著者
臼田 謙太郎 西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.849-855, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

妊娠うつ病はおよそ10%の有病率があるとされ,決してまれな疾患ではない.しかし妊婦の多くは,薬物治療を希望しないため,より安全性が担保されている非薬物療法の開発の必要性は高いと考えられる.そしてうつ病の補完代替療法の中でもこれまでに最もエビデンスが蓄積されてきたものの一つにω3系脂肪酸がある.本稿ではω3系脂肪酸とうつ病に関する疫学研究の知見,ランダム化比較試験とそのメタ解析の結果,妊娠うつ病に対するω3系脂肪酸のこれまでのエビデンスをまとめた.ω3系脂肪酸は魚に多く含まれ,日常の食生活の影響を多く受ける可能性があり,今後はわが国での実証的な研究が望まれる.
著者
西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.248-253, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
33

総合病院精神科では,軽症や中等症のうつ病の診察を行う機会が多い。National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)やTexas Medication Algorithm Project(TMAP)といった治療ガイドラインでは,うつ病の軽症例に対する第一選択として抗うつ薬を推奨しておらず,うつ病に対する薬物療法以外の選択肢も求められていると考えられる。オメガ3系脂肪酸は,生活習慣に基づいたアプローチのなかでは最も研究が進んでいる介入法の一つである。本稿では,うつ病治療におけるオメガ3系脂肪酸の有効性とメカニズムに関するエビデンスをまとめた。また合わせて,筆者らが行ったオメガ3系脂肪酸によるPTSD予防を目指したランダム化比較試験を紹介した。
著者
松岡 豊
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.25-29, 2020 (Released:2020-03-30)
参考文献数
34

多国間のうつ病と魚消費量の関連を検討した生態学的研究をきっかけに,オメガ3系脂肪酸のうつ病に対する影響を検討するコホート研究やうつ病に対するオメガ3系脂肪酸の治療効果を検討する臨床試験が行われてきた。メタアナリシスにより,魚食およびオメガ3系脂肪酸の摂取がうつ病予防に有効であること,特にエイコサペンタエン酸が大うつ病者の治療に有効であることが確認されている。メカニズムに関しては結論が出ていないが,オメガ3系脂肪酸による抗炎症効果が示唆されている。最近発表されたオメガ3系脂肪酸の抗不安効果を検討した臨床試験のメタアナリシスでは,オメガ3系脂肪酸摂取が不安症状軽減と関連することが示された。本稿では,筆者らの研究を紹介しながら,うつ病と不安症のマネジメントにおけるオメガ3系脂肪酸の可能性について述べる。
著者
西 大輔 松岡 豊
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.182-187, 2016 (Released:2018-07-20)
参考文献数
40

本稿では,栄養素のなかでヒトを対象とした臨床研究が多いオメガ3系脂肪酸に関して,精神疾患・精神症状への有効性を検討した先行研究を,ランダム化比較試験(RCT)を中心に概観した。このうちうつ病に関しては,数多くのRCTやそのメタ解析が出版されているおり,EPAが主成分のサプリメントを用いた場合はオメガ3系脂肪酸に一定の抗うつ効果があることが示されている。その一方で,これまでのRCTには投与量,投与期間などにばらつきがあること,食事から摂取するオメガ3系脂肪酸の量が非常に多いわが国におけるエビデンスがまだ希薄であることなど現状のエビデンスの限界も合わせて紹介した。また,うつ病以外の精神疾患・精神症状に対する有効性を示したRCTは限られているが,PTSDに関して筆者らが実施したRCTと,統合失調症の発症予防に関する国際的にも知名度の高いRCTについて紹介した。食事・栄養素を用いたアプローチは副作用の少なさから妊婦や子どもなど幅広い集団に適用可能であり,機序の解明も含めて今後のエビデンスの蓄積と治療・予防への実装が期待される。
著者
松岡 豊 西 大輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.25-32, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1

レジリエンスを「かなりの逆境にもかかわらず,はね返す,またはうまく対処する能力」と定義した。魚油には,エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸というω3系脂肪酸が豊富に含まれる。ω3系脂肪酸は脳内リン脂質成分の30%を占め,膜の維持,神経活動,神経可塑性などに大きな影響をもつ。先行研究より,うつ病の病因にω3系脂肪酸不足が関与している可能性が提唱されている。総合病院精神科では,さまざまな身体疾患患者,妊娠中の女性,外傷患者などに生じるストレス関連精神疾患への対応が求められることが多い。こうした患者に対しては,安全性,易実施性,易受容性の観点から,食生活への介入もレジリエンス向上の選択肢として考慮に入れることができる。うつ病とω3系脂肪酸に関する疫学研究・臨床研究,さらには健常者における介入研究,総合病院における臨床試験の経験などを紹介し,ω3系脂肪酸に秘められた可能性について提案した。
著者
松岡 豊
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.182-185, 2021 (Released:2021-07-06)
参考文献数
19

