著者
田浦 太志 正山 祥生 森元 聡
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.178-184, 2005 (Released:2005-07-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

Cannabis sativa produces novel secondary metabolites called cannabinoids. Among them, Δ1-tetrahydrocannabinol (THC), the psychoactive component of this plant, has attracted a great deal of attention, because this cannabinoid is shown to exert a variety of therapeutic activities such as the relief of nausea caused by cancer chemotherapy. To reveal the mechanism of THC formation in Cannabis sativa, we attempted biosynthetic studies. Consequently, we established that Δ1-tetrahydrocannabinolic acid (THCA), the precursor of THC, is derived from cannabigerolic acid and that this reaction is catalyzed by the novel oxidocyclase, THCA synthase. Here, we show the biochemical and structural properties of THCA synthase.
著者
田浦 太志
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は昨年度に引き続き、アグロバクテリウム法による大麻への遺伝子導入システムの確立を検討した。まず大麻成分生合成酵素であるTHCA synthase及びOLA synthaseのセンス及びアンチセンス遺伝子を有するアグロバクテリウムを大麻幼植物および培養細胞に感染させ、各種ホルモン添加によりカルスあるいは不定胚の形成を検討した。この結果、不定胚は得られなかったものの組み換えカルスを安定的に得る方法を確立した。しかしながら得られた組み換えカルスの成長速度が極めて遅く、多くがサブカルチャー中に枯死したため組み換え体を植物体として得るには至らなかった。そこで新たな方法として、細胞培養を必要としない形質転換法として近年注目を集めているFloral Dip法について検討を行った。材料として本学薬用植物園で栽培した開花時期の大麻雌株を用い、その地上部を上記アグロバクテリウムの培養液に数秒間浸すことにより感染させ、次いで、グロースチャンバー中で短日処理を行うことにより種子の成熟を検討した。しかしながら、アグロバクテリウム処理した植物体はダメージが大きく、種子を成熟させるに至らないことが判明した。Floral Dip法を行う際に、植物体をSilwet L-77などの薬剤で処理することで損傷を免れた例が報告されていることから、現在それらを含め、Floral Dip法の各種条件検討を行っており、今後、遺伝子導入を確認した種子について植物の栽培を行い、植物形態やカンナビノイド含量の変化について検討する計画である。本研究は遺伝子工学による組み換え大麻の作出とカンナビノイド含量のコントロールを目的としたが、本年度までにこれを達成するには至らなかった。しかしながら、本研究では細胞レベルで大麻を形質転換する方法の確立に成功しており、これは組み換え大麻作出に向けた重要な成果であると考えられる。
著者
田浦 太志
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

オオケビラゴケ(Radula perrottetii)は大麻のカンナビノイドに類似した構造のビベンジルカンナビノイドであるperrottetineneを生産することが報告されている。本研究では網羅的遺伝子発現解析(EST)に基づき、perrottetinene生合成に関与するポリケタイド合成酵素、プレニル転移酵素及び酸化閉環酵素を同定することを目的とした。先ず、ポリケタイド合成酵素に関しては昨年度ESTデータより推定した6種の配列(PKS1~PKS6)をRT-PCRにより増幅し、大腸菌発現ベクターpQE80Lに組み込み、組み換え酵素を調製した。得られた各PKSについて、phenylpropionyl-CoAを開始基質とするアッセイを検討した結果、perrottetinene前駆体として予想されるdihydropinosylvinの合成は確認されなかった一方、PKS5を除く各酵素の反応液に、分子量258の生成物が確認されたことから、dihydropinosylvinのカルボン酸化体が合成されたものと推察した。オオケビラゴケの近縁種であるRadula marginataはperrottetineneのカルボン酸化体であるperrottetinenic acidを含有することが知られており、オオケビラゴケにおいても同様の代謝経路が存在する可能性が考えられる。次いで、プレニル転移酵素および酸化閉環酵素に関しては昨年度EST解析によりピックアップした候補配列のうち、特にカンナビノイド生合成経路の酵素と高いホモロジーを示す各三種の配列をRT-PCRにより増幅し、メチロトロフ酵母の発現ベクターpPICZaに組み込み、X33株に形質転換して発現株を作製した。以上のように本研究ではオオケビラゴケに特徴的な二次代謝産物生合成に関与すると考えられる各遺伝子を保存し、発現系を確立するに至った。
著者
田浦 太志 正山 祥生 森元 聡
出版者
一般社団法人日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.178-184, 2005-07-25
被引用文献数
1 2

大麻に含まれるTHCは幻覚作用を有するが, 優れた鎮痛作用を示すことから医療への応用が期待されている重要な化合物である.THCの前駆体であるTHCAの生成機構を解析した結果, 本化合物は新規な性質を有する酸化酵素(THCA合成酵素)の触媒作用によって生合成されることが明らかとなった.
著者
棚谷 綾介 田浦 太志
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】カンナビノイドはolivetolic acid(OLA)とモノテルペンから構成される二次代謝産物であり、近年、欧米各国で医薬品応用されるなど高い注目を集めている。本研究ではカンナビノイドの生合成に関与するプレニル転移酵素(CsPT4)1)の基質特異性を検討した。【方法】Pichia pastorisのCsPT4発現株よりミクロソーム画分を調製し、これを粗酵素として各種芳香族基質およびプレニル基質を組合せたアッセイを行った。【結果および考察】CsPT4はOLAのゲラニル化を触媒し、cannabigerolic acid(CBGA)を生成する酵素であるが、前回我々は本酵素がFPPおよびGGPPに対しても活性を示し、プレニル鎖長の異なるCBGAアナログを合成することを報告した2)。今回芳香族基質に対する基質特異性を再検討した結果、CsPT4はOLA以外に、アルキル鎖長の異なるdivarinic acidおよび6-heptylresorcylic acid、フロログルシノール誘導体のphlorocaprophenone、さらにdihydropinosylvin acidを受容し、ゲラニル基の転移を触媒することを確認した。このうちdihydropinosylvin acid からはビベンジルカンナビノイド3)前駆体の3-geranyl dihydropinosylvin acidの生成を確認した。以上からCsPT4は多様なカンナビノイド関連化合物の酵素合成に応用可能と考えられる。1) Luo et al., Nature 567, 123 (2019)2) 棚谷ら、日本生薬学会第66回年会講演要旨集p863) Chicca et al., Sci Adv 4, eaat2166 (2018)