著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.399-432, 2021-09-30

13世紀後半に成立したと推測される,古フランス語韻文による作者不詳の『フロリヤンとフロレット』は,シチリア王子として生まれたフロリヤンが数々の冒険を経て王位を奪還する物語であり,「伝記物語」の系譜に属する。この物語には複数のジャンルにまたがる先行作品群からの影響が認められるが,本稿では「アーサー王物語」のうちクレティアン・ド・トロワの作品群および,「聖杯物語群」の中核を占める『ランスロ本伝』の冒頭との比較を通じて,『フロリヤンとフロレット』の作者が行った筋書き・テーマ・モチーフの借用と独自の改変について検討する。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.84, pp.113-146, 2016

「アーサー王物語」の実質的な創始者クレティアン・ド・トロワが12世紀後半に著した『ランスロまたは荷車の騎士』は,ゴール国の王子メレアガンによるログル国の王妃誘拐と,勇士ランスロによる王妃救出に焦点を当てている。この物語の中では,ランスロとメレアガンの最初の決闘直前に,ログル王国の乙女たちが3日間にわたって断食と祈願行進を行ったことが記されている。本稿はこの部分に注目し,物語を季節神話とインド=ヨーロッパ戦士の通過儀礼から解釈する試みである。季節神話の観点から見た場合,「キリスト昇天祭」に王妃を誘拐するメレアガンは,早春の作物に危害を与える神獣としてのドラゴン(「豊作祈願祭」のドラゴン)を想起させる。一方で物語をインド=ヨーロッパ神話の枠内で検討すると,ランスロが「3度」戦うことになるメレアガンは,通過儀礼の過程にある戦士が倒す3つ首怪物に相当する。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

13世紀前半に成立した古フランス語散文「聖杯物語群」を対象とした先行研究を総括し、新たな研究の方向性を示唆した。先行研究の総括では「聖杯物語群」の写本伝承、名称、作者、成立年代などに関する主要な論点を整理した。新たな研究の方向性としては神話学的分析を提案し、その具体例として「聖杯物語群」の中でも主として『メルラン続編』(別名『アーサー王の最初の武勲』)、『ランスロ本伝』、『アーサー王の死』が収録する挿話群に注目した。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.321-350, 2022-09-30

「武勲詩」は,『ローランの歌』を皮切りとして11世紀後半に生まれ,12世紀中頃に初期の作品群が成立し,13世紀に₃ つの詩群が形づくられた。そして,こうした潤色過程で「アーサー王物語」の特徴的な要素を取りこみ,ジャンルの革新を行った。「ギヨーム・ドランジュ詩群」に属する『ロキフェールの戦い』の「アヴァロン・エピソード」がその典型例であり,その中ではアーサー王の異父姉妹モルガーヌが中心的な役割を演じている。現世の勇者レヌアールを異界アヴァロンへと連れ去る妖精モルガーヌは,妖女であると同時に極端な母性愛を見せる両義的な存在である。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.47, pp.495-508, 2015

キリスト教の聖人の祝日が記載されている中世の暦は,キリスト教世界の記憶と異教世界の記憶がぶつかり合う場であり,ヨーロッパの文化を理解するための重要な鍵となっている。本稿は,暦上でそれぞれ6月24日と12月27日に祝日を持つ,洗礼者ヨハネと福音史家ヨハネという2 人の聖ヨハネをめぐる神話学的考察である。2人の聖ヨハネの祝日がほぼ「夏至」と「冬至」に対応するのは偶然ではない。西洋の占星術伝承によれば,「夏至」と「冬至」はそれぞれ「蟹座」と「山羊座」に対応するため,2人の聖ヨハネは「至点の扉」の門番の役割を果たしているのである。門番の雛形は,2つの顔を持つ古代ローマの神ヤヌスであり,中世のキリスト教世界はヤヌスを 人の聖ヨハネとして再解釈した。一方で「蟹座」と「山羊座」の守護星がそれぞれ「月」と「土星」であることは,2人の聖ヨハネが「メランコリー」の影響下にあったことも示唆している。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.113-146, 2016-09-30

「アーサー王物語」の実質的な創始者クレティアン・ド・トロワが12世紀後半に著した『ランスロまたは荷車の騎士』は,ゴール国の王子メレアガンによるログル国の王妃誘拐と,勇士ランスロによる王妃救出に焦点を当てている。この物語の中では,ランスロとメレアガンの最初の決闘直前に,ログル王国の乙女たちが3日間にわたって断食と祈願行進を行ったことが記されている。本稿はこの部分に注目し,物語を季節神話とインド=ヨーロッパ戦士の通過儀礼から解釈する試みである。季節神話の観点から見た場合,「キリスト昇天祭」に王妃を誘拐するメレアガンは,早春の作物に危害を与える神獣としてのドラゴン(「豊作祈願祭」のドラゴン)を想起させる。一方で物語をインド=ヨーロッパ神話の枠内で検討すると,ランスロが「3度」戦うことになるメレアガンは,通過儀礼の過程にある戦士が倒す3つ首怪物に相当する。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.93, pp.239-255, 2019

ロベール・ド・ブロワが13世紀後半に著した『ボードゥー』は,ゴーヴァンの息子ボードゥーの幼少年期に焦点を当てた物語である。母の手で騎士に叙任されたボードゥーが一連の冒険の末に,群島王の姫君ボーテを妻に迎える筋書きの中で重要な位置を占めるのは,ボードゥーが最初の試練で獲得する「オノレ」という名の剣である。そもそも古フランス語によるアーサー王物語群では,アーサー王の剣エスカリボール(エクスカリバー)を別にすれば,オノレのように固有名を伴う名剣は珍しい。オノレという名は騎士が守るべき「名誉」というキーワードをもとにしているが,この名の由来を作中人物が説明している点は特筆に値する。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.239-255, 2019-09-30

ロベール・ド・ブロワが13世紀後半に著した『ボードゥー』は,ゴーヴァンの息子ボードゥーの幼少年期に焦点を当てた物語である。母の手で騎士に叙任されたボードゥーが一連の冒険の末に,群島王の姫君ボーテを妻に迎える筋書きの中で重要な位置を占めるのは,ボードゥーが最初の試練で獲得する「オノレ」という名の剣である。そもそも古フランス語によるアーサー王物語群では,アーサー王の剣エスカリボール(エクスカリバー)を別にすれば,オノレのように固有名を伴う名剣は珍しい。オノレという名は騎士が守るべき「名誉」というキーワードをもとにしているが,この名の由来を作中人物が説明している点は特筆に値する。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.47, pp.495-508, 2015

キリスト教の聖人の祝日が記載されている中世の暦は,キリスト教世界の記憶と異教世界の記憶がぶつかり合う場であり,ヨーロッパの文化を理解するための重要な鍵となっている。本稿は,暦上でそれぞれ6月24日と12月27日に祝日を持つ,洗礼者ヨハネと福音史家ヨハネという2 人の聖ヨハネをめぐる神話学的考察である。2人の聖ヨハネの祝日がほぼ「夏至」と「冬至」に対応するのは偶然ではない。西洋の占星術伝承によれば,「夏至」と「冬至」はそれぞれ「蟹座」と「山羊座」に対応するため,2人の聖ヨハネは「至点の扉」の門番の役割を果たしているのである。門番の雛形は,2つの顔を持つ古代ローマの神ヤヌスであり,中世のキリスト教世界はヤヌスを 人の聖ヨハネとして再解釈した。一方で「蟹座」と「山羊座」の守護星がそれぞれ「月」と「土星」であることは,2人の聖ヨハネが「メランコリー」の影響下にあったことも示唆している。