著者
野口 卓也 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.54-63, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究の目的は,ポジティブ作業に根ざした実践のプログラム(POBP)を開発し,適用方法を検討することであった.研究方法は2段階の手順を踏み,手順1で作業に根ざした実践に精通する作業療法士3名で学習教材を作成し,手順2でPOBPを精神障害者6名に実施した.効果指標はポジティブ作業評価15項目版(APO-15),ポジティブ作業の等化評価(EAPO),一般性セルフ・エフィカシー尺度を用い,解析はベイズ推定による一般化線形混合モデルで行った結果,手順1で学習教材が33種類作成され,手順2でAPO-15のエンゲージメント,EAPOのポジティブ作業の2因子で効果を認めた.POBPは精神障害者の幸福の促進に寄与する可能性があると示された.
著者
米元 佑太 京極 真
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1752, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】理学療法には多様な専門領域のあり方や関係を基礎付ける学問的基盤となる機能をもつメタ理論がない。その弊害は,理論や方法を選択するための基準が不明瞭となり,「どのような理学療法がよい理学療法か」という問いに答えうる価値判断の基準が存在しない点にある。本論の目的はこの問題を解消する理学療法のメタ理論を構築することであった。【方法】本論では,メタ理論工学を用いた理論研究を行った。理論構築の方針は,異なる立場からも了解可能な原理になるように論証することであった。その方針のもと,①全ての理学療法に共通する理路の整備,②理学(physical)=身体の原理的基礎付け,③それらに立脚した介入プロセスの提示を行った。【結果】①全ての理学療法に共通する理路原理的に考えると,実践とは「ある状況と目的のもとで確率的に遂行される」といえる。これを「実践の原理」とよぶ。状況や目的と全く関係ない理学療法や,実践し終える前から事後の状態を確定できる理学療法はないことから,理学療法は例外なく実践であるといえる。そのため,実践の原理は全ての理学療法に共通する理路であるといえる。②身体の原理的基礎付け哲学史を通覧すると,本論と同型の目的をもつ理路に現象学的身体論がある。主な論者であるフッサール,ハイデガー,メルロ=ポンティらの最も原理的な理路を抽出すると,身体とは主観と客観が同時に成立する場であり,人間の存在可能性の根拠であり,世界と人間を繋ぐ媒体として働き,情状性=気分と相関的に構成される対象でもある,と再構成できる。これを踏まえ,本論では「身体は超越論的主観性において気分相関的に構成された媒体であり,それは世界と主体を繋ぐものであると同時に,可能性を担保しつつ制約する構造である」という「身体の原理」を定式化した。③介入プロセスの提示①と②をふまえると,理学療法は主体の可能性を確保することを目的として実施されるといえる。したがって,理学療法は「何らかの状況で,対象の可能性の確保を目的として,身体に介入することであり,その有用性は事後的に決まる」と定式化できる。これを臨床に落とし込むと,1.身体の原理に基づく評価,2.対象の可能性の確保に向けた行動計画立案,3.理学療法介入の実践,4.有用性の検討の4ステップで表現できる。①~③で構成されるメタ理論を「原理に基づく理学療法(Principle Based Physical Therapy:PBPT)」と命名した。PBPTの価値判断の基準は「対象の可能性の確保」であり,それに寄与しているかどうかで理学療法の成否を判断できる。【結論】立場が異なっても了解できる理路を構築することによって,あらゆる理学療法を基礎付けるメタ理論を開発できた。良い理学療法とは何かという問いに対して,PBPTは目的を達成できる理学療法が良い理学療法であると答えることができる。
著者
廣瀬 卓哉 寺岡 睦 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.686-693, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
28

