著者
立花 宏文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.145-149, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

(-)-Epigallocatechin-3-gallate(EGCG)は他の茶カテキンと比較して多彩かつ強力な生理活性を示すとともに,茶以外の植物には見出されていないことから緑茶の機能性を特徴づける成分である.ここでは,EGCGの生理活性を仲介する細胞膜上の受容体(緑茶カテキン受容体)として筆者らが同定した67 kDaラミニンレセプター(67LR)を介した作用とその発現機序(緑茶カテキンシグナリング)について紹介する.67LRはEGCG受容体として,EGCGの細胞増殖抑制作用,多発性骨髄腫細胞に対するアポトーシス誘導作用,好塩基球におけるヒスタミン放出阻害作用や高親和性IgE受容体発現低下作用を仲介する.EGCGによる細胞増殖抑制作用には,ミオシン軽鎖のリン酸化レベルの低下とそれを触媒するミオシン軽鎖ホスファターゼの活性調節サブユニットMYPT1の活性化が関与すること,また,こうした作用は67LRのノックダウンにより阻害されることから,67LRからMYPT1の活性化につながるシグナル伝達経路の存在が示唆された.そこで本経路をつなぐ分子を検討し,eukaryotic elongation factor 1 alpha(eEF1A)を同定した.一方,67LR,eEF1A,MYPT1の各分子をそれぞれノックダウンしたマウスメラノーマ細胞を移植した全てのマウス腫瘍モデルにおいて,経口投与されたEGCGによる腫瘍成長抑制作用は消失した.以上の結果から,これらの分子がEGCGの抗がん活性を伝達する分子として働くことが示された.
著者
上田 京子 塚谷 忠之 村山 加奈子 倉田 有希江 竹田 絵理 大塚 崇文 高井 美佳 宮崎 義之 立花 宏文 山田 耕路
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.242-249, 2015-05-15 (Released:2015-06-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

本研究ではブロッコリー全草を6つの部位に分け,各部位の栄養成分および細胞機能への影響を明らかにすることを目的として,ビタミンC,S-メチルメチオニン,総ポリフェノール,乳がん細胞増殖抑制および免疫調節機能について,ブロッコリーの各部位の比較検討を行った.花蕾 : ビタミンC並びにS-メチルメチオニンを多く含有し,ヒスタミン放出抑制能が高かった.茎,主軸下部 : 可食部以外である茎,主軸下部は,ビタミンC,S-メチルメチオニン,ポリフェノールはほぼ同等量含まれていた.また,花蕾と比較すると抗体産生増強能を有していた.葉軸 : 茎,主軸下部と同等のビタミンC,S-メチルメチオニン,ポリフェノールを含んでいた.ヒスタミン放出抑制,IgA産生の増強,IgE産生低下の傾向を示した.葉 : ビタミンCは花蕾の18%,S-メチルメチオニンは花蕾の29%であったが,ポリフェノール量は花蕾の3.1倍含んでおり,ヒスタミン放出抑制,ロイコトリエン放出抑制,IgE産生抑制の傾向が見られ,花蕾と比較すると抗アレルギー素材としての特徴を有していた.根 : ビタミンCは花蕾の12%,S-メチルメチオニンは花蕾の25%,ポリフェノールは花蕾の83%含まれており,特にMCF-7のがん細胞増殖抑制能を有していた.以上のように,ブロッコリーの部位別に栄養,機能が分布していることを明らかにした.その他の部位は可食部である花蕾と栄養·機能の特徴が異なっており,これまでに利用されてきた部位には存在しない生理活性物質が未利用部位に存在する可能性がある.
著者
宮﨑 義之 倉田 有希江 古賀 裕章 山口 智 立花 宏文 山田 耕路
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.63-69, 2016-02-15 (Released:2016-03-29)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

本研究では,食酢の体調調節機能の解明を目的として,各種果実酢のヒスタミン放出抑制活性について検討した.まず,山ブドウ,ハスカップ,ブルーベリー,ザクロを原料とする4種類の果実酢がラット好塩基球様白血病細胞株RBL-2H3のヒスタミン放出に及ぼす影響を検討したところ,各果実酢がヒスタミン放出抑制活性を有することが明らかとなり,特にザクロ酢で極めて強い活性が認められた.そこで,Diaion HP20を用いてザクロ酢中の生理活性成分のクロマト分離を試みた結果,50% EtOH溶出画分に強いヒスタミン放出抑制活性が認められた.さらに,本50% EtOH溶出画分を液-液抽出によって分画し,ザクロ酢には水溶性の異なる複数のヒスタミン放出抑制成分が存在することを明らかにした.また,各画分のヒスタミン放出抑制活性がPVPPで処理することによってほぼ完全に消失したことから,ポリフェノール化合物が主要な活性成分であることが示唆された.これらの結果から,ザクロ酢にはヒスタミン放出抑制に寄与する複数のポリフェノール成分が存在し,他の食酢と比較して強い抗アレルギー作用を発揮する可能性があることが示唆された.
著者
山本 万里 佐野 満昭 松田 奈帆美 宮瀬 敏男 川本 恵子 鈴木 直子 吉村 昌恭 立花 宏文 袴田 勝弘
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.64-68, 2001-01-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
12
被引用文献数
24 26

