著者
野田 幸裕名 鍋島 俊隆 毛利 彰宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.117-123, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症と類似した精神症状(PCP精神病)を惹起することから,統合失調症にはグルタミン酸作動性神経の機能低下が関係しているという「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱された.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理効果を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物モデルでも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると休薬後において運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,強制水泳ストレスによる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このモデル動物を用いた研究により,統合失調症の病態解明,新規治療薬の開発につながることが期待されている.
著者
脇 由香里 吉見 陽 千﨑 康司 宮田 はるみ 伊東 亜紀雄 相馬 孝博 上田 裕一 毛利 彰宏 山田 清文 尾崎 紀夫 野田 幸裕
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.475-480, 2011 (Released:2012-08-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Falls and fall-related injuries among inpatients are one of the most important concerns in medical safety management and sometimes cause a significant decrease in activities of daily living (ADL). It has been suggested that the adverse reactions of psychotropic drugs related to their sedative-hypnotic, cognitive deficit producing and muscle reaction-related effects are closely associated with falls.In this study, we examined a relationship between the risk of falls and psychotropic drugs based on prescriptions in fall incident reports at Nagoya University Hospital in a 12-month period beginning in April 1, 2005. In July 2006, we conducted an educational intervention involving instructing health care staff on the optimal use of psychotropics. After doing this, we examined prescriptions in fall incident reports over a 12-month period beginning in April 1, 2006. The results showed a decrease in fall incidence due to long-acting drugs in 2006 as compared with 2005 and this indicated that, among psychotropics, sedativehypnotic-anxiolytics were one of the highest risk factors for falls. These results suggest that an educational intervention can be an effective means of reducing the number of falls and fall-related injuries among inpatients.
著者
櫛田 真由 小谷 悠 水野 智博 室崎 千尋 浅井 玲名 肥田 裕丈 平林 彩 鵜飼 麻由 荻野 由里恵 後藤 綾 山下 加織 松本 友里恵 毛利 彰宏 鍋島 俊隆 野田 幸裕
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.10-17, 2013-01-10 (Released:2014-01-10)
参考文献数
12

We held classes and practice sessions on medicines for pupils and parents at elementary schools with the aim of promoting appropriate drug use. Pharmacy students participated in this project as volunteers where they taught pupils and learned and improved their communication skills at an early stage in their professional development. To evaluate whether pupils improved their medicine-related knowledge after attending these classes and practice sessions, we conducted medicine-related questionnaires (pre- and post-questionnaires) before and after the classes and practice sessions. Positive answers for the post-questionnaire were significantly higher than those for the pre-questionnaire, suggesting that the medicine-related knowledge of pupils was improved by attending the classes and practice sessions. The present results suggest that this activity benefits the education of pupils regarding appropriate drug use in Japan.
著者
毛利 彰宏 野田 幸裕 溝口 博之 鍋島 俊隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.4-8, 2006 (Released:2006-03-01)
参考文献数
40
被引用文献数
2 2

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症とよく似た精神症状を示すことから,統合失調症の病態仮説として「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱されている.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理作用を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物でも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると,休薬後において少量のPCPを投与すると運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,一方,強制的に水泳をさせても泳がなくなる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このようなPCP連続投与マウスに認められる情動・認知機能障害にグルタミン酸作動性神経系がどのように関与しているのか分子機序を調べたところ,運動過多の増強はPCPがNMDA受容体拮抗作用を示し,その結果ドパミン作動性神経系を亢進することによっていた.生理食塩水連続投与マウスでは強制水泳ストレス負荷および水探索や恐怖条件づけ試験で訓練するとCa2+/calmodulin kinase IIやextracellular signaling-regulated kinaseのリン酸化が著しく増加するが,PCP連続投与マウスでは増加しなかった.一方,PCP連続投与マウスの細胞外グルタミン酸の基礎遊離量は著しく減少していた.これはグリア型グルタミン酸トランスポーターのGLASTの発現が増加し,グルタミン酸の再取り込みが増加しているためであることが考えられた.したがって,PCP連続投与マウスに認められる精神行動障害には,グルタミン酸作動性神経系の前シナプス機能およびNMDA受容体を介する細胞内シグナル伝達の低下が関与しているものと考えられる.
著者
野田 幸裕 毛利 彰宏 鍋島 俊隆 尾崎 紀夫
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

