著者
栗崎 周平
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_36-2_64, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
29

集団的自衛権の行使容認を中核とする日本の安全保障政策の転換を危機外交における軍事介入の問題と定式化した上で, それが, 平時外交における協調問題にどのような影響を与えるのか, ゲーム理論に基づく数理分析を行う。均衡は, 危機外交ゲームが平時の協調問題にどのように影響を与えるのかミクロ的基礎を提示し, 集団的自衛権の行使容認が安全保障のジレンマに影響を与えるのは, 非常に限定的な戦略的構造のもとでのみ可能であることが示される。その上で, 集団的自衛権の行使容認は, 危機発生を抑止する一方で, 日本が平時において非協調外交を推進する誘因を持つようになり, 安全保障のジレンマが悪化することが示される。これは, 危機外交と平時外交がリンクした結果, 平時外交における協調問題が, 将来の危機に備えたシグナリングの場へと変化してしまうからである。他方で, 集団的自衛権行使容認は, 相手国に協調外交への誘因を与え, 安全保障のジレンマを緩和する効果がある。
著者
栗崎 周平
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

このプロジェクトは近年の日本の安全保障政策の変化が安全保障環境に与える影響を分析したものです。特に集団的自衛権の効果について理論的そして実証的な研究を行った。理論的には、ゲーム理論を用いて、集団的自衛権を備えるだけでは日本に米国の同盟コミットメントも日本に対する抑止力も向上することはないが、日本を取り巻く安全保障のジレンマを緩和する効果が得られる条件を明らかにした。実証的には、過去2世紀の同盟データと国際紛争のデータを分析し、同盟内における双務的な防衛義務は、非対称的な防衛義務と比べて、同盟国による開戦を抑制し、同盟国による一般抑止を改善するが、攻撃回避や同盟の信頼性を高めないことが分かった。
著者
栗崎 周平 岩波 由香里 広瀬 健太郎
出版者
早稲田大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

核兵器を巡る国際社会の体制は、一方で核兵器の究極的な廃絶を謳いつつ、他方で核軍縮や 核使用制限には抵抗するという矛盾に覆われている。これは核廃絶に向けた軍縮政策と、現実に存在する核の脅威を抑止するという安全保障政策との両立が困難であるというジレンマに直面したとき、責任ある政府は安全保障を追及せざるをえないという現実主義を、核なき世界という平和主義よりも優先するからである。本研究は安全保障研究を牽引してきた数理政治学者と共同して核による報復攻撃に依拠せずに安全を確保する核戦略を解明・考案することを目指すNew Nuclear Deterrence Theoryプロジェクトを推進するものである。
著者
水野 貴之 土井 翔平 土屋 貴裕 栗崎 周平
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回 (2021)
巻号頁・発行日
pp.4H2GS11c05, 2021 (Released:2021-06-14)

約6600万ノード(企業とその株主)で構成されるグローバルな株所有ネットワークに,約80万種の投資ファンドを結合する.投資運用会社は,投資家の投資ファンドを運用することにより多くの企業の直接的または間接的な株主になり,収益を得る.そして,株主として企業を支配する.我々は,複雑でグローバルな株所有ネットワークを紐解き,社会的責任を伴うESGの投資ファンドとヴァイス企業(たばこ,軍需産業など)とを繋げる経路が存在することを指摘する.投資をやめれば,ヴァイス企業からの収益はなくなるが,支配することができず野放しになる.一方で,投資をおこなえば,ヴァイス企業からの収益を受け取ることになる.このジレンマは,グローバル株所有ネットワークで線形におこなわれる収益の配分と,多数決を通じて非線形におこなわれる支配力の配分を定量化し,収益と支配力とのバランスで投資の可否を決断することにより解決できる.
著者
鈴木 基史 飯田 敬輔 石黒 馨 岩波 由香里 栗崎 周平 多湖 淳 石田 淳 小浜 祥子 中山 裕美
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

主な実績として以下の3つを挙げる。最も重要な成果は、本研究計画に即して初年度から進めてきた分析をまとめあげるため、代表者・分担者が下記の題目の論文の作成に着手し、進めたことである。その過程として、9月に研究会を開催して代表者が方向性を提示し、その後、調整を経て各論文の題目と構成の決定を行った。いずれの論文も科研題目「国際制度の衰微と再生の政治経済分析」に合致し、研究計画で予定されている方法を駆使して作成されるものである。石黒馨「貿易協定と貿易戦争の緩衝」、石田淳「事前協議制度と同盟ディレンマの緩和」、岩波由香里「国連平和維持活動と部隊派遣」、鈴木基史「国際開発援助制度の危機とポピュリズムの台頭」、栗崎周平「外交使節制度の進化と国際システムの形成」、飯田敬輔「グローバル貿易レジームと米国リーダーシップの言説」、中山裕美(土井翔平との共著)「 国際難民制度の危機のテキスト分析」、鈴木基史(松尾晃隆・宇治梓紗との共著)「国際金融サーベイランス制度の比較テキスト分析」、多湖淳「非核三原則と国民の認識変化」、小濵祥子(大槻一統との共著)「核抑止制度と第二撃」第二の実績として、2019年6月28日に京都大学において日本学術会議の主催、本科研研究共催の学術フォーラム「グローバル政策ネットワークと国際機関」を主導した。同フォーラムは、本研究課題と合致し、代表者の鈴木が責任者として趣旨説明を行い、分担者の飯田敬輔教授が本科研課題に関連する研究報告を行った。第三に、研究協力者の宇治梓紗京都大学講師が、本科研研究の方法として掲げているサーベイ実験を気候変動制度を対象として実施した。これらの研究の進捗状況の確認と関連研究報告を行うことを趣旨とした研究会の開催を2020年3月に予定していたが、感染問題で中止とせざるを得なかった。その後、メール審議によって進捗状況の確認を行った。
著者
土井 翔平 水野 貴之 栗崎 周平
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.2E5OS1b03, 2020

<p>グローバルな株式所有関係により、企業は間接的に外国政府や企業の支配下に置かれることがある。例えば、中国政府は国有企業を通じて外国の電力会社や港湾事業者に間接的な影響を及ぼしていると言われている。そこで報告者たちは昨年、こうした間接的支配を定量化するNetwork Power Index (NPI) およびその計算アルゴリズムを発表した。本報告では株式ネットワークの変化によるNPIの変化に焦点を当てる。具体的には香港が中国の完全な支配下に置かれた場合と中国から独立した場合のシミュレーションを行う。NPIは株主の議決権比率それ自体ではなく株主間の議決権比率の分布によって決定されるため、中国と香港の間の政治的対立が第三国に波及することが考えられる。本研究のシミュレーションにより、それぞれのシナリオにおいて得をする国と損をする国が明らかにした。興味深いことに、日本は香港の地位がどのようになったとしても影響力を低下させることが分かった。このような株式関係の変化が第三者に与える影響は効果的な株式投資にも役立つものだと考えられる。</p>