著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.239-252, 2015-12-30 (Released:2016-03-31)
参考文献数
28

本邦の多くのリウマチ医は線維筋痛症(fribromyalgia; FM)の病名の認識はあるが,疾患の存在に否定的であり,診療に対して拒否的である.最近の脳科学の目覚ましい進歩を背景に,非侵害受容性疼痛,特に慢性疼痛の分子機序,脳内ネットワークの解明などから,FMの疼痛も脳科学から解明されつつある.また,本邦では2003年から厚生労働省の研究班が組織され,疫学調査,病因・病態研究,診断基準,治療・ケア,診療体制の確立,ならびに診療ガイドラインの作成など精力的にプロジェクト研究が行われ,疾患の全体像がかなり具体的に見えてきた.その中で,特筆すべきことはFMの疼痛を,他の慢性疼痛と同様にアロディニアを伴う痛みの中枢性感作によるものと説明し得ること,この現象に脳内ミクログリアの活性化が認められ,いわゆる脳内神経炎症(neuroinflammation)の概念で説明できる可能性である.これら所見は近未来的な病態発症機構を標的とした画期的治療法の開につながるものであり,今後のさらなる発展が多い期待されるところである.病態以外にも厚労省研究班で得られた知見を中心に解説し,またEvidence Based Medicine (EBM)手法を用いて厚労省研究班と学会が合同で作成した,診断,治療・ケアについてのガイドラインも概説した.
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.8, pp.1837-1844, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

線維筋痛症は実際には比較的頻度が高いにもかかわらず,これまで本邦ではあまり注目されてこなかった原因不明の機能性リウマチ性疾患である.本例では身体の広範な部位の慢性疼痛とこわばりを主症状とし,その他に多彩な身体,精神・神経症状を伴い解剖学的に明確な部位の圧痛を認める以外,身体所見,臨床検査,画像検査上明らかな異常を認めず,機能性身体症候群の一つに含まれ,診断は操作的であり,抗うつ薬や抗てんかん薬が治療の中心となる.
著者
岡 寛 小山 洋子 中村 満行 松本 美富士 西岡 久寿樹
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.45-50, 2014-03-30 (Released:2015-05-30)
参考文献数
18

線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)は,全身に広範囲な痛みを主訴とする原因不明の疾患で,本邦に推定で200万人以上存在する.痛みの強さの評価は,従来Visual Analog Scale(VAS),Numeric Rating Scale(NRS)等によって行われてきたが,これらは主観的である.痛みを定量化できれば痛みの認知療法となり治療は格段に進化すると考えられる.昨今,痛みを定量的に評価できる痛み定量化システム(Pain Vision®)がニプロ社より実用化され,患者の持つ痛みを客観的に評価される事が可能になった. 我々はACR1990の分類基準を満たすFM患者83人の痛みを,現在のNRSとPain Vision®で測定し,比較検討した.その結果,Pain Vision®によるFM 患者の男性閾値は9.35±2.64μA(平均±SD),女性閾値は7.93±2.30μAであったが,FM の女性で閾値の低い集団が一定の割合存在した.Pain Vision®による痛み度は男性649.91±312.94,女性688.08±526.65,と男女ともに著明な高値を示し,FM 患者の痛み度は対照群の関節リウマチ(Rheumatoid arthritis:RA)患者の痛み度346.23±335.82より有意に高かった(P<0.0001).さらにFM 患者の女性では痛みの閾値が低く,疼痛知覚過敏との関連が示唆され,これに対して,RA患者では,閾値の低下はなかった.NRSの平均は,FM患者5.7±2.0とRA患者5.5±2.2では差がなかったが,FM患者ではNRSスコアが高いほど,痛み度が高い傾向が認められた(P=0.0177). Pain Vision®による痛み度の測定は,FM患者の痛みの病態を知るうえで,優れていると考えられる.
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.239-252, 2015

