著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.46-58, 2010-08-31 (Released:2010-08-18)
参考文献数
64
被引用文献数
2

本稿では「協調性」をAgreeablenessとCooperativenessの両方を含む概念(非利己的で,他者に対して受容的,共感的,友好的に接し,他者と競い合うのではなく,譲り合って調和を図ったり協力したりする傾向)としてとらえ,この特性の起源に関する文献を展望した。これらの文献からは,AgreeablenessもCooperativenessも遺伝と環境の両方の影響を受けること,協調性は社会的絆の形成・維持に関連する親和性等の気質と自己調整に関連する気質と関係があることが示唆された。また,親和性と,同じく社会的絆の形成・維持に関係があり協調性との関連が深いと考えられる共感性には神経生物学的基盤があることが示唆された。これらの基盤が協調性の遺伝的起源の一部となっている可能性がある。協調性の要素間の関係やパーソナリティ特性としての成立過程,環境的起源については,さらに詳細に検討する必要がある。協調性の尺度についても再検討が必要である。
著者
登張 真稲
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
70
被引用文献数
2

最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。
著者
登張 真稲 首藤 敏元 大山 智子 名尾 典子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.17242, (Released:2019-02-28)
参考文献数
30
被引用文献数
3

The first purpose of this study was to confirm whether the cooperativeness of adolescents comprises the following three aspects: finding better solutions for self and others, cooperating with others, and concurring with others. Three factors describing these concepts were extracted from the data of three surveys conducted with university and senior high school students. The revised version of the Multifaceted Cooperativeness Scale was developed based on this three-factor solution. The revised scale consists of three subscales: collaborative problem-solving, cooperation, and harmoniousness. The second purpose of this study was to examine the relationship between these subscales and activity and creativity, using two types of the Big Five Scale and the Creativity Scale. The following assumptions were made: collaborative problem-solving correlates with activity and creativity; cooperation correlates with activity, but not with creativity; and harmoniousness correlates negatively with activity and creativity. Another survey conducted with university students generally supported these hypotheses and verified the construct validity of the revised Multifaceted Cooperativeness Scale. The results also indicated that harmoniousness was related to neuroticism.
著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.36-51, 2000
被引用文献数
3 9

多次元的視点を用いた共感性研究の展望を試み, 「共感的関心」, 「個人的苦痛」, 「視点取得」, 「ファンタジー」の4次元について, どのような変数と関係があるかの検討をおこなった.「共感的関心」は情動性, 他者への非利己的関心, 向社会的行動と正に相関し, 「個人的苦痛」は情動性と正, 制御性と負に相関した.「視点取得」は制御性, 対人認知, 向社会的行動(視点取得教示があるとき)に正, 攻撃性と負, 「ファンタジー」は情動性と正に相関した.次元間の関係については, 「共感的関心」, 「視点取得」, 「ファンタジー」間が正の関係にある.「共感的関心」(愛他的傾向), 「個人的苦痛」(他者の苦痛に対し, 動揺など自己志向の感情反応が起こること), 「視点取得」(他者の気持ちの想像と認知), 「ファンタジー」(他者への同一化傾向)と次元の意味を推測したが, 共感性の次元については, 内容も含め, さらに検討する必要がある.共感性の起源と発達については種々の研究方法が開発されているが, 多次元的視点によるものはまだ少なく, さまざまな角度からさらに検討する余地がある.
著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.36-51, 2000-09-30 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5 9

多次元的視点を用いた共感性研究の展望を試み, 「共感的関心」, 「個人的苦痛」, 「視点取得」, 「ファンタジー」の4次元について, どのような変数と関係があるかの検討をおこなった.「共感的関心」は情動性, 他者への非利己的関心, 向社会的行動と正に相関し, 「個人的苦痛」は情動性と正, 制御性と負に相関した.「視点取得」は制御性, 対人認知, 向社会的行動(視点取得教示があるとき)に正, 攻撃性と負, 「ファンタジー」は情動性と正に相関した.次元間の関係については, 「共感的関心」, 「視点取得」, 「ファンタジー」間が正の関係にある.「共感的関心」(愛他的傾向), 「個人的苦痛」(他者の苦痛に対し, 動揺など自己志向の感情反応が起こること), 「視点取得」(他者の気持ちの想像と認知), 「ファンタジー」(他者への同一化傾向)と次元の意味を推測したが, 共感性の次元については, 内容も含め, さらに検討する必要がある.共感性の起源と発達については種々の研究方法が開発されているが, 多次元的視点によるものはまだ少なく, さまざまな角度からさらに検討する余地がある.
著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.228-239, 2007-01-31
被引用文献数
4 2

