著者
山室 信一 小関 隆 岡田 暁生 伊藤 順二 王寺 賢太 久保 昭博 藤原 辰史 早瀬 晋三 河本 真理 小田川 大典 服部 伸 片山 杜秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究においては、女性や子ども更には植民地における異民族までが熱狂をもって戦争に参与していった心理的メカニズムと行動様式を、各国との比較において明らかにすることを目的とした。そこでは活字や画像、音楽、博覧会などのメディアが複合的に構成され、しかも複製技術の使用によって反復される戦争宣伝の実態を明らかにすることができた。そして、このメディア・ミックスを活用する重要性が認識されたことによって、外務省情報部や陸軍省新聞班などが創設されることとなった。戦争ロマンの比較研究から出発した本研究は、戦争宣伝の手法が「行政広報」や「営利本位の商業主義」に適用されていく歴史過程を明らかにすることによって、総力戦という体験が現代の日常生活といかに直結しているのかを析出した点で重要な成果を生んだ。
著者
王寺 賢太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究では、フランス啓蒙期の政治思想史を、モンテスキュー、ルソー、ディドロにおける「立法者」問題に焦点を当てて描き出す。「立法者」問題とは、理想的な政治体の「(再)創設」という政治的行為の問題であり、三人の思想家において、その政治的行為の理想は、社会のあり方や政治体構成員の意志に基づく、自律的=再帰的な統治の回路を創出することに置かれた。まただからこそ、「立法者」は、成功の暁には自ら消滅すべき逆説的存在とされる。この逆説が示唆するのは、政治的自律の理想の実現の困難であり、その困難こそが、ルソーの「公民宗教」問題や、ディドロの「革命の連続」としての「歴史」の概念には見てとれるのである。
著者
田口 紀子 増田 真 永盛 克也 吉川 一義 杉本 淑彦 多賀 茂 王寺 賢太 アヴォカ エリック 辻川 慶子 村上 祐二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

フランスにおける、「文学」と「歴史」という二つの隣接ジャンルの美学的、認識論的境界の推移と、具体的文学作品での歴史認識の表出を、17 世紀から 20 世紀までのいくつかの特徴的局面に注目して検証した。2011 年 11 月には国内外から文学と歴史の専門化を招いて日仏国際シンポジウム「フィクションはどのように歴史を作るかー借用・交換・交差」を京都日仏学館で開催した。その内容を来年度を目途にフランスで出版するべく準備を進めている。
著者
王寺 賢太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

1)「哲学的歴史」と考証学レナルの「哲学的歴史」は、ベイルらの「歴史の懐疑主義」の提起したユダヤ-キリスト教的な世界観の批判、あるいは王と信仰と法の統一性の証明を志すべくベネティクト会士の考証学の批判を受け入れたところから出発する。しかし、レナルにとって一層重要なのは、「歴史の懐疑主義」による歴史認知一般の真理妥当性の否定を退け、「蓋然性」にもとづく歴史認識を理論的に擁護したのみならず、新旧論争における相対主義の提起、聖書の創造譚を規範とする中国の歴史的・民俗学的叙述の批判を行った碑文アカデミーの考証学者フレレである。だが、キリスト教的な世界観にかわる近代的な世界観を示唆したフレレも、過去の事実の検討に目標をおく考証学の言説の内部では、新たな歴史叙述の枠組み自体を示すことはできなかった。世紀中盤考証学の忠実な読者であったレナルが近代ヨーロッパの歴史叙述を選択する背景には、十八世紀の考証学の認識論的な発展によってあきらかにされたその限界を乗り越えようとする企図が控えている。2)「哲学的歴史」と法思想マキャヴェッリの政治思想とベイルにいたる懐疑論の継承者であるレナルは、ストア=キリスト教的な目的論的枠組みのなかで、「真正な理性」や「社交性」から絶対王政の法秩序を導き出す自然法思想を否定する。また、当時「書かれた理性」ないし自然法を体現するとみなされていたローマ法については、フランス王国を近代におけるローマの帝権と法の継承者とみなすボシュエやデュボスの「ロマニズム」をしりぞけ、ブーランヴィリエの「ゲルマニスム」をうけてローマ帝国と近代ヨーロッパ諸国家の断絶を強調する。レナルにおいて法の起源は理性にではなく社会内部の権力関係にあり、近代の王国の政治的秩序は、とりわけ暴力装置と所有の分配の変動を通じて歴史的に生成したものなのである。この認識はモンテスキューによる法についての歴史的で政治的なアプローチを受け継いだものだが、さらにレナルは、「法を歴史によって、歴史を法によって説明する」モンテスキューを批判して、実定法以前にある多数者の意思とその間の社会的な諸関係の存在を強調する。そこで歴史は法を特権的な参照項として叙述されるものであることをやめ、法体系に断絶さえもたらしかねない、社会的な諸関係総体の変動として把握されることになるのである。以上2)の研究内容は、4月25日、パリのフランス国立科学研究所において開かれる『十八世紀における法学的知の形成』研究会で発表される。