著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.225-231, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
32

実は受診する摂食障害患者の多くがパーソナリティ障害 (人格の病理) を併存している. 体重さえ回復すれば治るとする意見をHilde Bruchは生涯にわたって 「行動療法や家族療法によって治ったというが, 背景にある重篤な人格の病理ともいえる生きづらさが放置されている」 と非難しつづけた. 摂食障害治療の基本として, 摂食障害には厳しく, 人格の病理 (生きづらさ, パーソナリティ障害) には暖かく (validation) の両立が必須である. 両立すれば, 入院治療に頼らず, 診療所で完結する摂食障害治療が可能となる. やせ礼賛文化の広がりの中, 多くの若年女性がダイエットに勤しみやせすぎに陥っている. やせすぎは寿命を縮める危険な行動であるのに見過ごされてきた. やせ礼賛文化の影響は大きく, 摂食障害に厳しくの立場から, さらにモデルの健康を守るためやせすぎモデルの規制は必要である.
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.355-363, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
11

神経性過食症の概念が提唱されて四半世紀ほどしかならないのにかかわらず,摂食障害の精神病理は大きく変化し,複雑になる一方である。Fairburnが1981年に認知行動療法の有効性を報告して以来,各種のガイドラインは神経性過食症への最もエビデンスを有する治療としている。摂食障害の精神病理の複雑化に合わせて,Fairburnらは神経性過食症といった亜型分類にとらわれず,感情不耐性など弁証法的行動療法の要素も取り入れた強化認知行動療法を提唱している。しかし,大学病院を受診する摂食障害は数多くの併存症を有し,全般性の社交不安障害に対する認知行動療法や,自傷や自殺未遂といった衝動行為を次々に行う多衝動性に対し,弁証法的行動療法なども考慮する必要がある。
著者
井上 建 小坂 浩隆 岡崎 玲子 飯田 直子 磯部 昌憲 稲田 修士 岡田 あゆみ 岡本 百合 香山 雪彦 河合 啓介 河野 次郎 菊地 裕絵 木村 大 越野 由紀 小林 聡幸 清水 真理子 庄司 保子 髙倉 修 高宮 静男 竹林 淳和 林田 麻衣子 樋口 文宏 細木 瑞穂 水田 桂子 米良 貴嗣 山内 常生 山崎 允宏 和田 良久 北島 翼 大谷 良子 永田 利彦 作田 亮一
出版者
日本摂食障害学会
雑誌
日本摂食障害学会雑誌 (ISSN:24360139)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2023-10-05 (Released:2023-10-05)
参考文献数
19

COVID-19パンデミック下,摂⾷障害患者における社会からの孤立,受診控え,症状の悪化,さらに新規患者の増加などが報告された。そこで我々は,2019,2020,2021年の神経性やせ症(Anorexia Nervosa: AN)および回避/制限性食物摂取障害(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder: ARFID)の新規患者数,入院患者数,性別,年齢層,COVID-19の影響の有無について,国内で摂食障害を専門的に診療している医療機関に対して調査を依頼した。すべての項目に回答のあった28施設の結果について集計・解析した。ANの新規・入院患者数はそれぞれ,2019年は400人,266人,2020年は480人,300人,2021年は610人,309人であった。一方,ARFIDの新規・入院患者数はそれぞれ,2019年は70人,15人,2020年は97人,22人,2021年は112人,17人であった。AN,ARFIDともに2019年と比較して2020年,2021年は新規患者数,入院患者数ともに増加し,これは10代でより顕著であった。さらにANにおいては20代の患者も増加していた。COVID-19 パンデミック下にARFID 患者数の増加が示されたことは重要な知見であると考えた。
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.277-285, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
18

神経性過食症が神経性食思不振症の一亜型として紹介されてから30年が経ち,摂食障害の臨床像,精神病理は大きく変化した.現在,多くのガイドラインが認知行動療法を最もエビデンスを有する神経性過食症への精神療法的アプローチとして推奨している.一方で精神病理の複雑化に伴って感情不耐性,完全主義,中心的な自己評価の低さ,対人関係の困難までを扱う強化認知行動療法へと移行している.また,青年期の神経性食思不振症には家族療法の1つであるモーズレイアプローチが,神経性過食症には対人関係療法の有効性が報告されている.しかし,大学病院を受診する摂食障害患者の精神病理はさらに複雑化しており,全般性の社交不安障害をベースとする症例への認知行動療法や,多衝動性への弁証法的行動療法も考慮しなければならない.
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.609-614, 2011-07-01

摂食障害を併存症の観点から,気分スペクトラム障害や強迫スペクトラム障害としてとらえることが提唱されてきた.一方,社交不安障害(social anxiety disorder:SAD)は,併存率の高さの割に注目されてこなかったが,スピーチ恐怖症から全般性社交不安障害へと概念が拡大し,薬物療法の有効性も知られるようになった.通院中の女性摂食障害患者266例を対象に,社交不安障害の併存の有無によって比較した予備的な結果では,91例(34%)が社交不安障害を併存し,ほとんどが全般性社交不安障害で,社交不安障害が摂食障害に先行した.社交不安障害が併存すると自傷や自殺未遂の率が高く,境界性パーソナリティ障害として紹介されることも多かった.薬物療法を行ったのは38%にとどまったが薬物療法と精神療法の組み合わせが46%に有効であった.摂食障害全体を社交不安障害として説明できるわけではないが,1つの治療モデルとして重要である可能性が示された.