著者
谷川 亘 山本 裕二 廣瀬 丈洋 山崎 新太郎 井尻 暁 佐々木 蘭貞 木村 淳
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

1888年磐梯山噴火により磐梯山の北側に湖(桧原湖)が形成し、それに伴い桧原集落(桧原宿跡)が被災し水没した。桧原宿跡は旧宿場町のため近世・近代の文化を記録する『水中文化遺産』であり、また火山災害の痕跡を記録する『災害遺跡』としての価値を持つ。そこで、桧原宿跡の水中遺跡調査を通じて、江戸・明治の産業・文化・物流の理解、山体崩壊に伴い約500名もの住民が亡くなった災害のメカニズム、せき止め湖の形成過程、および水没により高台移転を余儀なくされた避難の過程という自然災害の総合的な理解につなげる。
著者
山崎 新太郎 釜井 俊孝 渡邊 達也
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

そこにあるべき海上の島または陸が消滅してしまったという伝説は世界各国にあり,科学的根拠の有無に関わらず人々の関心を引きつけてきた.しかし,地図や写真等で正確な地形の記述がなされるようになった近代以降で,そのような「島の消滅」が記録されている例はほとんど無い. 本講演で扱う長崎県の横島の事例は島の大部分が徐々に消滅していったという状況が,過去の20世紀初頭に作成された地形図や撮影された写真,その後,20世紀中盤から得られている空中写真により明確である希有な事例である.地元香焼町の地誌と地形図によると横島は約20,000平方メートルの面積に約700名が居住していた.これは炭鉱開発のためであり,1894-1902年の短期間のみ開発された後,放棄され,無人島となった.空中写真によると1947年から少なくとも1982年にかけて徐々に島の陸地場が消失していったことが空読み取れる.現在では,島の西部の大部分が消失し,東西に分かれた2つの岩礁となっている.島の消失のメカニズムは炭鉱開発に原因を求めるもの以外にも大規模な岩盤地すべりの発生に求めるものがあった.それは,周囲に大規模岩盤地すべりを起こしやすい地質が分布することや,地元ダイバーによって海底に巨大な岩塊が散在している様子が目撃されていたからである. 著者らは横島の消滅のメカニズムを解析するするために,陸上部の地質調査,ダイビング写真資料の収集を行った.それに加えて,水中透明度の高い条件を待ってUAVによって上空からの撮影を行い,既存のオルソ衛星写真と位置合わせを行って水深 5 mより浅い領域の構造物や地形,節理系などの地質構造を平面図上にマッピングした.さらに,それよりも深い水域に関しては,レジャー用ソナーに搭載されたサイドスキャン機能とシングルビーム測深によって海底の構造物のイメージングを行い,平面図化すると共に地形図を作成した. これらの調査は,水没した旧地表面と多数の水中の地溝状の地形の分布を明らかにした.旧地表面は水中でNからNWに8-12°傾斜しており,その平面形状と現在の島の形状を合わせると1947年撮影の空中写真に認められた島の形状に近かった.水中に没した旧地表面の南縁にはプリズム状に分離した長さ10 mに達する岩塊が幅50 m長さ300 mに亘って散在していた.そして,島の周辺の海底には概ねSWW-NEE走行の地溝が複数認められた.地溝の走行は相対的に不動である島東部の節理系の卓越方向であるNNW-SSEまたはNNE-SSWとは無関係であった. 島の陸上部には,シームレス地質図v2を参考と筆者の調査によると古第三系に属する砂岩・泥岩・凝灰岩が認められ,それらの層理面は不動部の島東部では15°傾斜していた.一方で沈下したと考えられる領域の陸上部の層理面の傾斜はそれより急で25°であった. 以上の調査結果から旧地表面は,約10°北に傾斜して沈下したと考えられる.石炭層およびそれを掘削した坑道の広がりや深度に関する情報は不十分であるが,石炭層および坑道は堆積岩の層理面に平行であると考えられるので,地下の空洞が北に傾斜して形成されていたと考えるのは調和的である.北への鉛直方向への回転・傾動により島が南北に引き延ばされ概ね東西走行の開口が形成された.また,島の南側は南北方向への伸長に加えて急傾斜になり,重力や,回転・傾動に伴う局所的な応力集中によって破壊が進み,節理面を分離面とする崩壊が発生した.これにより旧地形面南縁に巨大プリズム岩塊が散在する海底を島の南縁部に形成した.
著者
川口 貴之 中村 大 畑中 将志 山崎 新太郎 山下 聡 三上 登 上野 邦行
出版者
国際ジオシンセティックス学会 日本支部
雑誌
ジオシンセティックス論文集 (ISSN:13446193)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.187-194, 2013 (Released:2014-11-06)
参考文献数
17