社会的望ましさ尺度を用いた社会的望ましさ修正法の妥当性と有効注を検討する研究の結果を展望した。社会的望ましさ尺度は社会的望ましさ反応による回答の歪みを見破ることができるが,社会的望ましさ尺度を用いた社会的望ましさ修正法で前提とされている回答の歪みと社会的望ましさ尺度との間の直線的な関係は,一部の性格因子においてのみ示唆されるにとどまった。社会的望ましさ尺度を用いて個々の得点を修正する方法は,集合レベルではある程度の効果をもつが,個々のレベルで見ると個人の修正得点を正直得点に近似させる効果をもたないこと,部分相関や偏相関を用いた社会的望ましさ修正法は,パーソナリティ検査の妥当性を高める効果をもたないことが明らかとなった。社会的望ましさ尺度を用いた従来の修正法は,社会的望ましさ尺度が何を測定しているかという問題と関連づけて再検討する必要がある。
著者
登張 真稲 首藤 敏元 大山 智子 名尾 典子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.167-177, 2019
被引用文献数
3

<p>The first purpose of this study was to confirm whether the cooperativeness of adolescents comprises the following three aspects: finding better solutions for self and others, cooperating with others, and concurring with others. Three factors describing these concepts were extracted from the data of three surveys conducted with university and senior high school students. The revised version of the Multifaceted Cooperativeness Scale was developed based on this three-factor solution. The revised scale consists of three subscales: collaborative problem-solving, cooperation, and harmoniousness. The second purpose of this study was to examine the relationship between these subscales and activity and creativity, using two types of the Big Five Scale and the Creativity Scale. The following assumptions were made: collaborative problem-solving correlates with activity and creativity; cooperation correlates with activity, but not with creativity; and harmoniousness correlates negatively with activity and creativity. Another survey conducted with university students generally supported these hypotheses and verified the construct validity of the revised Multifaceted Cooperativeness Scale. The results also indicated that harmoniousness was related to neuroticism.</p>
著者
登張真稲 名尾典子 首藤敏元 大山智子
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

【問題と目的】 登張・名尾・首藤・大山(印刷中)は教師が生徒の協調性を評定できる尺度等を含む質問紙を作成し,小学校,中学校,高校の教師計96名に回答を求めた。この質問紙では教師たちに,「子どもたちをどのように育てたいと思うか」についても聞いている。本研究では,この質問への教師の回答について報告する。「協調的な人に育てたい」という期待が,他の期待と比較し,相対的にどのぐらい大きいかということについても検討する。【方法】研究対象:小学校教師61名,中学校教師21名,高校教師14名,計96名(男性50名,女性46名;20代~60代)質問内容:「子どもたちをどのように育てたいと思うか,どのような人になってもらいたいと思うか,お聞きします」という設問に対して,「自分の意見をしっかり主張できる人」等の15項目の中から,5つまで選ぶことを求めた。この15項目は,研究者4名で相談して,学校の教師が生徒に期待すると思われる項目として考案したものである。調査:2013年7月に小学校教師17名に,2013年8月に小学校教師44名,中学教師21名,高校教師14名,計79名に質問紙への回答を求めた。【結果と考察】 「子どもたちをどのように育てたいと思うか」という設問に対する15項目のそれぞれについて,小学校教師,中学校教師,高校教師,小学校+中学校+高校の各群で選択された比率を,多い順にTable 1に示した。 最も多く選択されたのは,「相手の気持ちを考えて行動する人」であった。「協調性の高い人」を最も良く表しているのは「いろいろな人と協調・協力できる人」であるが,この項目の選択は中高の教師では比較的高いものの、小学校教師では30%未満であり、中学生以上で特に期待される特性であることが示唆された。「相手の気持ちを考えて行動する人」「良い人間関係を築ける人」「道徳や規則をしっかり守る人」「人のために行動できる人」「人に迷惑をかけない人」「他人に対して寛容な人」も協調性の高い人に含めることが可能とも考えられるので、そうした回答を含めると、協調性を求める回答は多いと言える。協調性以外の特性で,多く選択されたのは,「夢を持ち夢の実現に向けて努力する人」,「自分の意見をしっかり主張できる人」等である。「自分に厳しい人」「自分を犠牲にして他者を助けることができる人」は優先順位が低かったと言える。 「自分らしさを大事にする人」は小学校教師で,「人のために行動できる人」「難しい問題にも恐れず立ち向かう人」は中学校教師で,「謙虚な人」は高校教師で相対的に多い傾向が見られた。 特に中学教師と高校教師の人数が少なかったため,この結果が常に再現されるかどうかは不明であるが,教師が生徒をどのように育てたいと思うかということが少し明らかになった。Table 1 「子どもたちをどのように育てたいか」という設問に対する選択の比率(5つまで)(%)【引用文献】 登張・名尾・首藤・大山 (印刷中) 日本心理学会第78回大会論文集
著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.228-239, 2007 (Released:2007-04-10)
参考文献数
47
被引用文献数
2 4