本研究の目的は,作業中心のEBPにおけるコンピテンシーを探索的に検討することである.研究法は構造構成的質的研究法を採用し,データ分析にはSteps for Coding and Theorizationを用いた.対象は4名の作業療法士であった.結果は,コンピテンシーとして〈EBPの知識とスキルの理解〉〈作業中心の問題点の定式化およびアウトカムの採用〉〈作業療法の専門性に基づく多様なエビデンスの統合〉〈作業療法理論の実践的な参照〉が明らかとなった.作業中心のEBPを実践するためには,EBPの基本的な知識とスキルの理解を前提として,作業療法の専門的な実践に多様なエビデンスを統合する重要性が示された.
著者
廣瀬 卓哉 寺岡 睦 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.315-324, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
30

本研究の目的は,回復期の脳卒中上肢機能訓練における信念対立の構造を明らかにすることである.構造構成的質的研究を採用し,データ分析にはSteps for Coding and Theorizationを用いた.研究対象者は6名の作業療法士であった.結果は〈治療方針に関わる信念の生成プロセス〉〈上肢機能訓練に関わる信念対立の構造〉〈信念対立解明の手がかり〉の3個のテーマが存在した.信念対立の解明には,自身や他者の治療方針を決定付ける信念の成立根拠を自覚することや,EBPを正確に理解すること,建設的なコミュニケーションをとるなかで対象者の状況に応じた目的を明確化することなどが重要であると考えられた.
著者
古桧山 建吾 京極 真 織田 靖史
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.180-189, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
23

本研究の目的は,信念対立を経験したリハビリテーション専門職がマインドフルネストレーニングを実践することでたどる主観的体験の変化と,リハビリテーション専門職の信念対立に対してマインドフルネストレーニングがどのような影響を与えるかを明らかにすることである.対象者は,8週間のマインドフルネストレーニングを実践した.質的研究で対象者の主観的体験の変化,量的研究でマインドフルネストレーニングの効果を検証した.結果,対象者の信念対立の心理的側面は改善するが,信念対立そのものは改善しなかった.以上から,信念対立の問題には,マインドフルネストレーニングと信念対立解明アプローチを併せて対応する必要があると考える.
著者
齋藤 駿太 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.452-459, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
31

本調査では,Occupational Engagement(以下,OE)の国内外の研究を系統的に概観し,ギャップの特定を通じて,国内におけるOE研究の発展の方向性の検討を行った.方法は,スコーピングレビューで実施し,国外19編,国内3編が採用された.共通点として,①OEは個人の肯定的な主観的経験であること,②OEの評価ツールの不足が挙がり,相違点として,①国内外のOEの研究方略の違い,②国内外のOEに関する知識量の差が挙がった.以上より,国内のOE研究の方向性として,①質的研究を通じた国内のクライエントのOEと健康と幸福との関連性や,OEの認識を検証すること,②OEの評価ツールの開発の検討が課題に挙がった.
著者
米元 佑太 京極 真
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.483-487, 2015 (Released:2015-07-07)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

〔目的〕呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)において信念対立が生じた慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者への介入に信念対立解明アプローチ(DAB)を導入した事例を報告し,その意義と課題を検討すること.〔対象〕COPD増悪による廃用症候群と診断された79歳男性であった.〔方法〕呼吸リハによって身体機能は改善したものの,身体活動量には変化が見受けられなかった.離床を促すことで信念対立が生じたためDABを導入した.〔結果〕DAB導入翌日から,対象者は自ら時間を決め離床を行うようになり,その習慣は退院まで続いた.〔結語〕呼吸リハへDABを導入することが有用である可能性がある.
著者
野口 卓也 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.592-601, 2022-10-15 (Released:2022-10-15)
参考文献数
15

本論の目的は,事例を通じてポジティブ作業評価(Assessment of Positive Occupation 15,以下APO-15)における関与度推定システム(以下,推定システム)を活用した作業療法実践を後方視的に報告し,その有用性を検討することであった.方法は,APO-15の推定システムでポジティブ作業への関与状態を評価し,評価結果と事例の強みを参考に支援した.その結果,事例のWell-Being(以下,幸福)や社会参加に寄与した.APO-15の推定システムは,クライエントの関与レベルに適したポジティブ作業への参加機会を促進できるため作業療法実践で幸福の促進に寄与できると考えられる.
著者
京極 真
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.61-67, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
17

