著者
上間 陽子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.87-108, 2015-05-29 (Released:2016-07-19)
参考文献数
9
被引用文献数
4 2

本稿は,風俗業界で働く若年女性たちの生活・仕事の中で直面する種々のリスクへの対処の仕方,その対処において果たす彼女たちの人間関係ネットワークの機能,そのネットワークの形成の背景,特にネットワーク形成において学校体験のもつ意味を捉えることを課題とした。 本稿は,筆者らが取り組んでいる,沖縄の風俗業界とその界隈で働く若者への調査の対象者の中から特に2人の女性(真奈さん・京香さん)を取り上げ,それらの比較対照を通じて上記の課題を追究した。2人は,中学校卒業時点で学校社会のメインストリームから外れ,地元地域からも排除されていた点で共通する。だが,真奈さんは中学校時代不登校であり,同世代・同性集団に所属した経験をもたず,多少とも継続的な人間関係は恋人とのそれに限られていたのに対して,京香さんは中学時代地元で有名なヤンキー女子グループに属し,その関係は卒業後も続き,困難を乗り切り情緒的安定を維持する上での支えとなってきた。そして京香さんが仕事場面でのリスクに対処する戦術も,そのグループに所属する中で身につけた非行女子文化の行動スタイルを流用するものだった。 2人のケースの比較検討から浮かび上がってきたのは,学校時代に保護された環境の下で人間関係を取り結ぶ機会としてその場を経験できることは,移行期に多くのリスクに直面せざるを得ない層の若者にとって,相対的な安全を確保する上で不可欠なネットワークを形成する基盤となりうるものであり,その意味は決して小さくないという点であった。
著者
岩間 陽子
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.16-19, 2016-10

西ドイツ初代首相であり、1949年から1963年まで在任したコンラート・アデナウアーは、西ドイツの核保有を志向していたと言われるが、その実態はそれほど単純ではなかった。アデナウアーは、1954年のパリ協定署名時に、ABC(核・生物・化学)兵器の自国領内での製造を行わない宣言をしており、政権中にこの枠組みからはみ出すことはなかった。しかし、その範囲内で、西ドイツを核抑止の時代に適応させていった。まず、在独米軍の核兵器持ち込みを、事前協議制度なしで認めた。また、NATOの核備蓄制度を利用して、西ドイツ連邦軍の核搭載可能兵器を装備し、戦時には、それまで米軍管理下にある核兵器(弾頭)の配備を受ける制度を始めた。NATOの枠内での多角的核戦力(MLF)にも前向きな姿勢を見せながら、アデナウアーは何らかの形の「ヨーロッパ・オプション」に最後までこだわり続けた。それは、彼が米ソに大国のみが核を持つ世界では、ヨーロッパが見合うからの運命を決定する能力を失い、場合によっては超大国の取引対象となることを恐れたからであった。しかし、仏独エリゼー条約に対するアメリカの反応は、そのような道が非常に困難であることを示していた。Konrad Adenauer, the first West German Chancellor who was in office from 1949 to 1963, is said to have sought nuclear weapons for his country. But the truth is not that simple. Adenauer had renounced production of ABC weapons at the time of the signing of the Paris Treaties in 1954, and he never stepped out of this pledge. Instead, he adjusted his country to the nuclear age within that limit. First he allowed the American troops in West Germany to bring in nuclear weapons almost without any system of prior consultation. Next he put his country into the NATO nuclear stockpile system, by equipping the West German Bundeswehr with nuclear capable weapons. The nuclear weapons(warheads) to these weapons were usually under the control of American troops, and were passed onto the Bundeswehr at wartime. He also responded positively to the NATO multilateral force (MLF) plans, but also never ceased to look for an ‘European option.’ The reason for this was that he thought in a world in which only the US and USSR possessed nuclear weapons, Europe will no longer possess the ability to decide its own fate, and may become an object of deals between the two superpowers. But the American reaction to the Franco-German Elysée Treaty showed how difficult such an option was.
著者
上間 陽子 仲嶺 政光 望月 道浩 芳澤 拓也 辻 雄二 長谷川 裕 打越 正行
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

