著者
金沢 尚美 星川 圭介 縄田 栄治
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.133-141, 2006

近年, 東南アジア大陸部山地部においては, 地域住民をめぐる自然・社会・経済環境が急激に変容しつつある.地域住民がこのような急速な状況の変化にどのように対応しているかを明らかにする目的で, タイ北部チェンマイ県のカレン人村落において, 土地利用図と住民に対する聞き取り調査により, 近年の土地利用と農業の変化を分析した.調査村では, 20世紀半ばまで, 長期休閑の焼畑による自給作物 (陸稲) 生産が行われてきた.1960年代, 低地住民により焼畑休閑地がケシ畑へ転換され, このことが焼畑休閑期間の短縮化をもたらした.1970年代の終わりに, 調査村全域が国立公園に指定され, ケシ畑の没収とその跡地での植林により森林面積は増加したが, 休閑期間の短縮と耕地の不足は深刻化した.その後焼畑は姿を消し, 以前の焼畑耕地ならびに休閑地は常畑地または植林地となった.一方, 焼畑よりも生産が安定している水田稲作の技術が導入され, 村内の水田面積は徐々に増加した.現在では, 自給作物であるイネと商品作物の両方が生産されている.焼畑の常畑化にともなう連作による陸稲の生産性の低下を補うため, 化学肥料が使用され始め, さらに化学肥料の使用により増大した雑草に対し除草剤の使用が始まり, 農業が急速に集約化している.近年導入された商品作物は, 主として集約化にともなう化学肥料・除草剤購入のためである.このように, 調査村の住民は, 農業の多様化により, 自給作物生産の集約化を可能にし, 新たな状況に対応していることが明らかとなった.
著者
コリム モハマッド アブドゥル 縄田 栄治 重永 昌二
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.16-25, 1994-03-01

完全型六倍体ライコムギ3品種, 置換型六倍体ライコムギ7品種, パンコムギ6品種, ライムギ5品種および六条オオムギ4品種について, それらの子実収量に及ぼす塩分濃度の影響を解析するため, 0,25,および50mMの塩化ナトリウム水溶液を灌水処理するポット栽培試験をガラス室内で行った.各作物の耐塩性を, 塩分濃度に対する子実収量の反応を指標として比較すると, オオムギの耐塩性が最も高く, 次いで完全型六倍体ライコムギが高かった.置換型六倍体ライコムギ, コムギおよびライムギでは互いに同程度の耐塩性を示した.また各作物において耐塩性の品種間差異が観察された.50mMの塩化ナトリウム水溶液処理では完全型六倍体ライコムギの6品種と置換型六倍体ライコムギのBeaver, RosnerおよびYoremeは耐塩性が高く, また置換型六倍体ライコムギのWelshとKoalaは耐塩性が低いことが分かった.パンコムギでは鴻巣25号および埼玉27号は耐塩性が高く, Sonalikaおよび農林42号は耐塩性が低く, ライムギではVegetale, VulgareおよびPetkusは耐塩性が高く, KingIIは耐塩性が低いこと, またオオムギは供試品種のいずれも耐塩性が高かった.上記の指標による耐塩性の値が比較的低い品種であっても, 子実収量の個々の構成形質に対しては塩分に比較的高い耐性を示す例も観察された.品種の耐塩性と, 塩水処理を受けた個体の葉のK/Na比との関係は必ずしも明瞭ではなかったが, 六倍体ライコムギとコムギにおいては各品種の耐塩性と葉のK/Na比の間に正の相関関係が, またオオムギでは負の相関関係が認められた.また六倍体ライコムギ品種おける細胞質やRゲノム染色体構成の違いと耐塩性との関係は必ずしも明かではなかった.
著者
松田 正彦 縄田 栄治
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.247-258, 2002-12-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
22

ベトナム北部の紅河デルタと山地部において, タロイモ数種の利用と栽培について調査した.その現状や変化を農業生態・社会・経済的な側面から考察し, また, 異なる生態地域間での比較をおこなった.さらに, 収集した30系統のタロイモについては, 形態・倍数性・リボゾームDNAにおける制限酵素断片長多型 (RFLP) の調査から遺伝的変異を明らかにした.本研究ではColocasia esculenta var. esculenta, C.esculenta var. aquatilis, C.gigantea, Xanthosoma sagittifolium, X.violaceum, Alocasia macrorhizaおよびA. odoraが観察された.デルタの調査地では C. esculenta var. aquatilis (2n=2x=28) が灌漑水路脇や池の周囲に頻繁に群生しており, その葉柄や匍匐枝は野菜やブタの飼料として利用されていた.このvar. aquatilisはデルタの農業生態系で機能していることがわかったが, 近年, 水路や池の舗装や飼料の多様化などにより、その重要度が低下していた.C. esculenta var. esculenta (2n=2x, 3x=28, 42) はデルタでは商品作物として栽培され, 一方, 山地部では自給用に焼畑で栽培されていた.リボゾームDNAのRFLP分析より, デルタ地域あるいは山地部の調査地内ではそれぞれ遺伝的に近縁なvar. esculentaの品種がみられた.しかし, 両地域に分布する近縁な品種はみられなかった.この分布の傾向は, アジアにおけるC. esculentaの複数の伝播経路がこの地域に影響した結果と考えられた.Xanthosoma spp. (2n=26) はすべての調査地に分布し, その利用や栽培に類似性がみとめられた.収集したXanthosoma系統も遺伝的に均一であった.Colocasia gigantea (2n=28) もそれほど頻繁ではないが野菜として広く複数の調査地に分布していた.Alocasia odoya (2n=28) は薬用として用いられ, A. macyoyyhizaは山地部でブタの飼料として頻繁に採集されていた.
著者
小崎 隆 縄田 栄治 舟川 晋也 矢内 純太 角野 貴信
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、湿潤地において定常的な有機物動態を攪乱・変容させるストレス要因を、土壌有機物動態モデルへ定量的に組み込む可能性を検討した。その結果、多糖基質分解プロセスにおいては可溶化/無機化二段階プロセスモデルの、また単糖無機化プロセスにおいては段階的基質利用コンセプトの適用が有用であり、反応論としてミカエリス-メンテン式の利用によって定量的に評価することが可能であった。いずれにおいても土壌酸性がストレス要因として重要なものであることが検証された。
著者
縄田 栄治 樋口 浩和 坂本 正弘 中西 麻美 小坂 康之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現在、熱帯地域で急速に進行する経済発展とグローバリゼーションにより脅かされている、伝統的な植物資源利用を明らかにし、いくつかの植物資源をとりあげ、近年の分布域の変化、遺伝的多様性を明らかにすることを目的として4年間の研究を実施した。臨地調査により、伝統的な焼畑地では、休閑林の生態系が急速に変化しつつあること、ホームガーデンでは、種の多様性はある程度維持されているものの、利用に関する知識が失われつつあることが明らかになった。また、野生のマンゴーの利用は、東南アジア大陸部全域に広がり、今なお、多様な利用が見られるものの、地域差が大きいことが明らかとなった。