:本論では,作業療法士のための質的研究の始め方を解説する.作業の知識を明らかにするうえで,質的研究と作業療法の相性は非常によく,その活用は作業療法にとって欠かせない.それゆえ,作業療法士は質的研究のメリットとデメリットを理解したうえで実施することが期待される.質的研究の始め方のコツは,質的研究のプロセス,質的研究法,質的研究報告ガイドラインを理解したうえで作業中心にアプローチするところに求められる.作業療法士は作業を核にした研究課題,データ収集,データ分析,理論構築を実施し,データに根ざした作業の知識を創りだす必要がある.
著者
野口 卓也 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.704-714, 2020-12-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
28

要旨:ポジティブ作業に根ざした実践(以下,POBP)は,精神障害者の幸福の促進に有用であることが確認されている.他方,その介入に影響を与える個体差の要因は未検討である.本研究の目的は,POBPの介入に影響を与える個体差の要因を検証することである.対象は精神障害者であり,POBPに参加経験のある19名とした.分析は,POBP参加中に収集した縦断データを使用し,潜在曲線モデルを用いた.分析の結果,POBPの介入に影響を与える要因は入院回数の可能性が高いことが示された.POBPは入院回数の要因を除き,診断名,年齢,性別,生活環境,治療期間による個体差を超え,クライエントの幸福に寄与できる可能性がある.
著者
諸星 成美 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.273-280, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
21

本研究は,身体障害を有する地域在住高齢者の作業的挑戦の特性をクラス分類し,作業参加,抑うつ,人格特性との関連性を検証した.データ収集は,調査用紙を用いて対象者から回答を得た.分析は,記述統計量の算出,潜在クラス分析,多項ロジスティック回帰分析を実施した.結果,作業的挑戦には,肯定的な作業的挑戦,危うい作業的挑戦,否定的な作業的挑戦の3つの特性があることがわかった.そして,肯定的な作業的挑戦に影響を与える因子には,生産的活動やセルフ・ケアへの作業参加,抑うつの身体症状やポジティブ感情,協調性や勤勉性の人格特性があった.本研究により,作業的挑戦への介入のための解釈可能性が広がると考えられる.
著者
草野 佑介 寺岡 睦 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.41-50, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
24

後天性脳損傷児の学校への適応プロセスにおける共通性と多様性を解明することを目的に,質的研究法である複線径路等至性アプローチを用いて5名の保護者の経験を分析した.その結果,後天性脳損傷児の就学(復学)プロセスにおける【適応をめぐる葛藤】という新たな概念および3つの分岐点が生成された.学校への適応は通過点としての目標である.適応という概念が葛藤を内包したゆらぎを帯びた状態であることを前提に,将来に待ち受けているライフステージの変化を考慮した,対象児と保護者の地域社会生活への参加における問題解決を長期的に支援することが作業療法士の役割として重要であると考えられた.
著者
野口 卓也 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.230-238, 2018-04-15

要旨:本論の目的は,精神科デイケアを利用するクライエントを対象に,Well-being(以下,幸福)を促進する作業への関わりの状態を測定できるポジティブ作業の等化評価(以下,EAPO)を活用し,臨床有用性を検討することだった.方法は,クライエントにEAPOを用いて評価を行い,介入は評価結果を参考にしながら幸福を促進する作業の学習機会を提供して支援した.その結果,クライエントは幸福を促進する作業への関わりが徐々に良好な状態となり,社会参加への制約が軽減された.EAPOは,幸福を促進する作業に根ざした実践で,作業療法士のリーズニングを補助し,多職種連携を円滑にする有用なツールであった.