- 著者
-
ソジエ内田 恵美
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.2, pp.2_177-2_199, 2018 (Released:2021-12-26)
- 参考文献数
- 29
戦後首相による所信表明演説を言説分析した結果, 終戦直後は, 「考えます」 「思います」 などの個人の内的意識を述べる “mental process” (心理過程) の割合が高かったが, 時代が進むと減少し, 次第に 「進めます」 「取り組みます」 と言った, 国民への約束や働きかけなど外的行動を表す “material process” (物質過程) が増加していた。この首相の言説変化を従属変数として, 経済の動向・メディアの発達・無党派層の増加の影響を重回帰分析によって検証した。その結果, ①高度成長期には, 首相演説はメディア普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の動向の影響を受けた。②安定成長期も, メディアの普及率に最も強く影響を受け, 次に経済の影響を受けた。③バブル経済崩壊後は, メディア普及率に最も強く影響を受けたが, 同時に, 自民党分裂後に約50%に達した無党派層の急増の影響も受けていた。これらを解釈すると, 歴代首相は, 有権者に対してアカウンタビリティを果たさなければならないという意識が徐々に高まってきたと言える。そして, その首相の意識の変化には戦後一貫してメディアが最も強く影響してきたと, 本稿のデータは示している。