- 著者
-
渡邉 浩司
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, pp.113-146, 2016-09-30
「アーサー王物語」の実質的な創始者クレティアン・ド・トロワが12世紀後半に著した『ランスロまたは荷車の騎士』は,ゴール国の王子メレアガンによるログル国の王妃誘拐と,勇士ランスロによる王妃救出に焦点を当てている。この物語の中では,ランスロとメレアガンの最初の決闘直前に,ログル王国の乙女たちが3日間にわたって断食と祈願行進を行ったことが記されている。本稿はこの部分に注目し,物語を季節神話とインド=ヨーロッパ戦士の通過儀礼から解釈する試みである。季節神話の観点から見た場合,「キリスト昇天祭」に王妃を誘拐するメレアガンは,早春の作物に危害を与える神獣としてのドラゴン(「豊作祈願祭」のドラゴン)を想起させる。一方で物語をインド=ヨーロッパ神話の枠内で検討すると,ランスロが「3度」戦うことになるメレアガンは,通過儀礼の過程にある戦士が倒す3つ首怪物に相当する。