著者
安藤 和雄
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会; 京都大学ブータン友好プログラム; 京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
no.15, pp.155-168, 2014-03-28

東ヒマラヤは地理的にはブラマプトラ水系の東西に伸びるカンチェンジュンガからカカボラジまでのシッキム、ブータン、アルナーチャル・プラデーシュ、ミャンマーの範囲である。本稿では、東ヒマラヤの地域的特徴を湿潤モンスーン農業の焼畑と水田の存在、無床のモンパ犂、冬季森林放牧の農業から論じた。つぎに、具体的な調査事例としてモンパ社会を紹介した。そして、東ヒマラヤが「地域としての単位性」を特徴として有し、高地文明を構成する「文明単位」となりうることを示唆した。
著者
宮本 真二 安藤 和雄 内田 晴夫 バガバティ アバニィ・クマール セリム ムハマッド
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.5, 2009

ブラマプトラ川流域における高所と低所の土地開発過程の検討を行った.低所では,バングラデシュ中部における沖積低地の開発は,1.3千年前以降に定住化が開始した.一方,高所であるインド北東部山岳地域の土地開発の集中化は,1千年前以降であることが明らかとなった.
著者
浅田 晴久 松田 正彦 安藤 和雄 内田 晴夫 柳澤 雅之 小林 知 小坂 康之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.73, 2018 (Released:2018-12-01)

1.はじめにモンスーンアジア、中でも東南アジア大陸部稲作圏の国々ではすでに食糧自給がほぼ達成されたことから、農業技術開発・普及および農村開発は、国家戦略の中では優先順位が下がっている。つまり「緑の革命」期の政府による、「技術の押し売り」的状況が改善し、近代農業技術の画一的な普及状況が一変している。国によっては農民の自発的な技術変革が顕著に見られるようになってきており、農業技術発展において各国の状況にはかなり大きな温度差が生じつつある。伝統農業時代に存在した、地域による多様性が再び出現しつつあると言える。また、世界の農業技術が向かっている方向も、多収技術から持続性、安定性、安全性、低投入技術へと移り、脱化学農業の動きも活発である。この変化を国際的な比較を通じて整理し、地域発展の共時的現象として確認し、地域の固有性との関連で農業技術発展における意義を明らかにすることが本研究の目的である。近年、特に2000年以降、地域研究およびそれに隣接する分野の諸研究において農業技術の現状を具体的に記述し、その変容等の意義を問う研究事例がほとんど見られなくなってきている。これは「緑の革命」という東南アジア諸国に共通した農業・農村開発国家戦略が主政策でなくなりつつあることにも関係している。しかし、そのような状況下であるからこそ、東南アジア各国では、国家の圧力から放たれた農民の自由意志による近代と伝統の統合によるもう一つの技術革新が静かに進行していると言える。まさに東南アジア大陸部では、地域の固有性に強く立脚した農業技術発展がその多様性を大きく開花させつつあると言える。このことは現在までほとんどまとまった形で報告されていない。本研究は、水田稲作に着目して、その現象の実態と現代的意義を明らかにする。それにより、地域研究に携わる研究者コミュニティと東南アジアの人々とともに、将来の農業技術のあり方について考えるという意義ももつ。2.研究手法本研究は、京都大学東南アジア研究所の共同研究として2016~2017年度の2年間、浅田が代表を務めて実施した。各国を担当する研究チームを、インド・アッサム(浅田)、バングラデシュ(安藤)、ミャンマー(松田)、ラオス(小坂)、カンボジア(小林)、ベトナム(柳澤)、という形で編成した。研究期間と予算が限られていたため、新たに現地調査を実施するという形式はとらず、各担当者が、これまで現地のカウンターパートとともに行ってきた研究成果を持ち寄り、研究会を定期的に開催して情報交換を行った。各国で近年みられるようになった新しい稲作技術の動向を整理し、モンスーンアジア全域で共通している問題を考察した。 3.結果と考察本研究の成果として、以下の知見が得られた。「緑の革命」の推進期まで、アジア各国では、食料自給を高めるために、政府によるトップダウンにより農民の間に稲作技術が普及していったが、現在は、農民が自由に技術を選択できる状況になっている。各国において機械化農業が進んでいるが、省力化・効率化など技術面での多様性が増している。各国政府は自給率を達成した後もなお収量を重視しているが、農民はコストを重視しており、両者にギャップが生じている。特に農外就労機会の増加、農村から都市への人口移動により、農業就業者の数はいずれの地域でも減少傾向にあり、稲作の持続性にとって大きな問題となりつつある。農業・農村の魅力を高めるには、国家が一方的に関与するだけでなく、農民の主体性も認められなければならない。もはやトップダウン型の政策が通用する時代ではないため、農村の現場で起こっている変化を肯定的に捉えて評価しないと、いかなる農業政策も定着させることは難しいと考える。
著者
坂本 龍太 Dendup Ngawang 安藤 和雄 坂本 陽子 赤松 芳郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、日本、ブータン両国の関係者が互いに現場を行き交い、課題を共有する双方向型の研究である。高齢者の健康を守るという目的を共有しながら、医学、経済学、農学、文化生態学の専門家がチームを組み、高齢者の健康評価、伝統医療の調査、村の保健を基本的に無報酬で担うVillage Health Worker (VHW)の潜在力や持続可能性の分析、紹介医療システムの検証、過疎・離農の現状分析、それらの高齢者の健康への影響分析等に、VHWへのバイタルチェックのトレーニングや高齢者を源とする文化継承活動などのアクション・リサーチを交えて、地域社会と協働で高齢者の健康を守る仕組みをつくる創造型地域研究である。
著者
宮本 真二 安藤 和雄 バガバティ アバニィ デカ ニッタノンダ リバ トモ
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.38-39, 2012

