著者
甲斐 知恵子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.13-17, 1997 (Released:2018-05-05)
参考文献数
19

現代は史上かつてないほどの大量絶滅の時代といわれ, 多くの種が絶滅の危機に陥っている。種の絶滅は, 気象などの環境の変化, 動物種間の競合, 食物連鎖の変化など複数の要因が重なり合って起こると考えられている。それに加え伝染病の流行もその一つの原因と数えられる。近年, 野生動物の間で突然起こったウイルス感染症の流行を例として, 伝染病の流行が種の保存に与える影響, また流行の原因や人間の関与, 我々のなすべきことなどについて考察を行った。1980年代の終わりから, 海洋動物の大量の死亡例が相次いだ。北西ヨーロッパの海洋地帯でのゼニガタアザラシの大量の死亡, ついでシベリアのバイカルアザラシ, ネズミイルカ, マイルカと, 異なる種で同じような呼吸器症状や神経症状を示して死亡した例が相次いで発見された。これに対して病理学的, 免疫学的診断、ウイルスの分離, その後の分子生物学的検索など世界的な協力のもとに調査・研究が迅速に行われた。その結果, 原因ウイルスはイヌジステンパーウイルスに近縁で, 各々別の3種類の新種ウイルスであった。さらに, これまで発症例を見なかったライオンにもジステンパー感染症が起こった。このような新たなウイルスの出現や既知のウイルスの宿主域の拡大の原因は解明されていない。しかし, 海棲動物の例では環境変化によるウイルス保有動物が免疫力のない野生動物の生態系へ移動したこと, ライオンでは人間の飼い犬のウイルスがイヌ科動物を介して伝播した説が最も有力である。このようなウイルス感染症の流行による個体数の激減は, 人間が直接的・間接的に野生動物の生態系へ影響を与えた結果と考えられる。研究面からの貢献はもちろんのこと, 人間の地球環境への影響の問題や, 野生動物の伝染病流行が起きた場合の対策などは、今後の人類の重要検討課題と考える。
著者
上間 匡 池田 靖弘 宮沢 孝幸 林 子恩 鄭 明珠 郭 宗甫 甲斐 知恵子 見上 彪 高橋 英司
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.197-199, 1999-02-25
被引用文献数
2

1998年台湾北部(台北および淡水地区)において, ネコ免疫不全ウイルス(FIV)に対する疫学調査を行った. 調査したネコ32匹の内, 7匹(21.9%)が抗FIV抗体陽性であった. このうち3匹からFIVの分離に成功した. エンベロープ遺伝子のV3-V5領域の塩基配列を決定し, 系統発生の解析を行ったところ, これらの分離株はすべてサブタイプCであることが判明した. 今回の結果と我々の以前の報告(稲田ら, 1997年, Arch. Virol. 142: 1459-1467)から, 台湾北部ではサブタイプCのFIVが流行していると考えられた.
著者
Sinchaisri Tip-Aksorn 永田 伴子 吉川 泰弘 甲斐 知恵子 山内 一也
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.409-416, 1992-06-15 (Released:2008-02-15)
参考文献数
20
被引用文献数
9 12

狂犬病ウイルスCVS株を, 脳内, 眼球内, 鼻腔内, 筋肉内, 皮下それぞれの経路でマウスに接種した後, 中枢神経系におけるウイルスの広がりをアビジン-ビオチン複合体(ABC)法を用いた免疫化学的および病理組織学的手法によって経時的に検索した. 脳内接種と眼球内投与群でのみマウスは致死性感染を生じたので, この2経路において詳細な検討を行った. 脳内接種マウスでは, ウイルス抗原は主に大脳皮質の神経細胞, 錐体細胞, 海馬の顆粒細胞に認められた. 眼球内接種マウスにおいては, 最初に三叉神経節に検出され, 続いて大脳皮質と小脳に広がっていく傾向が観察された. 海馬で眼球内接種の初期では極く僅かの細胞に抗原が認められたのみであった. いずれの経路においても感染マウスの中枢神経系には炎症像もNegri小体も認められなかった. この結果から, 死に至る運動失調や衰弱といった臨床症状は, 炎症反応によるものではなく, ウイルスの神経系機能への直接的な影響に起因することが示唆された. また, 通常の病理組織学的検査や海馬のスタンプ標本の蛍光抗体法では狂犬病の同定ができない症例が存在する可能性が示唆され, 狂犬病を疑われて早期に死亡した患者や屠殺された動物などの検査には, ABC法が有用であると考えられた.
著者
甲斐 知恵子 間 陽子 小船 富美夫 斉藤 泉 山内 一也 宮沢 孝幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、組み換えアデノウイルスを用いることにより、多くの高等動物で汎用できるウイルス感染における自然宿主での細胞性免疫機構の解析法を開発することである。各種動物において以下の様な知見を得た。(1)本研究では、イヌジステンパーウイルス(CDV)膜蛋白(H)遺伝子の組み換えアデノウイルスを作製した。また、CDV-H組み換えアデノウイルスを用いて細胞障害試験を樹立するため、標的となる自己細胞の確立するを試み、皮膚からの細胞株樹立に成功した。その結果、複数のイヌからの樹立に成功し、標的細胞の作製法はほぼ確立した。さらに、その他の条件を決定し、細胞障害試験の確立を試みている。また、組み換えアデノウイルスの発現効率の改良も試みている、(2)細胞障害活性及び液性免疫能を誘導するエピトープが牛疫ウイルスのN蛋白に存在することが明らかとなった。H蛋白の免疫により長期に免疫賦与される事も明らかになった。また、immune-stimulating complex(ISCOM)の利用により、組み換えH蛋白でも細胞性免疫賦与が可能であることが明らかとなった。(3)牛白血病ウイルス(BLV)の主要組織適合性遺伝子複合体(BoLA)クラスII分子には白血病に抵抗性を示すBoLA-DR3アリルが存在することが明らかとなった。羊を用いた接種実験で、これを確認したため、現在BLVの組み換えアデノウイルスを作製して、さらに詳細な解析を試みている。
著者
平間 郷子 後藤 陽子 上間 匡 遠藤 泰之 三浦 竜一 甲斐 知恵子
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.1575-1578, 2004-12-25
被引用文献数
2 22

