著者
櫻井 孝 楊 波 高田 俊宏 横野 浩一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.962-965, 2000-12-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
4
被引用文献数
4 5

アルツハイマー病脳ではグルコース代謝率の低下, 乳酸代謝率の上昇が知られている. そこで細胞外液のグルコース濃度を調節し, 或いは乳酸に置換した時の神経活動, シナプスの可塑性および神経の生存について検討を行なった. 神経活動は海馬の貫通線維を刺激して歯状回で記録される集合電位の振幅で評価した. 細胞外液のグルコースを除くと神経活動は非可逆性に抑制されたが, グルコースを乳酸に置換すると神経活動は一過性に抑制されたが自然に回復した. 一旦無グルコースから回復した海馬切片では乳酸による神経活動の抑制は見られなかった. シナプスの可塑性は長期増強現象の発現について検討した. 細胞外液に10mMグルコースが存在する時は高頻度刺激により約140%の長期増強現象を誘発したが, 乳酸では神経活動の増強は約110%に留まった. 次に海馬スライス培養系を用いて乳酸の神経生存に及ぼす作用を検討した. 培養24~48時間では Propidium iodide の取り込み, LDHの分泌は乳酸栄養での培養ではグルコース栄養での培養と同程度に抑制した. 以上の結果より神経細胞でグルコースの利用が障害された時, 乳酸は神経活動の維持に利用され, 神経細胞の生存にも寄与するが, シナプス可塑的現象 (長期増強現象) の発現には十分でないことが示された.
著者
原 賢太 横野 浩一 安田 尚史 明嵜 太一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

mTORシグナルの栄養代謝における役割を生体で解析するため、mTORC1シグナル特異的阻害剤であるラバマイシンを腹腔内投与したC57BL6マウスモデルを用いて解析を行ったところ、非投与群に比べて体重血糖、遊離脂肪酸や脂肪重量などには有意な差は認めなかったが絶食後の血中ケトン値がラバマイシン投与群で有意に高値を示していることを前年度見出したそこで次に肥満、2型糖尿病モデルであるKK-Ayマウスに同様の解析を行った。その結果やはりラバマイシン処理群で血中ケトン体の産生が有意に増加していた。また投与群で体重増加が有意に抑えられていたにもかかわらず、随時血糖値の上昇、肝・脂肪重量の低下が見られ、またインスリン負荷試験にてインスリン感受性の低下が見られた。一方、mTORヘテロノックアウトマウスを用いて同様の解析を行ったが、ヘテロ欠損はlittermateの野生型と比べても、絶食後のケトン体や遊離脂肪酸の産生および脂肪や肝重量に有意な差を認めなかった。以上のラバマイシンを用いたマウスモデルの解析から、mTORC1シグナルは、飢餓時におけるケトン体産生に対して抑制的に働いている一方、mTORC1経路の抑制は、末梢でのインスリン感受性と膵β細胞の代償性肥大化を抑制することで、耐糖能の悪化をきたすことが明らかとなった。mTORC1は生体において、糖・エネルギー代謝において重要な役割を担っており、分子栄養学的な観点から重要な標的分子であることが明らかとなった。
著者
中田 邦也 早川 みち子 横野 浩一 内海 正文 吉田 泰昭 老籾 宗忠 馬場 茂明
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.528-532, 1986
被引用文献数
1

症例は38才,主婦.身長156cm,体重65kg.満月様顔貌,中心性肥満,高血圧を示し, Cushing症候群が疑われ当科へ入院した.尿中170HCS高値,尿中17KS正常で,血漿cortisolは常時高値で日内リズムは消失し,血漿ACTHは常時測定感度以下であつた. dexamethasone 2mgおよび8mg負荷で共に血漿cortisol,尿中170HCSの抑制はみられず, metyrapone 3g負荷でも尿中170HCSは増加反応を示さなかつた.また, CTscan,副腎シンチ,血管造影等各種画像診断にて両側副腎腫瘍が疑われた.手術にて右副腎に25×21mm,左副腎に18×14mmの腫瘍を摘出し,組織学的に共に腺腫と診断された.
著者
石橋 理恵子 丸山 千寿子 田中 利枝 南 昌江 島田 朗 内潟 安子 黒田 暁生 横野 浩一 筒井 理裕 目黒 周 小山 一憲 大村 栄治 清水 一紀 高橋 和眞 中村 佳子 益子 茂 丸山 太郎
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 = JOurnal of the Japan Diabetes Society (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.189-195, 2005-03-30
被引用文献数
1

1型糖尿病患者の治療および, 食生活の実態を明らかにすることを目的に調査を行った. 糖尿病専門医14名に計463部の調査票を配布し, 外来時に1型糖尿病患者に渡してもらい, 留め置き法で回収者に直接郵送してもらった (回収率54.4%). コントロールとして, 健常者166名に食生活習慣調査を実施した. 健常者に比べ, 1型糖尿病患者は望ましい食生活習慣が形成されていたが, 食事にストレスを感じる者が多かった. さらに, 1型糖尿病患者を食事療法実践意識により4群に分類したところ, 食事療法実践意識が高い者は他群に比較して有意にカロリーに配慮する者が多く, 野菜摂取量も多く, 海藻や果物, 低脂肪乳摂取頻度も高かったことから, 食事療法を遵守していると考えられた. しかし, 食事療法実践意識によりHbA<sub>1</sub>cや低血糖回数に差はみられず, 1型糖尿病の食事療法の教育内容を検討しなおし, ストレス軽減に考慮した栄養教育を展開していく必要があると思われた.