著者
水田 孝信
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.892-897, 2012-08-15

近年金融業界において,情報化と高速化の進展は目覚しいものがある.この情報化は金融が効率化しただけでなく,今までにない新しい事業を生み出す後押しにつながっている.本稿では金融になじみがあまりない読者にもなるべく分かりやすいように,そもそも社会の中での金融の役割は何であるかを解説し,その中で金融業界において情報化・高速化が進展してきた背景を解説する.そして,今後どのような研究や技術が必要でどのような課題があるのか著者の考えを述べる.
著者
草田 裕紀 水田 孝信 早川 聡 和泉 潔
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.675-682, 2015-09-01 (Released:2015-09-01)
参考文献数
22
被引用文献数
5

We analyzed the impact of position-based market maker, which tries to maintain its neutral position, to the competition among stock exchanges by an artificial market simulation approach. In the previous study, we built an artificial market model and investigated for the impact of non-position-based market maker's spread to the markets' shares of trading volumes. However it had the serious problem that the non-position-based market maker is too simple to manage its own position properly and so we could not judge weather the result of previous study is correct or not. Thus in this study, we made a position-based market maker and explored the competition, in terms of taking markets' shares of trading volumes, between two artificial financial markets that have exactly the same specifications except existing a market maker, the non-position-based market maker or the position-based market maker. As a result, we found that the position-based market maker can acquire the share of trading volumes from the competitor even though its spread is bigger than bid-offer-spread of the competitor. Moreover, we revealed that position-based market maker can get a profit even in the situation that its spread or tick sizes of the stock exchanges are small. In addition to that, position-based market maker made a profit in almost all experiments which we conducted in this research by changing its spread and tick sizes of markets. At last, we confirmed that position-based market maker can manage its position properly compared to non-position-based market maker. In conclusion, the position-based market maker can not only supply liquidity to stock exchanges and contribute to acquire the share from the competitor as well as the non-position-based market maker does, but also manage its own position properly and make a profit.
著者
水田 孝信 八木 勲 和泉 潔
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.320-327, 2012 (Released:2012-09-27)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

We develop a theoretical model to evaluate settings of artificial markets considering a realistic pricing mechanism. We show the model can evaluate the settings in an environment in which a dynamic micro mechanism plays an important role, for example, a price rebound after a sharp fall in stock markets. Styled facts, which are statistics for long term, can not evaluate such a dynamic situation. We emphasis that such a dynamic situation which the styled facts can not evaluates is very important to analyze market crush and/or market regulations.
著者
星野 真広 水田 孝信 八木 勲
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.AG21-G_1-10, 2021-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

Recently, most stock exchanges in the U.S. employ maker-taker fees, in which an exchange pays rebates to traders placing make orders (remaining on an order book) and charges fees to traders taking orders (executed immediately). The maker-taker fees will encourage traders to place many make orders and the orders will provide liquidity to the exchange. However, the effects of the maker-taker fees for a total cost of a taking order, including all the charged fees and market impact, are not clear. In this study, we investigated the effects of the maker-taker fees for the total costs of a taking orders using our artificial market model, which is an agent-based model for financial markets. In addition, we examine the difference of market liquidity in the market between with and without a makertaker fee structure. We found that the maker-taker fees encourage the traders to provide liquidity, whereas increase the total costs of taking orders. Furthermore, we found market liquidity improved when the market maker rebates increased.
著者
水田 孝信
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

近年,投資ファンドがある業界のすべての企業の大株主となる``水平株式保有''(horizontal shareholding)(または``共同保有''(common ownership)ともよばれる)が,公正な企業間の競争を阻害し,産業の発展を妨げているという主張が増えてきた.特にパッシブファンドによる水平株式保有が大きな割合となっており,大きな議論となっている.本研究では,人工市場モデルを用いてパッシブファンドの増加が企業間競争と市場価格へ与える影響を分析した.その結果,パッシブファンドの割合がさほど大きくなくても,競争を阻害する可能性を示した.また,競争に勝った企業の市場価格が増加したファンダメンタル価格以上に上昇して割高となり競争を促す株主が離れて競争力を弱くする一方,競争に負けた企業の市場価格が減少したファンダメンタル価格よりさらに下落して割安となり競争を促す株主が増え競争力を強くして,企業間競争のバランスをとるメカニズムが存在する可能性があることを示した.パッシブファンドの増加はこのようなメカニズムを弱める恐れがあると考えられる.
著者
水田 孝信
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.FIN-025, pp.82, 2020-10-10 (Released:2022-11-11)

