し,今後の分布域拡大における積雪の影響について考察した. 本研究では,国土数値情報のデータと,LANDSATから作成した独自の土地被覆図を使用して分析を行った.捕獲頭数は,水稲共済損害評価に係る獣害申告データ(NOSAI)を使用した.ハンターマップの 5kmメッシュごとに,広葉樹林,針葉樹林,水田,畑地,鳥獣保護区,都市域,河川(各々の項目が占めるメッシュ内の面積),積雪量等の地形情報を GISアプリケーションを利用して抽出した.メッシュ内の捕獲頭数を従属変数とし,イノシシの行動に影響を及ぼすと予想される環境要因を独立変数として選択し,ポアソン分布を仮定した一般化線形モデルを作成した. その結果,捕獲頭数の多いメッシュでは,メッシュ内の広葉樹林・針葉樹林・畑地・鳥獣保護区の面積が多く,水田・都市部の面積と積雪量が少なかった.この結果から,イノシシは積雪量の少ないエリアに多く分布していること,比較的積雪量の少ない海岸寄りの林縁付近に位置する水田が被害にあいやすいことが示唆された.本結果と過去の積雪量と被害の拡大状況,捕獲効率等の結果から,今後のイノシシの分布拡大に積雪が与える影響について考察を行う.
著者
望月 翔太
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.295-302, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
39

野生動物の生息地を評価することは,対象動物種の生態を解明し,生息地を保全するうえで重要である.この時,動物がどのような資源を選択し,どのように分布するのかを評価する必要ある.動物の生息地選択は,生息地を構成する景観構造に対し,動物がどのように応答するかという意思決定プロセスの結果である.また,生息地選択では,様々な時間的・空間的スケールを定義する必要がある.本稿では,野生動物の生息地評価における空間スケールの重要性について,これまでの知見を整理する.まず,先行研究における空間スケール(調査範囲と分解能,バッファサイズ)を考慮した事例を整理し,次に,著者らがニホンザル(Macaca fuscata)を対象に研究してきた生息地選択におけるスケール依存性について紹介する.農作物被害は,ニホンザルがどのような環境を選択したかという意思決定プロセスの結果である.ここでは,100 m~2,500 mのバッファサイズで計算した環境要因と農作物被害との関係を解析した.その結果,農作物被害と関係する環境要因は,バッファサイズの大きさによって変化することがわかった.つまり,被害管理を行う際,どの程度の空間内で対策を実施するかによって,同じ対策でも効果が異なる可能性があることを示唆した.さらに,群れごとに生息地選択モデルにおける最適なバッファサイズが異なっていた.これらの結果を踏まえ,野生動物管理におけるスケール設定の重要性について推察した.
著者
関島 恒夫 森口 紗千子 向井 喜果 佐藤 一海 鎌田 泰斗 佐藤 雄大 望月 翔太 尾崎 清明 仲村 昇
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1922, (Released:2021-08-31)
参考文献数
55

オオヒシクイが集団飛来地あるいは渡りのルートとして主に利用する北海道道北地方から本州にかけての日本海沿岸域は、良好な風況が見込まれることから、現在、多数の風力発電施設の建設が進められている。大型風車の設置は、鳥が風車に衝突するだけでなく、風車群を回避することによる迂回コストの増大などにより、中継地や越冬地利用の放棄など生息地の劣化あるいは消失に繋がる可能性があり、地域個体群に対する負の影響が懸念されている。オオヒシクイなど大型水禽類の生息地を保全しつつ、再生可能エネルギーの拡大を目指して風力事業を推進するには、鳥類への影響が大きい区域を提示したセンシティビティマップに基づき、風力発電事業の計画段階で事前に衝突リスクの高いエリアを回避する手続きが有効である。本稿では、はじめに大型水禽類を対象にしたセンシティビティマップの現状と課題を説明し、続いて、オオヒシクイを対象として、全国の主要な集団飛来地における風車回転域飛行確率を考慮したセンシティビティマップと、北海道道北地方から本州日本海沿岸域にかけての主要な渡りルートにおいて渡り中の飛行高度規定要因を考慮したセンシティビティマップの 2つのマップ作成手順を紹介する。最後に、これらセンシティビティマップを用いた風力発電施設の立地に係る検討手続きを提案する。
著者
村上 拓彦 望月 翔太
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.233-242, 2014-11

リモートセンシングによる植生マッピングについて、リモセンデータの選択、ピクセルベースとオブジェクトベース、新しい画像分類手法の順番で論じた。リモセンデータとして、地球観測衛星、航空機搭載型センサ、UAVに言及した。地球観測衛星は空間分解能別に各種衛星・センサを紹介した。画像分類の最小単位としてピクセルベース、オブジェクトベースにふれた。高分解能衛星データの登場後、オブジェクトベースでの植生マッピングの機会が多くなっている。新しい画像分類手法として機械学習に着目し、人工ニューラルネットワーク、決定木、サポート・ベクタ・マシン、集団学習について解説した。その他、ハイパースペクトル、多時期データ、スペクトル情報以外の情報を用いた植生マッピングについても事例を紹介した。今後はリモートセンシングの単なる可能性を示すだけでなく、植生に関連する主題図という高次プロダクトを確実に提供できる体制を整える必要もある。
著者
清水 晶平 望月 翔太 山本 麻希
出版者
Japan Association for Landscape Ecology
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.173-182, 2013
被引用文献数
3

イノシシ(<i>Sus scrofa</i>)による農業被害が近年深刻な社会問題となっている.被害の地理的発生要因を解き明かすことは,被害対策を効率的に実施するうえで重要である.本研究の調査地である新潟県上越市柿崎地区では,被害地域が大きく拡大した後,電気柵を設置したことにより,被害地域の縮小に成功している.そこで本研究では,新潟県上越市柿崎地区におけるイノシシ由来の農業被害に対し,被害の拡大前期(2004年~2007年),拡大期(2008年),そして,減少期(2009年~2010年)の3期に分け,3つの期間における被害地点とその周辺の地理的要因との関係を明らかにすることを目的とした.本研究では,「水稲共済損害評価に係る獣害(イノシシ)申告データ」と,現地踏査により作成した土地利用図を使用して分析した.被害地点と被害のない地点について,林縁や河川からの距離など,被害地点の景観構造を示す変数を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った.また,電気柵を張る前と後の被害地点についても,同様にロジスティック回帰分析を行った.この結果,林縁,沢,耕作放棄地に近いほど被害が増加する傾向が認められた.河川,道路,都市部に関しては距離が遠いほど被害が増加する傾向が認められた.また,電気柵を設置したことにより,被害の分布が都市部に近づいていることが判明した.イノシシによる被害は見通しの悪い林縁や耕作放棄地の周辺で発生していることが明らかになり,イノシシによる被害対策には,林縁の刈払いや耕作放棄地の管理と個体数調整を同時に考慮した対策を見出す必要性があることを示した.電気柵を設置する場合は,十分な捕獲計画と併用するか,被害がまだ起きていないエリアも全体的に電気柵で一気に囲ってしまうなどの配慮が必要であろう.