沖縄の貧困を解明するために、本助成をうけることで次の3つの調査を行うことになった。まずひとつは沖縄の風俗業界で働く若者のインタビュー調査を実施した。この調査では、彼らの生育環境、友人関係、結婚、就職、文化などについて調べた。次に全国学力・学習状況調査の沖縄の結果の分析(2013年、2014年)を行った。最後に沖縄の教員が、貧困世帯の子どもをどのように捉えて、関わりを作ったのかについて、各年代ごとにどういった傾向があるのかについて分析した。
著者
乾 彰夫 中村 高康 藤田 武志 横井 敏郎 新谷 周平 小林 大祐 本田 由紀 長谷川 裕 佐野 正彦 藤田 武志 横井 敏郎 藤田 英典 長谷川 裕 佐野 正彦 佐藤 一子 本田 由紀 平塚 眞樹 大串 隆吉 関口 昌秀 上間 陽子 芳澤 拓也 木戸口 正宏 杉田 真衣 樋口 明彦 新谷 周平 安宅 仁人 小林 大祐 竹石 聖子 西村 貴之 片山 悠樹 児島 功和 有海 拓巳 相良 武紀
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、変容する若者の学校から仕事への移行実態を把握するため、調査開始時点で20歳の若者の18歳時点から24歳までの間の就学・就労等をめぐる状態変化と、その過程での諸経験・意識等を、同一対象者を継続的に追跡するパネル方式で調査したものである。このような調査では対象者からの毎回の回答率を維持し続けることが最も重要であるが、本研究では中間段階で予定を上回る回答率を達成できていたため、調査期間を5年間に延長する計画変更をおこない、最終年度を待たず次課題繰り上げ申請を行った。調査は次課題期間にわたって継続する予定である。収集されたデータの中間的分析はおこなっているが、本格的分析は今後の課題である。
著者
上間 陽子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.87-108, 2015
被引用文献数
2

本稿は,風俗業界で働く若年女性たちの生活・仕事の中で直面する種々のリスクへの対処の仕方,その対処において果たす彼女たちの人間関係ネットワークの機能,そのネットワークの形成の背景,特にネットワーク形成において学校体験のもつ意味を捉えることを課題とした。<BR> 本稿は,筆者らが取り組んでいる,沖縄の風俗業界とその界隈で働く若者への調査の対象者の中から特に2人の女性(真奈さん・京香さん)を取り上げ,それらの比較対照を通じて上記の課題を追究した。2人は,中学校卒業時点で学校社会のメインストリームから外れ,地元地域からも排除されていた点で共通する。だが,真奈さんは中学校時代不登校であり,同世代・同性集団に所属した経験をもたず,多少とも継続的な人間関係は恋人とのそれに限られていたのに対して,京香さんは中学時代地元で有名なヤンキー女子グループに属し,その関係は卒業後も続き,困難を乗り切り情緒的安定を維持する上での支えとなってきた。そして京香さんが仕事場面でのリスクに対処する戦術も,そのグループに所属する中で身につけた非行女子文化の行動スタイルを流用するものだった。<BR> 2人のケースの比較検討から浮かび上がってきたのは,学校時代に保護された環境の下で人間関係を取り結ぶ機会としてその場を経験できることは,移行期に多くのリスクに直面せざるを得ない層の若者にとって,相対的な安全を確保する上で不可欠なネットワークを形成する基盤となりうるものであり,その意味は決して小さくないという点であった。
著者
上間 陽子 打越 正行
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はこれまで焦点の当てられることのなかった、地方在住のリスクを抱える若者の移行過程の聞き取り調査である。調査において特に注目したのは、これまでの移行調査では扱われることのなかった暴力や性の問題である。暴力や性の問題は、①当事者との合意が形成しづらく、②バッシングに転化しやすいことからこれまで記述されることがなかった。本調査研究では、そうした問題が起こるのかを、かれらの資源の枯渇状況を描くとともに、当事者の合意を経ながら記述をすすめることで、貧困研究においてえがかれることのなかった、暴力や性の問題を記述することができた。
著者
小川 晋 安間 陽子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_349-I_356, 2011 (Released:2012-03-30)
参考文献数
2

