- 著者
-
木下 昭
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.3, pp.529-545, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
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現在, 西海岸を中心にアメリカ各地でフィリピンの民族舞踊が行われている.この踊りのもつ意味を, その主な担い手である学生たちの組織とコミュニティの舞踊団を事例として検討するのが, 本稿の趣旨である.この芸能がアメリカで行われる意義を問うことは, これがもともと国民国家フィリピンを体現する役割を担ってきたが故に, 現代移民にとっての祖国, そしてグローバル化のなかにある国民を理解する上で重要な手がかりを与える.これら2つの場での踊りには共通するところが多い.ともにメンバーの多くは移民2世であり, フィリピンを代表する民族舞踊団の様式を踏襲し, この舞踊が彼らの抱くフィリピンと自らについての否定的なイメージの超克をもたらしている.一方で, 2つの組織の踊りの相対的な相違も明らかになった.コミュニティにおける踊りはフィリピンへの遠隔地ナショナリズムを表示しているのに対して, 大学におけるそれはアメリカ人としてのナショナル・アイデンティティを前提とした自らの独自性 (エスニシティ) を表示していると考えられる.こうした相違を生み出す要因を論じることで, 現代の「国境を越えた」現象の一面を浮き彫りにする.