侵食対策として急斜面に施工された,ある連続繊維補強土の一部が完成から半年程度で崩落した.崩落箇所 を詳細に調べたところ,背後の地山からの湧水を考慮して設置されていた裏面排水材に赤褐色のゲル状物質が 付着しており,排水能力が低下した可能性が示唆された. そこで本研究では,まず始めに湧水とゲル状物質の性質を簡易的に調査した.次に,現地で裏面排水材の試 験片に地山からの湧水を流すことで目詰まりを再現し,実験室内で垂直方向透水性能試験と面内方向通水性能 試験を実施した.その結果湧水は還元状態にあり,ゲル状物質は鉄イオンの酸化に伴う沈殿物であること,排 水材の透水・通水性能はこの物質の付着によって短期間で急激に低下することが分かった.
著者
山崎 新太郎 片岡 香子 長橋 良隆
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

沿岸域や浅水域では過去に大地震に伴う数百から数千m2以上の大規模な崩壊や地すべりが発生している.これは水で飽和した地質が大地震により液状化したり破壊されたりすることにより強度を失うことで発生するものと考えられる.しかし,近年の大地震により大規模に沿岸域が崩壊・喪失した事例や,その痕跡として浅水域に地すべり地形が確認されたものは,液状化の発生事例数やその範囲に比べると明らかに小さい.沿岸域や浅水域における大規模崩壊や地すべりの発生には,加えてさらに特異な条件が必要であることが示唆される.沿岸域には人口が集中し,もし沿岸―浅海域における大規模崩壊の条件を理解することができれば,特に地震時の危険性に注意を払うべき場所が明確になるだろう.本講演でとりあげる福島県・猪苗代湖では,その沿岸に地すべりの地形であることを示す馬蹄形滑落崖と,それから伸びた舌状地形が複数認められる.この状況の存在は猪苗代湖が前述のような大規模崩壊を発生させやすい特異な条件を備えていることを強く示唆し,それを地質学的かつ地盤工学的に詳しく検討すれば,前述した地すべりの発生条件の解明に繋がるものと思われる.筆者らは,2015年と2016年の2カ年に渡って3.5 kHzサブボトムプロファイラによる音響地質構造探査を,のべ120 kmに渡って猪苗代湖全域を網羅するように実施した.この音響地質構造データと,2012年に福島大学が猪苗代湖湖心部で湖成堆積物を貫通するように採取した約28m長のコア(INW2012コア)との対比を行った.その結果,湖底における斜面の安定性と地すべりについて特に得られた知見を以下に3つ列挙する.1)猪苗代湖の湖心より南部の水域において湖形成以降の湖底堆積物の全体の音響地質断面画像が得られた.同水域の底質は全域に渡って一貫した成層構造であり,層内に水平に連続して認められた強反射層の一部はINW2012コアに認められた広域テフラ層準と一致していた.また,湖底堆積物底面には湖形成以前の砂礫層と位置する反射が認められた.この湖心から南部の水域では湖成層が安定的に堆積してきたものと思われる.一方で湖の北部では湖底最表層での音響の減衰が大きいため下方の構造を認識できなかった.おそらく,北部では磐梯山の火山活動及び長瀬川の流入による砂礫成分の流入が活発であるため最表層での音波の反射と減衰が大きいと思われる.従って北部に認められる大規模な地すべり地形は粗粒の堆積物の下位に存在すると思われる.2)得られた音響地質断面画像では,ほぼ全てに渡って,無構造な堆積物であることを示す音響的透明相が頻繁に認められた.これらは猪苗代湖の湖成層内では,流体またはガスの噴出がこれまでに複数繰り返されてきたことを示唆し,湖成層がこれまでに複数の地震の影響を受けてきたことを示すと考えられる.特にその密度は湖心部で約13 m下から湖成層底部までの区間で高い.この深度は浅間火山起源のAs-Kテフラ層準(18, 100年前;廣瀬ほか2014)より1 m下である.この深度は約2万年前に相当し,この時期に猪苗代湖の周辺で大地震が発生した可能性がある.3)猪苗代湖南部を起源とする長さ2.8 km,最大厚さ約25 mの大規模な湖底地すべりを示す地質構造が発見された.この地すべりは前述のAs-Kの約1 m下に存在し,この湖底地すべりの主たる運動は,塊状移動体の滑動によるものである.地すべりは0.8度の傾斜を持つすべり面で発生し,下方末端には約1 kmに渡って複数のスラストと褶曲を伴って衝突変形している様子が観察できた.この地すべりは音響探査により地層の変形構造とすべり面が追跡できた貴重な例であり,今後,この地すべり体を直接掘削し,その地質と構造および材料的な地震に対する反応性の面から分析すれば,沿岸域や浅海域で崩壊・地すべりが発生する条件の解明に迫れるものと思われる.<文献>廣瀬孝太郎・長橋良隆・中澤なおみ(2014)福島県猪苗代湖の湖底堆積物コア(INW2012)の岩相層序と年代.第四紀研究,日本第四紀学会,157-173.
