著者
藤田 剛 土方 直哉 内田 聖 平岡 恵美子 徳永 幸彦 植田 睦之 高木 憲太郎 時田 賢一 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.163-168, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
29

アマサギは人に運ばれることなく急速に分布拡大した例とされるが,分散や渡りなど長距離移動には不明な点が多い.筆者らは,茨城県で捕獲されたアマサギ2羽の長距離移動を,太陽電池式の人工衛星用送信器を使って追跡した.2羽とも,捕獲した2006年の秋にフィリピン中部へ移動して越冬したが,その内1羽が翌春に中国揚子江河口周辺へ移動し,繁殖期のあいだそこに滞在した.そこは,前年繁殖地とした可能性の高い茨城県から1,900 km西に位置する.この結果は,東アジアに生息するアマサギにおいて長距離の繁殖分散を確認した初めての例である.
著者
植田 睦之 神山 和夫
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.F33-F36, 2014

気候変動に対する鳥類の反応をモニタリングするために2005年に開始した参加型調査「季節前線ウォッチ」により収集したデータである.モズ(高鳴き),ヒバリ,ウグイス,メジロの初鳴き日,ホトトギス,カッコウ,アオバズク,ツバメ,オオヨシキリ,ツグミ,ジョウビタキの初認日,ヒヨドリの秋の渡り開始日,カルガモのヒナの初認情報も収集した.これらのデータを集計することで,どの種も年により初認時期が違うこと,温暖な地域ほど初認時期が早く,寒冷な地域ほど遅いという地理的な差があり,その差は1-2月にさえずりはじめるヒバリやウグイスでは大きく,3-4月に渡来するツバメやオオヨシキリは中くらいで,5月に渡来するホトトギスやカッコウでは小さいことなどがわかった.今後,情報を蓄積していくことで,気候変動の鳥類への影響などを解析することができると思われる.
著者
植田 睦之
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.S19-S22, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
10

シジュウカラは主要な捕食者であるツミが繁殖してる林では,飛行形態がツミと似ているキジバトに対して,警戒声を発する頻度がツミの繁殖していない林と比べて高かった.シジュウカラはツミの繁殖している危険度の高い場所では警戒度合を高めていて,キジバトに対しても反応することで,捕食のリスクを低めており,危険度の低い場所では,警戒度合を下げることで警戒のコストを下げておいるのだと考えられた.
著者
植田 睦之
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A19-A23, 2012

オナガ <i>Cyanpica cyana</i> はツミ <i>Accipiter gularis</i> の防衛行動を利用して捕食を避けるために,ツミの巣のまわりに集まってきて繁殖するが,ツミが巣の直近しか防衛しなくなった2000年代からは,ツミの巣のまわりで繁殖することは少なくなった.しかし,一部のオナガはツミの巣のまわりで繁殖し続けている.なぜ,一部のオナガがツミの巣のまわりで繁殖しているのかを明らかにするため,営巣環境に注目して2005年から2011年にかけて東京中西部で調査を行なった.ツミの巣のまわりのオナガの巣は1990年代よりも葉に覆われた場所につくられるようになり,通常のオナガの営巣場所とかわらなかった.またツミの巣の周囲に好適な巣場所が多くある場所でのみ,ツミの巣のまわりで営巣した.これらの結果は,オナガは1990年代同様,ツミのできるだけそばで繁殖しようとしてはいるものの,当時のように自分たちの巣の隠蔽率を無視してまでツミの巣の近くを選択することはなく,営巣場所選択におけるツミの巣からの距離と隠蔽率の優先順位が逆転したことを示唆している.
著者
三上 修 植田 睦之 森本 元 笠原 里恵 松井 晋 上田 恵介
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A1-A12, 2011 (Released:2011-05-20)
参考文献数
12
被引用文献数
2

近年,日本国内においてスズメ Passer montanus の個体数が減少していると言われている.その原因はわかっていないが,熊本で行なわれた先行研究では,都市部では農村部とくらべて1つがいが連れている巣立ち後のヒナ数が少なく,都市化にともなう何らかの要因がスズメの減少をもたらしている可能が示唆されている.しかし,この研究は狭い地域で行なわれたものであり,それが本当に日本全体でも起きているかはわからない.そこで2010年にこの研究と同じく,巣立ち後のヒナ数を調べる調査を「子雀ウォッチ」と銘打ち,一般市民に協力してもらう形で全国規模で行なった.その結果,全国から406の記録が集まり,それを解析したところ,巣立ち後の平均ヒナ数は,商業地で1.41羽,住宅地で1.81羽,農村では,2.13羽と,商業地,住宅地,農村の順で多くなった.この結果は前述の先行研究の結果と整合性があり,やはり都市化と関連している何らかの要因が全国規模でスズメの減少要因になっていると考えられる.この子雀ウォッチを今後もつづけ,記録を蓄積することで,スズメの減少要因の解明につながると期待できる.
著者
三上 かつら 高木 憲太郎 神山 和夫 守屋 年史 植田 睦之
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.112-123, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