人工知能が相場操縦を行った場合の責任の所在が議論されている.そこで本研究では,遺伝的アルゴリズムを用いた人工知能が人工市場シミュレーションを用いて学習するモデルを構築し,人工知能の作成者が相場操縦という取引戦略を全く意図していなかったにも関わらず,人工知能が学習を通じて相場操縦という取引戦略を発見するのか調べた.その結果,人工知能は相場操縦に他ならない取引を最適な取引として見つけ出した.この結果は,株式取引を行う人工知能の作成者には,人工知能が相場操縦を行わないようにする義務を負わせるなどの規制の必要性を示唆している.
著者
水田 孝信
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回全国大会(2020)
巻号頁・発行日
pp.2L5GS1305, 2020 (Released:2020-06-19)

人工知能が相場操縦を行った場合の責任の所在が議論されている.そこで本研究では,遺伝的アルゴリズムを用いた人工知能が人工市場シミュレーションを用いて学習するモデルを構築し,人工知能の作成者が相場操縦という取引戦略を全く意図していなかったにも関わらず,人工知能が学習を通じて相場操縦という取引戦略を発見するのか調べた.その結果,人工知能は相場操縦に他ならない取引を最適な取引として見つけ出した.この結果は,株式取引を行う人工知能の作成者には,人工知能が相場操縦を行わないようにする義務を負わせるなどの規制の必要性を示唆している.
著者
水田 孝信
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第32回全国大会(2018)
巻号頁・発行日
pp.2J101, 2018 (Released:2018-07-30)

近年,投資ファンドがある業界のすべての企業の大株主となる``水平株式保有''(horizontal shareholding)(または``共同保有''(common ownership)ともよばれる)が,公正な企業間の競争を阻害し,産業の発展を妨げているという主張が増えてきた.特にパッシブファンドによる水平株式保有が大きな割合となっており,大きな議論となっている.本研究では,人工市場モデルを用いてパッシブファンドの増加が企業間競争と市場価格へ与える影響を分析した.その結果,パッシブファンドの割合がさほど大きくなくても,競争を阻害する可能性を示した.また,競争に勝った企業の市場価格が増加したファンダメンタル価格以上に上昇して割高となり競争を促す株主が離れて競争力を弱くする一方,競争に負けた企業の市場価格が減少したファンダメンタル価格よりさらに下落して割安となり競争を促す株主が増え競争力を強くして,企業間競争のバランスをとるメカニズムが存在する可能性があることを示した.パッシブファンドの増加はこのようなメカニズムを弱める恐れがあると考えられる.
著者
水田 孝信 和泉 潔 八木 勲 吉村 忍
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.27, 2013

人工市場を用いて大規模誤発注が価格変動に与える影響の分析を分析した.大量の誤発注が短時間に集中する場合と,少量の誤発注が長期にわたる場合を比較すると,総誤発注株数が同一であるならば,両者は同程度の価格下落を導くことが分かった.また,誤発注時の値幅制限の効果を分析した結果,誤発注が続く期間と同一程度の期間の騰落率を制限する値幅制限が有効であることが分かった.
著者
水田 孝信 和泉 潔 吉村 忍
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.26, 2012

人工市場においてエージェントの学習プロセスが存在しなくてもstylized factsを再現するモデルが存在する.このモデルは妥当であると評価されているが,行動ファイナンスなどの研究では学習プロセスが非常に重要であることを示している.本研究では,先行研究の学習のないモデルと,それに最小限の学習プロセスを付け加えたモデルを比較し,調査対象に応じて学習プロセスの必要性について議論する.
著者
関 キン 水田 孝信 八木 勲
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.4T2GS1004, 2023 (Released:2023-07-10)