東部ヒマラヤ(インド北東部,アルナーチャル・プラデーシュ州,ネパール東部,ブータン東部)における埋没腐植土層の各種分析から,土地開発史を検討した.その結果,①古い段階での初期的な土地開発時期(約2000年前代が中心)も分散的に行われた。②集中的な土地開発時期は、約千年前以降、特に約500年前以降に行われた。③民族移動のルートは、東ネパールでの先行研究とは違い、東西ルートでの民族移動にともなう土地開発過程が示唆された。
著者
宮本 真二 安藤 和雄 アバニィ・クマール・バガバティ
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.64-72, 2009-05-01

Dated charcoal and humus materials in soil, both of which are evidence of forest fire, vegetation changes indicate occurrence of past deforestation and land development (paddy field) in Eastern Himalaya. Around the Ziro, Arunachal Pradesh, North Eastern India, human impact such as population growth and cultural changes may have accelerated an environmental and agricultural changes after ca. 2 ka BP. Relatively intense deforestation and land formation process occurring since the ca. 1 ka BP was due to the human impact.
著者
足立 明 平松 幸三 安藤 和雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、アクター・ネットワーク論(以下、ANT)を地域研究に援用し、地域における出来事や事象を、人、モノ、言葉(記号)のネットワークとしてとらえ、それらを動態として記述・分析することを目指した。ここでは、研究代表者と研究分担者がこれまで個別に関わってきた開発、在地の技術、基地の事例研究を、ANT的に再構成することで、地域研究におけるANT的な展開の可能性を具体的に議論した。本研究を通して理論的・方法論的に明確になってきた点は、以下の通りである。1.ANTは、科学技術研究を目的として発展してきたもので、上記のような対象には、十分な分析概念を必ずしも備えておらず、新たなボキャブラリーを付け加える必要がある。2.そのために、ANTと親和的な存在論と分析枠組みを持っている生態心理学とメディオロジーを検討した。生態心理学は、活動というものを人と文化的道具(言語、技術、改変された自然物など)の媒介過程ととらえている。また、メディオロジーでは、イデオロギーが歴史的に制度とモノによって媒介されて力を持つ過程を分析している。そして、これらの理論の検討の結果、これらのボキャブラリーが、今後のANTの理論的、方法論的な検討に有効であることを認識した。例えば、多様なアクタントが巻き込まれる過程の分析には、ANTにおけるネットワーク概念よりも生態心理学やメディオロジーにおける媒介概念の方がよりその動態を考えやすいと思われる。3.上記の検討から、新たなANTの分析枠組みを、人と文化的道具(制度、イデオロギーを含む)の歴史的な媒介過程の分析と言いかえることができるであろう。この意味で、本研究によって、このような媒介過程をより詳細に分析し、記述するという理論的・方法論的展望が開かれたといえる。
著者
セリム ムハマッド 安藤 和雄 内田 晴夫 田中 耕司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.518-527, 1990-09-05

バングラデシュ低地に位置する2カ村でイネを基幹とする作付体系の調査を行った。一つはキショルゴンジ県の広大な低地, ハオール地帯縁辺部に位置するジョワール村で, もう一つはマイメンシン県に散在する凹地 (ビール) に面するタカルビティ村である。調査にあたっては, 両村のトポシークェンスと作付様式の分布との関係を詳しく分析するために, 村人による土地分類に依拠しつつ, 村の全域を標高に応じて細かい土地単位に区分した。また, ボロ, アウス, アマンの3作期に栽培される作物の全筆調査を実施し, あわせて1986年から88年にかけて水文条件の季節変化を観察・測定した。両村に共通して14タイプの作付様式が認められ, うち10タイプがイネ基幹の様式であった。作付様式の構成や分布は, 両村で大きな違いは認められず, その分布はトポシークェンス, 従って水文条件の季節変化に密接に関連して成立していることが明らかになった。ジョワール村では, アウスイネ 基幹およびアマンイネ基幹の作付様式はカンダイラ・ジョミと呼ばれる高位部の土地に分布し, ボロイネ単作はシャイル・ジョミあるいはボロ・ジョミと呼ばれる低位部の土地での優占的な作付様式であった。ボロイネ基幹の作付様式は, 浅管井戸などの近代的な灌漑方式の導入後, 高位部低地や低位部高地に拡大している。作付様式の同様な分布パターンは, タカルビティ村でも認められた。以上より, 現行の作付様式はバングラデシュ低地特有の条件に適合した, 村人の環境への適応の結果であることが明らかにされた。