本研究では,渡り性の水鳥類の全国的な渡来地について,規模の大きな渡来地や希少種の渡来地が保護区域に指定されているか,日本に渡来するガンカモ類やシギ・チドリ類の生息に各渡来地がどのように寄与しているのかを解析し,重要な渡来地でありながら保護区域に指定されていない場所の抽出を行なった.河川湖沼の鳥の調査サイト84カ所のうち,35.7%が特別地域,22.6%が普通地域,41.7%が未指定であった.干潟の鳥の調査サイト152カ所のうち,10.0%が特別地域,24.7%が普通地域,66.7%が未指定地域であった.個体数,ラムサール基準値(一部フライウェイ基準値)を超えた種数に着目すると,河川湖沼の鳥が多数訪れるサイトは比較的保護されているが,干潟の鳥が多数訪れる場所については保護指定が遅れている状況が示された.また全ての渡来地を希少種の渡来数に対する寄与率で順位づけしたところ,希少種が多数渡来するサイトは限定的であり,全体的に渡来数数の多いサイトが少数あり,渡来数の少ないサイトが残り多数を占めるという傾向がみられた.したがって,ガンカモ類,シギ・チドリ類といった渡り性の水鳥が集団で生息する特性も考慮すると,保護区による保護が効果的であるといえる.今回検出された寄与率の高かったサイト(大授搦,曽根干潟,泡瀬干潟,宇佐海岸,大阪北港南地区,白川河口など)は優先的に保護区域に指定される必要があるだろう.
著者
植田 睦之
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.S1-S4, 2012 (Released:2012-04-12)
参考文献数
11

2008年から2010年の3月に北海道小平町において,春期に北へ向かって渡るハシブトガラスとハシボソガラスの飛行位置と個体数,風向を記録した.東よりの風が吹いているときにはカラス類は内陸を渡ることが多く,西よりと北の風の吹いているときには海岸段丘沿いを渡ることが多かった.調査地では西よりの風が吹くと海岸段丘により斜面上昇風が起きる.カラス類はこの斜面上昇風を利用して,渡っていることが示唆される.
著者
植田 睦之 福田 佳弘
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.S21-S26, 2010 (Released:2010-09-13)
参考文献数
5
被引用文献数
4

北海道西部の日本海沿岸において,オジロワシとオオワシの飛行頻度に影響する気象要因を明らかにするために調査を行なった.解析した気象要素は,気圧,気温,降水量,風速,日照量および,風速の西ベクトル(西方向の風の強さ)と北ベクトル(北方向の風の強さ)で,これらとワシ類の飛行頻度とを比較した.その結果,西方向の風の強さがオジロワシ,オオワシの出現頻度に影響していた.調査地では西方向の風が吹くと海岸段丘による斜面上昇風が生じると考えられ,そのため西方向の風が強いとワシ類の出現頻度が高くなるのだと考えられる.
著者
植田 睦之
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research
巻号頁・発行日
vol.3, pp.A11-A18, 2007

環境省が行なった「ガンカモ科鳥類の生息調査」の結果と気象庁による積雪の深さと最低気温の記録をもちいて北海道,東北地方,中部地方日本海側で越冬するハクチョウ類とカモ類の越冬数におよぼす積雪や気温の影響について解析した.北海道のカモ類を除き,ハクチョウ類もカモ類も年々記録数が増加する傾向があった.気象要因については,東北および中部地方の日本海側の地域では,ハクチョウ類は気温の,カモ類は積雪の影響を強く受けることがわかった.気温は開水面の凍結を通してねぐらや休息地の状況に影響を与え,積雪は水田などの採食地での食物の採りやすさに影響を与えると考えられる.したがって,ハクチョウ類は給餌への依存度が高く,止水域をおもな生息地としているために気温の影響を強く受け,カモ類は,水田などが重要な採食地になっているので,積雪による影響を強く受けると考えられる.