ETF(Exchange Traded Funds, 上場投資信託) は,多くの株式や債券などに分散投資した投資信託(ファンド)で,証券取引所で売買できるため多くの投資家に広く普及した.ETF は組み入れている原資産をすべて集めたものと交換ができるので,ETF と組み入れ原資産に価格差があるときに,安いほうを買い,高いほうを売って価格差を利益とする取引(裁定取引)が行われている.しかし,このような裁定取引がETF市場や原資産市場の流動性に与える影響についてこれまで詳細に議論されてこなかった.本研究では,2つの原資産とそれら合計と同じ価値のある1つの ETF の3つの市場からなる人工市場を構築し,原資産と ETF の間で裁定取引が実施されるときとそうでないときで流動性にどのような違いがあるのかを,代表的な流動性指標 (Volume,Tightness,Resiliency,Depth)を利用して検証した.
著者
水田 孝信 八木 勲
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2N5GS1001, 2023 (Released:2023-07-10)

証券取引所は市場価格の急変動をおさえるため,現在の価格から大きく離れた価格の注文を出せないようにする値幅制限や,価格が急変動した際にある一定時間注文を受け付けないサーキットブレイカーを導入する場合があるが,どちらがより価格の急変動をおさえるかは多くの議論がある.本研究では人工市場を用いて値幅制限とサーキットブレイカーの効果の比較を行った.その結果,両者は制限幅や時間スケールといったパラメータを同じにすれば,同じ程度に急変動をおさえる効果があることが分かった.しかし,投資家が注文をキャンセルする時間スケールより値幅制限が短いパラメータを持つ場合,制限価格に付近に注文がたまってしまい,その注文が急変を緩和する方向への価格変動を妨げてしまい,サーキットブレイカーよりも価格急変動をおさえる効果は劣ってしまうことも分かった.今回の結果だけを見れば,値幅制限よりもサーキットブレイカーの方が優れているように見える.しかし今回の結果は,誤発注による下落であり,かつ,いずれの規制も個別銘柄に導入された場合のみを分析しているなど,非常に限定的な状況下のことしか示していないことに注意が必要である.
著者
水田 孝信
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.FIN-030, pp.17-23, 2023-03-04 (Released:2023-03-04)

主に商品先物を取引するファンドであるCTA(Commodity Trading Advisor) は,かつては多くのファンドが高いリターンを得ていたが,2010年ごろからリターンを得るのが難しくなっている.その原因はいくつか指摘されているが,CTAを餌食にして利益を得る短期的な逆張り戦略が増えたという指摘がある.しかし,これらの指摘は根拠が薄い.そこで本研究では,CTAと短期逆張りを行う投資家を実装した人工市場モデルを構築し,短期逆張り戦略の出現がCTAのリターン減少につながったのかどうかを分析した.その結果,CTA・短期順張りともに,お互いがいたほうが戦略を実行するチャンスが多くなり利益を獲得していることが分かった.このため,短期的な逆張り戦略がCTAを餌食にして利益を得ているというのは誤りである可能性を指摘できただけでなく,むしろ共存共栄である可能性を示した.
著者
水田 孝信 八木 勲 高島 幸成
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.2P6GS1002, 2022 (Released:2022-07-11)

多くのファイナンス(金融)研究は,投資戦略の最適化や市場の効率性など,さまざまな仮定の上で議論されている.しかし,その仮定そのものが批判されることも少なくない.投資戦略の最適化が不可能な要因として,投資家自身の売買によって価格を変化させてしまうこと(マーケットインパクト)を最適化時に考慮できないことも考えられる.そこで本研究では,人工市場を用いてバックテストによってシミュレーション期間を通じて投資戦略の最適なパラメータを1つ探すエージェントを追加してシミュレーションを行い,マーケットインパクトを最適化時に考慮できないという要因だけで最適化が安定しなくなることを議論した.その結果,投資戦略のパラメータはある値に収束することなく不安定になることが分かった.他の全員が全く同じに固定されていたとしても,数人が戦略の最適化を行うために,バックテストとその実践投入を繰り返し行うだけで,その戦略は定まることがないし,価格時系列も特定のものには達せず,不安定となった.この最適化の不安定性は,価格時系列の規則性をも不安定にさせうる.このことから,金融市場は本質的に不安定であると言えるかもしれない.
著者
丸山 隼矢 水田 孝信 八木 勲
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1694-1703, 2019-10-15