社会的望ましさ尺度を用いた社会的望ましさ修正法の妥当性と有効性を検討する研究の結果を展望した。社会的望ましさ尺度は社会的望ましさ反応による回答の歪みを見破ることができるが,社会的望ましさ尺度を用いた社会的望ましさ修正法で前提とされている回答の歪みと社会的望ましさ尺度との間の直線的な関係は,一部の性格因子においてのみ示唆されるにとどまった。社会的望ましさ尺度を用いて個々の得点を修正する方法は,集合レベルではある程度の効果をもつが,個々のレベルで見ると個人の修正得点を正直得点に近似させる効果をもたないこと,部分相関や偏相関を用いた社会的望ましさ修正法は,パーソナリティ検査の妥当性を高める効果をもたないことが明らかとなった。社会的望ましさ尺度を用いた従来の修正法は,社会的望ましさ尺度が何を測定しているかという問題と関連づけて再検討する必要がある。
著者
登張 真稲 首藤 敏元 大山 智子 名尾 典子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
2019
被引用文献数
3

<p>The first purpose of this study was to confirm whether the cooperativeness of adolescents comprises the following three aspects: finding better solutions for self and others, cooperating with others, and concurring with others. Three factors describing these concepts were extracted from the data of three surveys conducted with university and senior high school students. The revised version of the Multifaceted Cooperativeness Scale was developed based on this three-factor solution. The revised scale consists of three subscales: collaborative problem-solving, cooperation, and harmoniousness. The second purpose of this study was to examine the relationship between these subscales and activity and creativity, using two types of the Big Five Scale and the Creativity Scale. The following assumptions were made: collaborative problem-solving correlates with activity and creativity; cooperation correlates with activity, but not with creativity; and harmoniousness correlates negatively with activity and creativity. Another survey conducted with university students generally supported these hypotheses and verified the construct validity of the revised Multifaceted Cooperativeness Scale. The results also indicated that harmoniousness was related to neuroticism.</p>
著者
登張 真稲
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.143-155, 2005
被引用文献数
4

本研究の目的は,女子大学生,大学院生を対象に共感喚起過程と感情的結果,特性共感の次元の関係と,状態共感に対する相手との性の類似度と心理的重なりの効果を検討することである.2種類のビデオ刺激に対する反応をもとに自動的共感,役割取得,並行的感情反応,他者指向的反応,不快反応の尺度が作成された.共感喚起過程と感情的結果の変数間の関係を検討したところ,並行的感情反応は自動的共感によって,他者指向的反応は自動的共感と役割取得によって有意に説明された.特性共感の次元と状態共感の変数との関係では,共感的関心は自動的共感,役割取得,並行的感情反応,他者指向反応を予測するなど,特性共感の下位尺度は感情的結果の変数だけでなく共感喚起過程の変数を予測した.状況要因と共感喚起過程,感情的結果との関係では,自動的共感,役割取得,並行的感情反応,他者指向的反応は心理的重なりがある場合のほうがない場合より高かったが,性の類似度は共感喚起過程と感情的結果の変数に効果をもたなかった.
著者
登張 真稲
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2014

最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。