- 著者
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西 真紀子
熊谷 崇
ウェルトン ヘレン
- 出版者
- 一般社団法人 日本口腔衛生学会
- 雑誌
- 口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.4, pp.399-407, 2016 (Released:2016-08-03)
- 参考文献数
- 14
リスク評価(CRA)に基づき,患者個人にカスタマイズドしたう蝕予防,つまりパーソナライズド・カリエス予防(PCP)は日本人にまだ新しい医療サービスである.Rogersのイノベーション普及理論によると,普及の初期段階のキーパーソンは,イノベーションについての知識が高いとされている.われわれは,PCPプログラムへのアクセス困難が,この新しいプログラムの普及を妨げていると仮定した.アンケート調査による本横断研究の目的は,う蝕と歯周病のリスク評価を促進することを目的としたあるNPO 法人(PSAP)を通した成人(20 歳以上)を対象に,(1)PCP 利用者の割合を調べ,(2)PCPプログラムを受けていない理由をまとめ,(3)カリエスリスクについての知識がPCPへのアクセスと関係しているかを決定することにより,この仮定を調査することである.被験者はPSAPの初期の賛同歯科医院会員の患者(グループA:N=389),新規の賛同歯科医院会員の患者(グループB:N=78),新規一般会員(グループC:N=68)とした.主要なアウトカム変数は,患者によるPCPプログラムの利用,PCPプログラムを受けていない理由,選ばれたカリエスリスクファクター/インディケータの合計と,8つのリスクファクター/インディケータを選んだ回答者の割合である. グループAはPCPプログラムの利用率が最も高く(83.0%, 99% CI: 71.4–94.7),グループB (59.0%, 99% CI: 21.8–96.1),グループC (27.9%, 99% CI: 13.4–42.5)と続いた.グループAとCには,統計学的有意差があった(p<0.01).PCPプログラムを受けていない最も多い理由は,グループAB(グループAとBの混合)で"それについて知らなかった"(68.4%),グループCで"かかりつけ歯科医がしてくれない"(53.1%)だった.彼らはグループABのPCP非利用者よりカリエスリスクの知識が高く,リスクファクター/インディケータの中にはグループABのPCP利用者よりもよく知っているものもあった.これらの知見を一般化すると日本における潜在的なPCP利用者は,彼らの歯科医師がこのサービスを提供していないためにPCPプログラムへアクセスする機会がないのだろう. 結論として,PCPプログラムへのアクセスは,歯科医師が提供しているサービスに決定され,患者の知識はPCPへのアクセスに関係なかった.日本において社会決定要因へのアプローチを通してPCPプログラムの利用可能性を高めるために更なる努力が必要である.