著者
山崎 新太郎 田房 友典
出版者
北見工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では沿岸水域における地すべり地形の発見と,地形から考えられる地すべりと津波の関係を分析するために,過去の浅深測量成果から疑わしい地形を調査し,さらにその調査を効率的に進めるためのシステムの開発を行った.特に,低コストで運用可能な高解像度ソナーやサイドスキャンソナーを持ち,リアルタイム走査位置を遠隔で受信し,さらに遠隔操作によって水域を網羅的に調査する無人船システムの開発に成功した.これにより,水底地形と底質の効率的な調査が可能になった.筆者らは,その調査システムの全部または一部を利用して,国内5箇所の水域を調査し,沿岸水域で発生した地すべりの地形および地質構造を複数確認した.
著者
中村 大 川口 貴之 渡邊 達也 川尻 峻三 山崎 新太郎 山下 聡
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.4-11, 2017-02-01 (Released:2017-02-08)
参考文献数
12

Recently it has been found that frost heave phenomena can be seen not also in soil but also in rock. It is obvious, however, that the number of researches on frost heaving in rock is much less than that of researches on frost heaving in soil. In the present research, we newly developed test equipment in which a pressure transducer is incorporated into a device for testing frost heave in rock. Frost heaving tests were performed using three types of rocks (Ohya tuff, which is soft rock with high frost susceptibility; Kimachi sandstone, which is medium-hard rock with low frost susceptibility; and Sapporo soft rock, which is non-frost-heaving soft rock) to measure the suction pressure generated in the process of frost heaving. In these tests, we obtained fairly large negative pressures for Ohya tuff and Kimachi sandstone. In mediumhard Kimachi sandstone, negative pressure was generated before frost heaving displacement started. On the other hand, negative pressure was not generated in non-frost-heaving Sapporo soft rock. Therefore we considered that frost heaving in rock might be caused by negative pressure generated in the process of frost heaving.