著者
小谷 康弘 桜井 宏紀 照屋 匡 伊藤 嘉昭 武田 享
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.51-57, 1991-12-25

ウリミバエのガンマー線照射による不妊化の機構を組織学的に検討した。電子顕微鏡による精巣の観察では,照射虫の精原細胞,精母細胞は崩壊し,自由精子のみが存在していた。照射虫と交尾した雌の産下部の胚子発生過程の光学顕微鏡による観察では,卵割異常,胚盤葉形成阻害など発生初期の段階での異常がみられ,それ以降の胚子発生過程は認められなかった。ガンマー線照射により雄の生殖細胞は大部分が崩壊するものの,残った精子は受精には関与した。しかし,受精に関与した精子は胚子発生過程を停止させる異常精子であり,このことがほぼ100%の不妊化率を引き起こすものと推定された。光学顕微鏡による中腸の観察では,照射虫の中腸上皮細胞の萎縮や崩壊がみられた。このことから,ガンマー線照射により中腸組織に阻害を生じ,消化機能が阻害されることが,成虫の寿命低下の一因になっていると思われる。
著者
桜井 宏紀
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.263-269, 1979-09-15 (Released:2016-09-04)
被引用文献数
2 1

センチニクバエの卵胎生過程を昆虫不妊剤hempaの作用との関連で検討した。卵形成にともない卵母細胞は羽化4日後より発育を開始し, 10日で卵胞は成熟し, 12日後に産仔がみられた。組織観察の結果, 卵胎生の本種と卵生の種類のハエとの間で卵形成過程に違いは示されなかった。また子宮中の受精卵において分裂核の出現, 胚盤葉の分化, 口陥, 消化管形成, 幼虫組織の形成などの発生学的経過が観察された。hempaの処理により卵巣発育は顕著に抑制され, 0.5% hempaの継続処理により卵巣の成熟化が完全に阻止された。組織観察の結果, hempaは幼若な卵胞の細胞機能を攪乱し, 細胞崩壊をひき起こし, 究極的に卵胞の空胞化をもたらすことが示唆された。
著者
韋 秉興 桜井 宏紀 土田 浩治
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.117-121, 2001 (Released:2003-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

Development of artificial diets was studied for larvae and adults of the alfalfa weevil, Hypera postica Gyllenhal. The artificial diets for larvae and adults were used for 3–4 days without replacement, and preserved 2 months without decay at 4°C. The rate of adult emergence reached 14.6% on the larval diet, but was significantly lower than that of control diet (fresh alfalfa leaf). The adults fed actively and oviposited well on the adult diet with no significant difference in the number of eggs deposited and their hatchability between females on artificial and control diets. We successfully reared through two generations with the artificial diets for larvae and adults.
著者
鈴木 俊郎 桜井 宏紀
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.19-22, 2001-12-25

侵入害虫のアオマツムシCalyptotrypus hibinonis Matsumuraで卵寄生蜂であるアオマツムシクロタマゴバチLeptoteleia japonica sp. nov.の存在が確認された.この寄生蜂の生活史を調査した結果,幼虫は12ケ月にもわたり寄主卵内で発育し,羽化時期は寄主の産卵時期とよく同調しており,卵寄生蜂の中でも特異な生活環をもつことが確認された。寄生率はかなり高く,性比は0.32で雌に偏っていた。本種はアオマツムシの主要な天敵であることが確認された。
著者
桜井 宏紀 田畑 幸司 照屋 匡 小濱 継雄
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.31-38, 1996-11-28