&nbsp;&nbsp;&nbsp;本邦の多くのリウマチ医は線維筋痛症(fribromyalgia; FM)の病名の認識はあるが,疾患の存在に否定的であり,診療に対して拒否的である.最近の脳科学の目覚ましい進歩を背景に,非侵害受容性疼痛,特に慢性疼痛の分子機序,脳内ネットワークの解明などから,FMの疼痛も脳科学から解明されつつある.また,本邦では2003年から厚生労働省の研究班が組織され,疫学調査,病因・病態研究,診断基準,治療・ケア,診療体制の確立,ならびに診療ガイドラインの作成など精力的にプロジェクト研究が行われ,疾患の全体像がかなり具体的に見えてきた.その中で,特筆すべきことはFMの疼痛を,他の慢性疼痛と同様にアロディニアを伴う痛みの中枢性感作によるものと説明し得ること,この現象に脳内ミクログリアの活性化が認められ,いわゆる脳内神経炎症(neuroinflammation)の概念で説明できる可能性である.これら所見は近未来的な病態発症機構を標的とした画期的治療法の開につながるものであり,今後のさらなる発展が多い期待されるところである.病態以外にも厚労省研究班で得られた知見を中心に解説し,またEvidence Based Medicine (EBM)手法を用いて厚労省研究班と学会が合同で作成した,診断,治療・ケアについてのガイドラインも概説した.
著者
松本 美富士 前田 伸治 玉腰 暁子 西岡 久寿樹
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.87-92, 2006-03-30 (Released:2016-12-30)
参考文献数
10
被引用文献数
2

Fibromyalgia (FN) is a common rheumatic disorder in American and European populations. In Japan, however, FM is not a well-accepted concept because it is a poorly recognized disorder. Epidemiological findings of Japanese patients with FM are still unclear due to a lack of nationwide epidemiological surveys. We conducted the first nationwide epidemiological survey for FM in Japan. The estimated annual number of patients diagnosed and treated in hospitals was 2,670 (95% confidence interval (CI) 1,850-3,490), and the number of patients treated by Japanese rheumatologists was 3,930 (95% CI 3, 220-4,640). Only 31.7% (734/2,313) of Japanese rheumatologists could diagnose the patient as having FM. The age distribution was from 11 to 84, with an average age of 52.3±16.2 years of age and 3.6% of them were in their childhood. The estimated onset ages were 44.0±16.1 (9-76) years, and the time elapsed from onset to the survey date was 4.7±6.7 (0-50) years. The male to female ratio was 1: 4.8, and primary FM to secondary FM ratio was 3.1: 1. Among secondary FM cases, underling disorders were as follows: rheumatoid arthritis (35.5%), other rheumatic disorders (44.1%) and others (20.4%). The Japanese patients were treated by rheumatology clinics and physicians. Most of the patients were outpatients, and only 12.5% were hospitalized. For one year, the rate of recovery from FM was only 1.5%, and a half of the patients had poor activity in daily life. These findings show that only a small portion of FM patients would be received medical management in Japan.
著者
黒野 保三 石神 龍代 堀 茂 渡 仲三 松本 美富士
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.95-101, 1986-06-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18

鍼刺激のヒト免疫能へ与える影響を調べるため, 単クローン性抗体によるヒトの末梢血Tリンパ球サブセットの変動について検討を行った。健康成人男子10名, 女子3名の被験者に対し, 脉診法にて2穴を選穴し, 5Hz, 2V, 5min の低周波通電鍼刺激を行った。鍼刺激前および直後に採血し, 末梢血Tリンパ球サブセットの変化をOKT, Leu シリーズの単クローン性抗体を用いて Laser Flow Cytometry によるTリンパ球サブセット自動解析を全血法で行った。末梢血Tリンパ球であるOKT 3+細胞は, 一定の変動を示さないが, Eロゼット形成細胞である OKT 11+細胞は, 鍼刺激後に増加した。免疫反応に対して helper/inducer Tリンパ球となるOKT 4+細胞は, 一定の変動をみなかったが, suppressor/cytotoxic Tリンパ球となるOKT 8+細胞は鍼刺激後増加した。また, 生体の免疫学的監視機構を担う natural killer (NK) 細胞に属する Leu 7+細胞は, 増加するが, 同じくNK細胞の一部である Leu 11+細胞は, 低下を示した。単クローン性抗体による末梢血Tリンパ球サブセットの変動は, 我々がこれまで行ってきた in vitro におけるリンパ球機能の変化をより特異的に確認するとともに, NK前駆細胞をより活性化することを示している。このように, 鍼刺激によって, ヒトの免疫反応系に変化をもたらすことがさらに示された。
著者
黒野 保三 平松 由江 松本 美富士 渡 仲三
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.12-17, 1983-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19