品川区では公園の新設および改修を実施するにあたり,住民説明会やワークショップ,パブリックコメント等を行い,地域住民の多様なニーズを収集して,公園の計画・整備・維持管理にあたっている.しかし,従来の住民説明会等では,多くが大人のみの参加で,遊具などはじゃまだからいらないといったような大人の意見・要望が公園づくりに反映される結果となっており,本来公園をよく利用する子ども達の意見を聞く状況になっていなかった. そこで,平成20年4月に新しく策定された品川区基本構想の中で謳われている,区民と区との協働によるまちづくりの一環として,区の未来を担う子ども達の手によって,新しい公園の計画案づくりを行った.また,実際の公園整備にあたっては,公園に対し,より一層の愛着を持ってもらうため,子どもを対象とした工事見学会を開催した.公園完成後においても,子どもボランティアを公募し,花の植え替えを行うなど,公園の維持管理の中でも子ども達の参加ができないか検討を行っている. このように品川区では,公共事業の中で子どもが主体的に関わる事業において,計画・整備・維持管理の各段階において継続的に子どもが参加できる仕組みを作り,子どもと大人が共にまちづくりを担う地域意識の向上を図っていく.
著者
乾 彰夫 佐野 正彦 堀 健志 芳澤 拓也 安宅 仁人 中村 高康 本田 由紀 横井 敏郎 星野 聖子 片山 悠樹 藤田 武志 南出 吉祥 上間 陽子 木戸口 正宏 樋口 明彦 杉田 真衣 児島 功和 平塚 眞樹 有海 拓巳 三浦 芳恵 Furlong Andy Biggart Andy Imdorf Christian Skrobanek Jan Reissig Birgit
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、代表者らグループが2007~2012年度に実施した「若者の教育とキャリア形成に関する調査」を踏まえ、①そのデータの詳細分析を行い、現代日本の若者の大人への移行をめぐる状況と課題を社会に公表すること、②他の先進諸国の同種データと比較することで日本の若者の移行をめぐる特徴と課題を明らかにすること、の2点を研究課題とした。①に関してはその成果を著書『危機のなかの若者たち』(東京大学出版会、410 頁、2017年11月)として刊行した。②に関しては海外研究協力者の参加の下、イギリス・ドイツ・スイスとの比較検討を行い、2017年3月国際ワークショップ(一般公開)等においてその結果を公表した。
著者
佐久間 陽子 保科 敬子 本間 文子 山口 香織 山本 彩恵子 加賀 三司
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.223, 2007 (Released:2007-12-01)

〈緒言〉当透析室では患者の高齢化と糖尿病 性腎症が誘因となり、起立性低血圧をきたし、意識消失・転倒などのリスクの高い患者が増えている。 それらの患者に対し、先行研究を基に起立 性低血の改善を目的とした透析後運動療法を行った。その結果、血圧差(透析終了止血後、臥位収縮期血圧と立位収縮期血圧との差。以下血圧差と略す)の改善に効果的であったので報告する。 〈方法〉期間:平成18年3月~10月 対象:透析後の起立性低血圧があり、立位で帰宅が可能な患者の内、研究に同意が得られ、運動療法が6ヶ月間継続できた14名。 年齢: 65歳未満2名 65歳以上12名 原疾患:糖尿病性腎症7名 腎炎他7名 実施方法:運動実施前(3月):透析終了し止 血後の臥位血圧とその直後の立位血圧を測定をする。運動実施後(4~9月):透析終了し止血後臥位で血圧測定をし、8分間の運動実施後立位で血圧測定をする。運動実施前・後期間の離床時間を測定する。運動方法 臥位:_丸1_両膝伸展し足の背屈・底屈(2分) _丸2_両肘関節屈曲・伸展を行いながらジャンケ ン運動(3分)_丸3_両膝屈曲位から片脚ずつ伸 展挙上(2分)端座位_丸4_足踏み(1分) 用語の定義:起立性低血圧=透析後の起立時収縮期血圧が20mmHg以上低下する状態 離床時間=透析終了後、立位血圧測定時から歩行でベッドを離れるまでの時間。 離床時間:透析終了後、立位血圧測定時から 〈結果〉 図1より全対象者の運動実施前後の血圧差の平均は、運動実施前46mmHg運動実施後28mmHgであった。結果、運動実施後、血圧差が18mmHg小さくなった。運動実施前後で一番変化がみられた例では、38mmHgの差があった。対象者14名のうち運動実施前後の血圧差で有意差がみられたのは10名、有意差がみられなかったのは4名であった。 全対象者の血圧差と離床時間の相関関係は各 月の離床時間の平均と血圧差の平均から相関 係数r 0.94001となり、相関関係は強い。よ って、血圧差が小さい程、離床時間が短い。 全対象者の血圧差と体重増加分の相関関係 は各月の体重増加分の平均と血圧差の平均から相関係数r 0.08015となり、血圧差と体重増加分の相関関係はほとんどなかった。