栄養精神医学は,精神疾患の予防・治療経過,そしてメカニズム解明に対して食事・栄養の観点からアプローチする新しい専門領域である.数多の観察研究から食とメンタルヘルスの関連が見出され,比較的少数の介入研究から食事指導や栄養成分の補充によってうつ症状が改善する可能性が示唆されてきたが,結論には至っていない.有効な介入の普及には,系統的レビューによるエビデンスに基づいたガイドライン作成が必要である.そして,今後必要とされる研究としては,エビデンスに基づく効果的な食事指導の確立とその検証,バイオマーカー測定を包含する質の高い臨床試験,メカニズム解明に迫る生物学的研究である.
著者
成澤 知美 松岡 豊 越智 英輔
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ライフスタイルの欧米化、がん治療の進歩により長期生存が期待される乳がんサバイバーは増加の一途である。心理的負担(がん再発不安と抑うつ)は、がんサバイバーにおいて最も頻繁に経験される未だ満たされていないニードであり、その対策が急務である。本研究課題は、乳がんサバイバーの全身持久力向上を目指して申請者らの研究チームが開発した運動プログラムによる介入の心理的負担に対する効果をランダム化比較試験で検討することで、従来の心理療法及び薬物療法を中心とした医療から当事者のライフスタイル変容を介した新しいヘルスケアモデルの基盤作りに挑む。
著者
野口 普子 西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.856-860, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,恐怖記憶の過剰な固定化と馴化・消去学習が進まない病態として考えられる精神疾患である.動物実験から得られた海馬における恐怖記憶のメカニズムに関する知見から,海馬の神経新生を適切に制御することができれば,恐怖記憶が保存される脳領域をコントロールできる可能性が報告された(Kitamuraら,2009).また,ラットにω3系脂肪酸を投与すると,海馬における神経新生を促進することが報告されている.そこでMatsuokaは「ω3系脂肪酸によって海馬の神経新生を活性化させると,海馬から早期に恐怖記憶が消失し,結果的にPTSD症状が最小化する」という仮説を提案した.われわれの,我が国におけるω3系脂肪酸サプリメントを補充する2つの臨床試験は,PTSDの発症予防に対する栄養や食による介入の可能性を示唆するものである.
著者
水谷 光 藤井 倫太郎 内田 恵 明智 龍男 山本 英一郎 松岡 豊
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.657-669, 2021-07-01

今月は,手術室でどう麻酔するかではなく,外来での術前診察について考えてみたい。麻酔科診療における術前診察の重要性は,改めて述べるまでもない。身体面だけではなく,精神的もしくは心理的な困難をもつ患者も少なからずいる。そもそも,手術前の患者は誰もが不安を抱えている。われわれ麻酔科医の言動次第で患者の不安をさらに膨らませてしまうかもしれないし,うまく対応すれば患者の不安を和らげることだってできるかもしれない。今日の術前診察にこのような患者が来たら,読者はどのように診察を進めるだろうか? 一緒に考えていただきたい。
著者
臼田 謙太郎 西 大輔 佐野 養 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.147-155, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
34

産後うつ病の予測因子については,国によって異なった要因が報告されており,社会文化的な相違がその原因になっている可能性がある。日本においては,子どもを産まなければならないというプレッシャーを感じることが産後の抑うつ症状を予測する可能性があると先行研究から考えられたため,本研究ではその仮説を検討した。市中産院で妊娠12〜24週の妊婦を連続サンプリングでリクルートし,妊娠中と産後1カ月時点でエジンバラ産後抑うつ質問票(EPDS)を実施し,産後のEPDSが9点以上であることを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。産後1カ月の調査には118名(66.7%)が参加し,解析の結果,出産に関するプレッシャーが産後の抑うつ症状を予測していた。総合病院の精神科において妊婦中に出産に関するプレッシャーの有無を尋ねることは,産後の精神的健康を予測するうえで有用な可能性が示唆された。
著者
西 大輔 渡邊 衡一郎 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.2-9, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

レジリエンスは非常に注目されている概念であるが,その理解や臨床への活用は必ずしも容易ではない。本稿では,レジリエンスの理解を深めるため,レジリエンスが注目されてきている理由について考察し,①時間軸も含んだ概念であること,②修正・介入の可能性を含んだ概念であること, ③レジリエンスを「自然治癒力の現代医学版」とみなすことで治療論や回復論が発展する可能性が高まること,の3点をあげた。また総合病院精神科における臨床への活用について,慢性うつ病とディスチミア親和型うつ病への対応および治療方針の決定の際に重視されてきている「Shared decision making」について取り上げ,それらをレジリエンスの視点からとらえなおすことを試みた。レジリエンスという概念の下に実証的研究の成果と臨床から得られた知見を有機的につなげることで,レジリエンスは総合病院精神医学の発展にも大きく寄与し得ると考えられる。