統合失調症の発症要因(周産期ウイルス感染、出産時低酸素脳症や育児放棄)の共通因子として、プロスタグランジンE2(PGE2)が関与するどうか検討した。発症要因を模したモデルマウスの脳内PGE2量は増加していた。周産期ウイルス感染モデルマウスに認められる統合失調症様の認知・情動行動障害にEP1受容体が関与していた。新生仔期PGE2暴露は、神経発達障害に伴う成体期ドパミン神経機能低下や認知行動障害を惹起させ、乱用薬物に対して脆弱性を示した。一方、統合失調症の発症・病態にPGE2関連遺伝子の関連性は認められなかった。PGE2は統合失調症の環境要因の共通因子および、発症脆弱性に関わることが示唆された。
著者
山本 元司 岩村 誠人 毛利 彰
出版者
日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.16, no.8, pp.1123-1130, 1998-11-15 (Released:2010-08-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

This paper proposes a planning method for time-optimal trajectories of mobile robots. A dynamical model for two independently driven wheels type mobile robots is derived. Using an idea of path parameter, optimal trajectory for specified path of mobile robot is easily obtained considering dynamical constraints such as driving torques and velocities. An efficient collision-free near-time-optimal trajectory planning method is proposed using a local optimization method and a global search method of initial paths. The B-spline parameter optimization method is used as a local optimization. Some numerical examples show an effectiveness of the proposed planning method.
著者
鍋島 俊隆 野田 幸裕 平松 正行 毛利 彰宏 吉見 陽 肥田 裕丈 長谷川 章 間宮 隆吉 尾崎 紀夫 山田 清文 北垣 伸治
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、幼児・学童期において問題視されている心理社会的ストレスを想定し、幼若期マウスに社会的敗北ストレスを負荷し、社会性行動について評価した。幼若期マウスは心理社会的ストレスに対して、成体期マウスに比べて脆弱であり、成体期まで持続する社会的行動障害を示した。社会的行動障害モデル動物としての評価系を確立できた。この動物の社会性行動障害には、グルココルチコイド受容体の活性化、モノアミン作動性神経系およびグルタミン酸作動性神経系の遺伝子発現変化に伴って、これら神経系の機能異常が関与していることが示唆された。
著者
毛利 彰宏 野田 幸裕 鍋島 俊隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.141-146, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

水探索試験は,絶水していないマウスを一度だけ給水ビンのある環境に暴露した時,その中にある給水ビンのノズルの位置について覚えているかどうかを指標にする学習・記憶試験である.ノズルの位置に対する記憶は自由な探索行動の中で水に対する強化効果なしに獲得されるため,動物の潜在的な学習能力(潜在学習)を反映すると考えられている.グルタミン酸機能低下仮説に基づいた統合失調症様モデル動物[N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬のフェンシクリジン(PCP)を急性あるいは連続投与した動物およびNMDA受容体サブユニット遺伝子欠損マウス]は潜在学習障害を示すため,潜在学習にはNMDA受容体が関与していると考えられる.特にPCP連続投与マウスでは前頭皮質ドパミン作動性神経系の機能低下が認められ,ドパミンD1受容体を介するNMDA受容体機能の低下が潜在学習障害の発現に関与していることが示唆されている.ノルアドレナリン作動性神経機能を低下させたマウスやドパミンおよびノルアドレナリンの合成能が低下しているチロシン水酸化酵素(TH)遺伝子変異マウスにおいても潜在学習障害は認められる.一方,ドパミン作動薬によっても潜在学習は障害される.この障害はドパミン作動性神経機能の亢進によっておりドパミンD2受容体を介したものであると示唆されている.このような潜在学習障害は頭部外傷モデル動物において認められる.受容体以降の細胞内情報伝達系の潜在学習における役割についてはカルシウムシグナルのセカンドメッセンジャーであるCa2+/calmodulin kinaseII(CaMKII),その下流のcyclic AMP response element binding protein(CREB)が関与していることが,特異的阻害薬や遺伝子変異マウスを用いた研究において報告されている.これらシグナル伝達に対して抑制作用をもつノシセプチンは潜在学習を障害する.このように潜在学習は多くの神経系の相互作用により細胞内情報伝達が変化し,形成されるものと考えられている.