著者
松本 郁代
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.16-26, 2013-07-10 (Released:2018-07-13)

慈円『愚管抄』の歴史叙述を、慈円が構想した「末法」という一点の現実から生じた正統性のエクリチュールとして読み解いた。本稿で捉えた「定型」とは、慈円が叙述に構想した神話的身体としての天皇が、歴史的・社会的文脈、世界観を構築する正統性のベクトルとしてである。かかる意味世界における『愚管抄』とは、正統性を体現した神話的身体としての天皇が社会を開/閉した「定型」の叙述であり、愚管抄的世界を生んだ中世を開/閉する扉のような存在であった。
著者
森 雅秀 永ノ尾 信悟 高島 淳 冨島 義幸 原田 正俊 山部 能宜 松本 郁代 鷹巣 純 矢口 直道 西本 陽一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、アジアにおける仏教儀礼の形成と展開、変容をテーマに、さまざまな領域の研究者による共同研究の形式で進められた。参加した研究者はインド学、仏教学、歴史学、人類学、美術史、建築史、宗教学等の分野で、多角的な視点から研究をおこなった。そのための枠組みとして王権論、表象論、空間論、技術論、身体論という5つの研究領域を設定した。とくに顕著な研究成果として灌頂に関する論文集があげられる。代表的な仏教儀礼のひとつである灌頂を取り上げ、その全体像を示すことに成功し、儀礼研究の新たな水平を開いた。また研究の総括として、儀礼と視覚イメージとの関係についての国際シンポジウムを開催した。
著者
松本 郁代
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

今年の実績は、(1)立命館大学21世紀COEプログラム主催×ロンドン大学SOAS日本宗教研究センター共催の国際シンポジウム「The Power of Ritual:儀礼の力-学際的視座から見た中世宗教の実践世界-」で、研究発表「入洛する神輿・神木と「神威」」を行った。(2)仏教的世界観の構築に関わった中世日本の職能民に関する研究発表として、慶応義塾大学巡礼記研究会研究集会にて「室町期京都の「霊場」と職能民-聖俗の相克をめぐって-」を発表。(3)宗教を文化史研究の対象にする際の研究手法の追究として、論文「中世日本文化研究の覚え書き-「歴史叙述」における文化の位相を中心に-」を発表。(4)立命館大学オープン・リサーチセンター主催、風俗画研究会にて、研究発表「描かれた神輿・神木-都市に対する示威イメージ-」を発表した。(1)では、中世に頻発した仏教による「神威」の発動のメカニズムを「神輿入洛」という行為に捉え、これを宗教的な一連の動き=儀礼として解釈した。これによって、中世の政治システムだけでは割り切れない「神威」の存在を史料に表された表現や絵画史料によって明らかにした。(2)は、宗教技能を持つ中世職能民を中世社会に位置づけるための研究。中世に存在した「仏教的世界観」や「宗教景観」を創ったと考えられる職能民の宗教技能を捉えながら、その歴史的位置づけを試みた。(3)は、海外の日本研究手法に鑑みながら日本文化史研究の手法を論じたもの。海外における日本研究は、歴史や文学にかかわらず、「日本学」や「アジア学」の枠組みで解釈されているため、巨視的な視点から日本を捉えることに成功しているが、視覚的なものだけを文化の対象として捉える研究手法が根強く存在しているため、一部、日本の歴史的文脈が無視されたままの偏った文化研究が流通している現状に対し、本論文では、これらの方法論を経験的に踏まえ批判を行った。