著者
升屋 勇人 岡部 貴美子 神崎 菜摘
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.53, 2011 (Released:2012-02-23)

ラブルベニア目菌類におけるダニ類寄生菌は,同じラブルベニア綱のピキシディオフォラ目との繋がりを考える上で重要であるが、その実体についてはあまり知られていない.ダニ類への寄生が報告されているラブルベニア目は約64種であるが,その多くはRickia属である.一方、その生活史の中でクワガタに完全に便乗した生活を営んでいる便乗ダニの1群、クワガタナカセというグループには,以前からDimeromyces japonicusが知られていた.演者らはダニ類に便乗する菌類の調査の過程で,Dimeromyces属2種と所属不明の便乗菌1種を見出した.Dimeromyces japonicusはコクワガタ体表に生息するクワガタナカセHaitlingeria longilobataの体表に寄生していた.菌体は無色で部分的に褐色,雌個体は3層からなる托を持ち,それぞれの上端から1個の子嚢殻,1本の付属枝を生じ,基部に足を生じる.托の枝は根棒状で,先端に向かって太くなり,約10個の縦1列の細胞から成る.子嚢殻は先端部直下に彎曲した褐色の角状突起を有する.雄個体は長短2本の付属枝と造精器を有する.長い方の付属枝は雌個体のものと類似し,短い付属枝は数個の細胞から成る.Dimeromyces sp.はヒメオオクワガタムシ体表のコウチュウダニ科Canestriniidaeのダニ体表に寄生しており,D. japonicusと形態的に類似しているが,角状突起が短く,付属枝を生じる托が短い点で区別できる.所属不明種はサンゴ樹状に分枝した枝が発達した形態を有し,アルケスツヤクワガタ体表に便乗するCanestrinia spの後部に付着していた.形態的にはラブルベニア目の付属肢に類似するが,他に分類群を特定する手がかりとなる形態は認められず,場合によってはラブルベニア目ですらないかもしれない.いずれにしてもクワガタに便乗するダニ類には様々なラブルベニア目菌類が寄生することが明らかとなった.これらの便乗ダニは未記載種が多く,未だ十分に探索されていないため,同様に潜在的に様々なラブルベニア目菌類が節足動物便乗ダニ上で見つかる可能性が高い.
著者
岡部 貴美子 升屋 勇人 神崎 菜摘
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

昆虫と共生する微小生物の生物多様性は、森林タイプなどの生態系の 多様性と明確な相関関係を示さず、共生生物の種の多様性と相関していた。これは微小生物が パッチ状の生息地を利用するため便乗寄主を利用しており、マクロハビタットの差などの影響 は顕在化しにくいためと考えられた。これらのことから便乗性の微小生物の多様性保全には、 便乗寄主の生息場所の保全が重要であると考えられる。
著者
小坂 肇 佐山 勝彦 牧野 俊一 神崎 菜摘
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

スズメバチセンチュウに寄生されたキイロスズメバチ女王は不妊になることが知られていた。この研究で、スズメバチセンチュウはキイロスズメバチのほかにオオスズメバチとチャイロスズメバチの3種の大型スズメバチに寄生することが明らかになった。また、この線虫は北海道、関東、九州から検出された。さらに、スズメバチセンチュウは次世代のスズメバチ女王の越冬場所で感染することが明らかになった。スズメバチセンチュウは、攻撃性の強いオオスズメバチやキイロスズメバチに寄生すること、日本本土に広く分布している可能性が高いこと、感染場所が明らかになったので人工感染の可能性が開けたこと、を考慮して、この線虫のスズメバチに対する生物的防除素材としての能力は高いと評価した。
著者
浴野 泰甫 吉賀 豊司 竹内 祐子 市原 優 神崎 菜摘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.180, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

線形動物門(線虫)は最も繁栄している動物分類群のひとつであり、林学だけでなく、農学、水産学、医学的にも重要な生物群である。演者らは、線虫が繁栄できた要因のひとつとして虫体を覆うクチクラ層の構造に着目し研究を行っている。本報告では菌食性から植物寄生性、昆虫寄生性及び捕食性が複数回独立に進化しているAphelenchoididae科線虫をモデルとして、生活史の変遷とともにクチクラ微細構造がどのように変化しているか調査した。野外から同科線虫を採取し、塩基配列情報から系統的位置を明らかにするとともに、透過型電子顕微鏡を用いてクチクラ微細構造の観察を行った。その結果、菌食種は互いに類似のクチクラ構造を持っている一方、捕食種(=Seinura sp.)は菌食種の約10倍肥厚した最外層を持っていることが明らかになった。また、捕食行動観察では、Seinura sp.は菌食種に対して高い捕食率を示した一方、同種及び別種の捕食種とはほとんど食い合いをしなかった。よって、Seinura sp.は同種認識によらない共食い回避機構を持っており、肥厚した最外層がその機構の一つである可能性が示された。
著者
神崎 菜摘 竹本 周平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.299-306, 2012

昆虫嗜好性線虫と媒介昆虫との生態的関係の進化に関して, 植物病原性の獲得という観点から考察した。マツノザイセンチュウ近縁種群 (<I>Bursaphelenchus 属 xylophilus </I>グループ) はヒゲナガカミキリ族のカミキリムシ類に便乗して移動分散を行う昆虫便乗性線虫であるが, グループ内では系統的に新しいと考えられるいくつかの種, マツノザイセンチュウ, ニセマツノザイセンチュウ, <I>B. firmae </I>が植物体, 主にマツ属植物に対して, 程度の違いはあるが病原力を有している。一方で, より起源の古い<I>B. doui</I> のように, これらとは非常に近縁でありながらも病原性がないと考えられる種も知られている。このような線虫に関して, 媒介昆虫の生活史特性を比較したところ, 植物病原性のある線虫種を媒介するものは, その生活史において, 樹木の健全な組織に接触する機会が多いということが明らかになった。また, マツノザイセンチュウ近縁種群以外の<I>Bursaphelenchus</I>属線虫でも同様に, 植物病原性を持つ種は媒介昆虫により健全な組織に接する機会が多いことが示唆されている。これらのことから, このグループの線虫の病原性は, 健全な植物体に侵入し, そこで生存する能力に由来し, 媒介昆虫の生活史特性に依存して選択されると考えられた。