著者
浜田 寿美男
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-139, 2007
被引用文献数
1

わが国では刑事取調べにおいて無実の人が嘘の自白をする例が少なくない.この虚偽自白の典型例は強制下の迎合によるものである.身柄を拘束された被疑者に対して,取調官が被疑者は犯人に間違いないと確信して取り調べるが,それはしばしば証拠なき確信である.この状況のもとで,被疑者は一般に想像されるよりはるかに強い圧力をこうむる.被疑者は身近な人々から遮断され,生活を警察のコントロール下に置かれ,屈辱的なことばを投げつけられ,弁明しても聞き入れてはもらえない無力感にさいなまれる.しかもこの苦しみがいつまで続くかわからず,見通しを失ってしまう.そこでは有罪となったときに予想される刑罰が自白を押しとどめる歯止めにならない.取調べ下の苦しみはたったいま味わっているものであって,それを将来に予想される刑罰の可能性と比べることはできないからであり,また,無実の人にとっては予想されるはずの刑罰に現実感をもてないからである.虚偽自白の心理は,第三者の視点からではなく,まさに渦中の当事者の視点からしか理解できない.この渦中の視点からの心理学をどのように展開するかは,今後,刑事事件を超えた課題となりうるはずである.
著者
浜田 寿美男
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-139, 2007-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

わが国では刑事取調べにおいて無実の人が嘘の自白をする例が少なくない.この虚偽自白の典型例は強制下の迎合によるものである.身柄を拘束された被疑者に対して,取調官が被疑者は犯人に間違いないと確信して取り調べるが,それはしばしば証拠なき確信である.この状況のもとで,被疑者は一般に想像されるよりはるかに強い圧力をこうむる.被疑者は身近な人々から遮断され,生活を警察のコントロール下に置かれ,屈辱的なことばを投げつけられ,弁明しても聞き入れてはもらえない無力感にさいなまれる.しかもこの苦しみがいつまで続くかわからず,見通しを失ってしまう.そこでは有罪となったときに予想される刑罰が自白を押しとどめる歯止めにならない.取調べ下の苦しみはたったいま味わっているものであって,それを将来に予想される刑罰の可能性と比べることはできないからであり,また,無実の人にとっては予想されるはずの刑罰に現実感をもてないからである.虚偽自白の心理は,第三者の視点からではなく,まさに渦中の当事者の視点からしか理解できない.この渦中の視点からの心理学をどのように展開するかは,今後,刑事事件を超えた課題となりうるはずである.
著者
松本 光太郎 岡田 美智男 麻生 武 小嶋 秀樹 浜田 寿美男 塩瀬 隆之 塚田 彌生
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

当研究プロジェクトでは、ロボットが人間の実生活に入り込んできたときに生まれる行為を中心に、ロボット研究者および心理学者を中心とした学際研究を行った。成果として、(1)当メンバーが編集・執筆を担当した書籍1冊『ロボットの悲しみ:人とロボットの生態学にむけて』(新曜社、印刷中)、(2)学会シンポジウム主催2件(日本発達心理学会、日本質的心理学会)、(3)学会個人発表2件(EDRA、日本発達心理学会)が確定している。また、これまでの成果をまとめた論文を査読付雑誌に投稿することを計画している。
著者
浜田 寿美男
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.20-28, 2009-04-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

発達心理学の研究はこの数十年で大きく躍進し,日本発達心理学会の会員数も設立時に比べて約10倍に達している。その背後で発達心理学に対する一般の期待が大きくなり,これを職業とする人が増え,それだけ発達心理学はこの社会のなかで制度化してきた。それは一面において歓迎すべきことであるが,他方において研究そのものがその制度化の枠に閉じることにもつながる。結果として,発達心理学がとらえるべき人間の世界が,その既成の理論と方法によって切りそろえられる危険性を抱えている。たとえば子どもたちの生きる生活世界がその個体としての能力・特性の還元されることで,その能力・特性の発達は見ても,その能力・特性でもってその子どもがどのような生活世界を生きているかというところに目がいかない。臨床発達心理士の資格化なども,この種の個体能力論を超える道を探ることなく,この枠組のなかで自足してしまえば,人間の個体化の波に飲み込まれて,人と人との本来的な共同性をそこなうものになりかねない。発達心理学における人間の個体化を乗り越えて,あらたな発達心理学のパラダイムを模索していくことが,いまこそ求められているのではないか。
著者
浜田 寿美男
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.20-28, 2009
被引用文献数
1

発達心理学の研究はこの数十年で大きく躍進し,日本発達心理学会の会員数も設立時に比べて約10倍に達している。その背後で発達心理学に対する一般の期待が大きくなり,これを職業とする人が増え,それだけ発達心理学はこの社会のなかで制度化してきた。それは一面において歓迎すべきことであるが,他方において研究そのものがその制度化の枠に閉じることにもつながる。結果として,発達心理学がとらえるべき人間の世界が,その既成の理論と方法によって切りそろえられる危険性を抱えている。たとえば子どもたちの生きる生活世界がその個体としての能力・特性の還元されることで,その能力・特性の発達は見ても,その能力・特性でもってその子どもがどのような生活世界を生きているかというところに目がいかない。臨床発達心理士の資格化なども,この種の個体能力論を超える道を探ることなく,この枠組のなかで自足してしまえば,人間の個体化の波に飲み込まれて,人と人との本来的な共同性をそこなうものになりかねない。発達心理学における人間の個体化を乗り越えて,あらたな発達心理学のパラダイムを模索していくことが,いまこそ求められているのではないか。