健康人9名における鍼治療の免疫反応への影響のうち, in vitro における各種リンパ球機能の変化について検討を行なった。脈診法により2穴を選穴し通電刺激を行ない, その前後におけるリンパ球機能について末梢血リンパ球を用いて検討した。対照は大腿四頭筋中央部より2穴を選穴し同様の結果とした。鍼刺激直後が最大で240分後も上昇・増強を認めた。T-リンパ球の非特異的刺激物質である, PHA, ConAおよびB-リンパ球刺激物質としてのPWMとNK細胞活性に有意な上昇を認めた。対照については変化が認められなかった。経穴への鍼刺激によってヒトのリンパ球機能に変動が認められた。従って鍼治療が各種疾患に有効であることは免疫反応系に関与していることを示唆する。
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.510-515, 2006-03-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10
被引用文献数
3
著者
石神 龍代 黒野 保三 絹田 章 冨田 靖延 林 尚臣 渡 仲三 松本 美富士
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.238-243, 1994-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
12

名古屋市立大学病院第二内科膠原病・リウマチ専門外来において米国防疫センター (CDC) 及び本邦厚生省調査研究班の診断基準を満足し, 長期経過観察が可能で, informed concent が得られ, かつ従来から報告されている各種薬物療法抵抗性の慢性疲労症候群症例8例に対して鍼治療を施したところ, 慢性疲労症候群の中心的症状である激しい疲労感は明らかに改善し, 随伴症状である様々な身体症状も一部の症例において改善がみられた。また, 免疫学的検査において低下していた末梢血γδT細胞比率が有意に回復した。以上の結果から, 鍼治療は従来からの薬物療法に加えて, 慢性疲労症候群の一つの治療法として有用であることが示唆された。
著者
松本 美富士 由良 二郎
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血学会雑誌 (ISSN:05461448)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.782-786, 1991-12-25 (Released:2010-03-12)
参考文献数
13

Sera from patients with collagen diseases followed at Nagoya City University Hospital were investigated for the detection of antibody (C100-3) to hepatitis C virus (HCV), and HCV-RNA using the method of reverse transcriptase polymerase chain reaction (RT-PCR). The overall prevalance of HCV antibody positivity was 4.8% (12/252) in the patients, and significantly higher than that (1.1-1.2%) of Japanese populations of blood donors. Relative high prevalence (6.5%) was observed in patients with Sjogren's syndrome (SjS). Seven of 12 patients with anti-HCV antibodies were detected HCV-RNA in their sera. All of these patients, except one case, had chances of the infection for HCV. 5 patients, whose sera was negative result of HCV-RNA, had no history of HCV infection. Therefore, the presence of false-positive tests for anti-HCV antibodies was 2.0% (5/245) in patients with collagen diseases. Sera from patients with SjS showed the higher false-positive tests. The false-positive tests for antibodies to HCV did not correlate with the presence of antinuclear antibodies, rheumatoid factor, and hypergamma-globulinemia.
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.11, pp.1833-1839, 1996-11-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5
被引用文献数
1

心病変の発生頻度,病変部位に疾患による差異があるものの,いずれの膠原病でも基本的に心臓も標的臓器となる.心病変は膠原病の重症度,活動性,生命予後を規定する重要な因子である.最近の画像診断の進歩を背景に早期診断が可能となり,また一部の心病変の発生に抗リン脂質抗体が関連していることが明らかにされた.これら病態,診断法の進歩によって早期からの適切な治療によって可逆的病変もあり,長期予後のために重要である.