- 著者
-
江木 直子
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
- 巻号頁・発行日
- pp.153, 2013 (Released:2014-02-14)
距骨の cotylar fossaは,距骨体の内側面から距骨頸にかけて形成される窪みで,アフリカ獣類などの哺乳類で知られている.この形質には収斂が認められているが,樹上歩行,地上歩行,跳躍,掘削など様々な運動行動モードを持った動物に現れるため,機能的な観点からは注目されてこなかった. cotylar fossaには脛骨遠位部の内側踝が接し,踝側の凸面が距骨側の凹面にはまって,球関節になる.cotylar fossaを持たない食肉類,齧歯類,偶蹄類などの脛骨-距骨関節は,距骨体内側面が垂直に内側踝正中面と接し,内側踝は脛骨が距骨に対して正中側にずれるのを防ぐ構造をしている.これに対し,内側踝-cotylar fossaが球関節になっている場合は,脛骨-距骨関節の滑車運動を正中側から補強している可能性がある.また,cotylar fossaがあると,脛骨から距骨への荷重伝達は,滑車関節面だけでなく,cotylar fossaの関節面である距骨体の内側壁や距骨頸でも起きると考えられる.深い cotylar fossaを持つ現生アフリカ獣類は,相対的に太い腓骨を持ち,腓骨で支えている体重の分の荷重が腓骨遠位(外側踝)から距骨体外側面へと伝達され,これを内側の cotylar fossaで受ける荷重で釣り合わせている可能性も考えられる. 深い cotylar fossaは現生哺乳類ではアフリカ獣類でのみ見られるが,化石系統群では “顆節目 ”のHyopsodontidae Apheliscinaeや南米有蹄類,肉歯目に知られている.Apheliscinaeや南蹄目,雷獣目はこの形質をもとにアフリカ獣類との近縁仮説が唱えられており,他の系統群についても同様の足根関節構造と関連する形質であるかを検討することにより,アフリカ獣類との共有派生形質であるかの評価の手段になると考えられる.