- 著者
-
池永 満生
滝本 晃一
石崎 寛治
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 一般研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1989
本研究の目的は、X線で誘発される突然変異が、どのようなDNAの塩基配列の変化によるかを明らかにすることである。このために、プラスミドpHA7上にクロ-ニングされている大腸菌のcAMPレセプタ-蛋白(crp)遺伝子について解析した。X線を照射したpHA7を大腸菌にトランスフェクションし、ラクト-ス発酵能を指標にしてcrp遺伝子に突然変異が生じているクロ-ンを多数分離した。これらの変異株からプラスミドを回収して、crp遺伝子の全塩基配列(627塩基)をサンガ-法で決定した。96個の突然変異クロ-ンについて解析し、92個の塩基配列の変化を検出した。その内訳は、塩基置換型突然変異が74個とフレ-ムシフト突然変異が18個であった。また、74個の塩基置換の中では、GCからATへのtransitionが56個、ATからGCへのtransitionが1個、残りの17個は、transversionであった。更に興味あることは、56個のtransitionの中で、実に41個が同一の場所(706番目のGC塩基対)に生じていたことである。つまり、この位置がX線による突然変異誘発のホットスポットになっていた。X線による損傷はランダムに生じると考えられており、このように明確なホットスポットの存在は過去に報告された例がない。恐らくは、この部分がcAMPレセプタ-蛋白の機能にとって、非常に重要なアミノ酸をコ-ドしているためだと考えられる。X線との比較のために、ニトロソグアニジン(MNNG)で誘発した突然変異についても解析した。検出した42個のDNA塩基配列の内訳は、GCからAT、ATからGCへのtransitionがそれぞれ39個と2個、フレ-ムシフトが1個であった。また、MNNGについてもX線と同じ場所がホットスポットになっていた。