野生ハクビシンから分離されたCDV(Haku93株・Haku00株)のH遺伝子は,607アミノ酸をコードするORFを有していた.アミノ酸配列はともに,ワクチン株よりもイヌの近年分離株と高い相同性を示し,12のシステイン残基,疎水性領域およびN型糖鎖付加部位が保存されていた.系統樹解析ではHaku93株およびHaku00株は,日本の近年分離株と同じグループに属することが明らかとなった.
著者
甲斐 知恵子 落久保 文子 沖田 賢冶 飯沼 哲夫 見上 彪 小船 富美夫 山内 一世
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.1067-1070, 1993-12-15
被引用文献数
16

臨床的にイヌジステンパーウイルス(CDV)感染症と診断された犬の脳, 脳脊髄液細胞, 脾臓, 末梢血細胞から, マーモセットBリンパ球由来のB95a細胞株を用いてウイルス分離を試みた. ウイルスは高率に分離され, また分離ウイルスのCPEの型や大きさに違いがあり, 野外流行株に異なる性状のウイルス群が存在することが示唆された. このようにB95a細胞株による分離は, 野外CDVの生態学的研究に有用と考えられた.
著者
佐藤 英明 西森 克彦 甲斐 知恵子 角田 幸雄 佐々田 比呂志 眞鍋 昇
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1)インドネシア・ブラビジャヤ大学生殖生物学部門教授のS.B.Sumitro博士を招聘し、「The use of zona pellucida protein for immunocontraceptive antigen」と題するセミナー、及びをウイスコンシン医科大学生化学部門助教授の松山茂実博士を招聘し、「Bcl-2 family proteins and cell death regulation」と題するセミナーを行った。また、国内からアニマルテクノロジーに関する専門家を4名招聘し、セミナーを行った。2)自治医科大学分子病態治療研究センター教授の小林英司博士を招聘し、「ブタは食べるだけ?」と題するセミナーを行い、アニマルテクノロジーによって家畜の意義がより広い分野で高まっていることについて情報を収集した。3)オーストラリア・アデレード大学において体細胞クローンの研究動向調査を行った。スウェーデン農科大学獣医学部において受精卵の大量生産技術の現状と将来の研究方向の調査を行った。インドで開催されたアジア大洋州畜産学会議において、アジアにおけるアニマルテクノロジーの動向について情報を収集した。4)オーストラリア・アデレード大学において、アニマルテクノロジーに関するアジアシンポジウムを共催し、世界の動向について情報を収集した。5)体細胞クローン技術による遺伝子欠損動物作出戦略について検討した。特に、「卵巣から採取した卵子を体外成熟させ、除核未受精卵をつくる。また体外成熟卵子を体外受精・体外発生させ、胚盤胞をつくり、そのような胚盤胞から胚性幹細胞株を樹立する。胚性幹細胞株を用いて遺伝子欠損細胞を作り、これを除核未受精卵に移植する。このような核移植胚を体外で培養し、生存胚を仮親に移植する」という戦略の有効性を検討した。6)調査結果をまとめ、「Animal Frontier Science」と題する本に計9編の論文を寄稿し、出版した。