ガンマ線照射によるウリミバエ(Dacus cucurbitae Coquillett)雌の不妊化機構を解明するため,卵形成と中腸に及ぼすガンマ線照射の影響を超微形態学的に検討した。正常虫では羽化後直ちに第1卵胞が交互栄養室型卵管の生殖巣より分化した。栄養細胞と濾胞上皮細胞は卵母細胞の成長に関連した形態学的変化を示し,羽化後8日以降に成熟卵が形成された。一方,照射虫の卵巣小管では卵原細胞は核濃縮や核融解を起こした。ライソブームは前栄養細胞の崩壊,凝縮,融解に関与し,生殖巣は空隙化した。観察結果から,70Gyの線量のガンマ線照射によりウリミバエの卵形成が完全に抑制され,雌の不妊化を引き起こすことが示された。正常虫の中腸の上皮の円筒細胞は分厚く,細胞の上縁部より腸の内腔に向かって微絨毛が密生していた。腸内には棹状の細菌が少数存在したが,それらは囲食膜によって吸着され溶解した。一方,照射虫の中腸上皮の円筒細胞は日令の経過に伴い薄層化し,中腸後端部の腸内には棒状の細菌が退化した囲食膜にそって多数存在した。観察結果から,ガンマ線照射によって中腸上皮細胞と囲食膜に障害を生じ,栄養欠乏を起こして最終的に成虫の寿命が低下することが推察された。
著者
桜井 宏紀 後藤 研也 武田 享
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.37-45, 1983-12-15

ナナホシテントウの野外における発生状況を知るため,翅鞘の色彩および卵巣の発達度の季節的変化を中心として,成虫個体数の年間の変動を検討した。新成虫は晩春(第1世代),秋(第2世代)および初冬と3回の発生がみられた。第1世代成虫は6月下旬より一斎に夏眠に入り,雑草の根元で休眠した。一方第2世代成虫は12月下旬より越冬に入るが,真冬でも晴れた温暖な日には活動個体が野菜畑の周囲で観察された。翅鞘の色彩および卵巣の発達度から,初冬にみられる新成虫の発生は少数個体によるもので,第3世代個体とみなされないように思われた。そして翅鞘の色彩の程度とアラタ体の大きさの間には相関がみられることから,世代の重なり合う時期における成虫の令を推定するのに,翅鞘の色彩は卵巣発育とともに有効な指標であることが示された。
著者
桜井 宏紀 稲葉 哲也 武田 享
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.81-90, 1992-12-25

ネダニ(Rhizoglyphus echinopus Fumouze et Robini)の生態を明らかにするため,繁殖に及ぼす温度の影響を調べた。実験には累代飼育個体群(30℃,関係湿度95%で飼育)より得た孵化幼虫を,湿度95%,20,25,27及び30℃の各温度区で個別飼育し,発育状況,産卵数及び孵化率を調査した。生存率は30℃で最も高く,次いで25℃,20℃の順であり,温度の低下にともない生存率は激減した。発育過程が進むにつれ各ステージの発育期間は延長し,また温度の上昇に伴い総発育期間は短縮した。発育零点は9.44℃,有効積算温度は105.52日度であった。成虫の生存日数は高温ほど延長し,各温度区とも雌の方が雄よりも寿命は長かった。温度の上昇につれ雌の出現率は高くなり,卵期間は短縮する傾向を示したが,産卵数には温度による差は見られなかった。
著者
桜井 宏紀 河合 利温 武田 享
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.127-131, 1988-12-25

ナミテントウの休眠の生理的特徴を知るため,飼育個体と野外採集個体について休眠に伴う生理的変化を検討した。飼育個体の観察では,夏期に第1世代成虫の呼吸量は低下するが,生体重の増加と活発な産卵行動がみられたことから,本種は夏眠しないことが確かめられた。一方,冬期には第2世代成虫の呼吸量及び生体重は減少し,生殖活動も全くみられず,成虫は休眠状態に入った。野外採集個体の観察では,第2世代成虫の卵巣は3月まで全く発育がみられなかったが,幼若ホルモン物質を越冬個体に塗布処理したところ,卵巣がただちに発育し産卵がみられた。このことから,本種の冬眠はアラタ体の活性低下に起因する真の休眠であることが示唆された。