近年投資信託のリスクが把握しにくくなっている.なぜならば,投資信託の組み入れ対象となる金融商品の仕組みが複雑になるとともにリスクの大きさが把握しにくくなってきたからである.そこで,投資信託の取引において,投資家が想定外のリスクを負うことを未然に防ぐため,分散投資規制という規制が設けられた.分散投資規制は,1つの資産への投資が過度に集中しないよう,1つの資産への投資額を投資信託純資産の一定割合以下にするものである.これまでに,人工市場を用いて,分散投資規制がファンダメンタル価格急落時に市場に与える影響について分析されている.しかし,金融市場が活況なとき,すなわち,ファンダメンタル価格が急騰するような状況において分散投資規制が市場に与える影響については議論されていない.そこで,本研究では人工市場を用いて分散投資規制がファンダメンタル価格急騰時の価格形成に与える影響について調査した.その結果ファンダメンタル価格急騰時には,ファンダメンタル価格が急騰した資産の取引価格が上昇することが分かった.そして,規制を受けるエージェントの割合が増加するにつれ,その傾向が段階的に弱まり,最終的にはファンダメンタル価格に収束しないことが分かった.また,ファンダメンタル価格急騰時と急落時に関して比較し調査した.その結果,ファンダメンタル価格急落時は急騰時に比べより影響を与えることを確認した.
著者
八木 勲 水田 孝信 和泉 潔
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.208-216, 2011 (Released:2011-01-06)
参考文献数
16
被引用文献数
5 1

Since the subprime mortgage crisis in the United Sates, stock markets around the world have crashed, revealing their instability. To stem the decline in stock prices, short-selling regulations have been implemented in many markets. However, their effectiveness remains unclear. In this paper, we discuss the effectiveness of short-selling regulation using artificial markets. An artificial market that is an agent-based model of financial markets is useful to observe the market mechanism. That is, it is effective for analyzing causal relationship between the behaviors of market participants and the transition of market price. We constructed an artificial market that allows short-selling and an artificial market with short-selling regulation and have observed the stock prices in both of these markets. We have demonstrated that our artificial market had some properties of actual markets. We found that the market in which short-selling was allowed was more stable than the market with short-selling regulation, and a bubble emerged in the regulated market. We evaluated the values of assets of agents who used three trading strategies, specifically, these agents were fundamentalists, chartists, and noise traders. The fundamentalists had the best performance among the three types of agents.
著者
水田 孝信
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

ETF(Exchange Traded Funds, 上場投資信託)は手軽な分散投資を提供する商品として,近年,投資家に普及してきている.しかし,一部のETFは注文量が少なく取引したいときに適切な価格で取引しづらい状況になっていた.そのため取引所によっては,裁定取引の手数料を引き下げるなどの売買を増やそうとする制度を導入する場合がある.しかし,裁定取引にかかるコスト(必要な利益も含む総合的なコスト)によってETFや株式の流動性がどのように変化するのか,そのメカニズムはどのようなものなのかといったことは分かっていない.そこで本研究では,2つの株式とそれら合計と同じ価値のある1つのETFという3つの証券があり,これらの証券間の裁定取引を行うエージェントを実装した人工市場モデルを構築した.そして,株式とETFの裁定取引にかかるコストによって流動性がどのように変化するかを調べた.その結果,ボラティリティよりコストが小さければ裁定の機会が訪れやすく,裁定エージェントの売買が増え,ETFと株式の価格の乖離が小さくなることが分かった.