本縞では,茶葉中の抗アレルギー作用が期待されるカテキンであるエピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(EGCG3”Me)含量の品種,摘採期,製造法による変動を検討した.EGCG3”Meは,品種別では,'べにほまれ'およびその後代である'べにふうき','べにふじ'に多く含まれ,二番茶以降に増加することがわかった.また,製造法では,緑茶(不発酵茶),包種茶(軽発酵茶)では大きな差異はなかったが,紅茶(発酵茶)にすると消失した.これらにより,EGCG3”Meを活用するためには,'べにほまれ','べにふうき','べにふじ'の二番茶以降の茶葉を使用し,緑茶もしくは包種茶に製造する必要があることが示唆された.
著者
上田 京子 山田 耕路 塚谷 忠之 村山 加奈子 倉田 有希江 竹田 絵理 大塚 崇文 高井 美佳 宮崎 義之 立花 宏文
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.242-249, 2015
被引用文献数
2

本研究ではブロッコリー全草を6つの部位に分け,各部位の栄養成分および細胞機能への影響を明らかにすることを目的として,ビタミンC,<i>S</i>-メチルメチオニン,総ポリフェノール,乳がん細胞増殖抑制および免疫調節機能について,ブロッコリーの各部位の比較検討を行った.<BR>花蕾 : ビタミンC並びに<i>S</i>-メチルメチオニンを多く含有し,ヒスタミン放出抑制能が高かった.<BR>茎,主軸下部 : 可食部以外である茎,主軸下部は,ビタミンC,<i>S</i>-メチルメチオニン,ポリフェノールはほぼ同等量含まれていた.また,花蕾と比較すると抗体産生増強能を有していた.<BR>葉軸 : 茎,主軸下部と同等のビタミンC,<i>S</i>-メチルメチオニン,ポリフェノールを含んでいた.ヒスタミン放出抑制,IgA産生の増強,IgE産生低下の傾向を示した.<BR>葉 : ビタミンCは花蕾の18%,<i>S</i>-メチルメチオニンは花蕾の29%であったが,ポリフェノール量は花蕾の3.1倍含んでおり,ヒスタミン放出抑制,ロイコトリエン放出抑制,IgE産生抑制の傾向が見られ,花蕾と比較すると抗アレルギー素材としての特徴を有していた.<BR>根 : ビタミンCは花蕾の12%,<i>S</i>-メチルメチオニンは花蕾の25%,ポリフェノールは花蕾の83%含まれており,特にMCF-7のがん細胞増殖抑制能を有していた.<BR>以上のように,ブロッコリーの部位別に栄養,機能が分布していることを明らかにした.その他の部位は可食部である花蕾と栄養·機能の特徴が異なっており,これまでに利用されてきた部位には存在しない生理活性物質が未利用部位に存在する可能性がある.
著者
立花 宏文
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ヒト抗体産生細胞がカフェインや植物レクチンの刺激により、本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現する軽鎖遺伝子の発現シフト現象(Light chain shifting)を見出した。Light chain shiftingを起こした細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、Light chain shiftingの自己抗体産生機構としての可能性について検討を行った。自己免疫病では、その発症に抗DNA抗体や抗赤血球抗体などの自己抗体の産生が直接的な役割を果たしているが、その産生機構はほとんど明らかにされていない。Light chain shiftingの自己抗体の産生への関与が明らかになれば、その誘導機構を解明することで自己抗体の産生を伴うことの多い自己免疫疾患の原因究明につながる可能性がある。そこで、Light chain shiftingによって発現した抗体の性質(自己抗原との反応性や軽鎖遺伝子の構造)を明らかにするため、Light chain shiftingを起こし軽鎖遺伝子の発現を変化させた細胞を多数クローニングして、それぞれの細胞より抗体遺伝子を調製し、その構造解析を行った。その結果、自己反応性を示した抗体の軽鎖の多くは、その可変領域に組み換えの際に生じたN領域を有していることが明らかとなった。このN領域は、重鎖の可変領域にのみ存在するとされ、デオキシヌクレオチド添加酵素(TdT)の働きにより形成される。実際、Light chain shifting誘導性の細胞では、TdTの発現が見られることを確認した。また、自己反応性を有する抗体軽鎖は、特定のV遺伝子を利用した遺伝子組み換えによるものであることが明らかとなった。Light chain shiftingは、従来よりいわれていた抗体遺伝子の組み換え誘導条件であるRAG-1,2の発現と胚型転写の誘導という二つの条件では誘導されず、その誘導には第三の因子が関与していることが明らかになった。
著者
立花 宏文
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.205-210, 2019 (Released:2019-10-28)
参考文献数
32

緑茶の多彩な生理作用 (抗がん作用, 抗アレルギー作用, 血圧降下作用, 脳血管障害予防作用, コレステロール低下作用など) にはエピガロカテキンガレート (EGCG), エピカテキンガレート, エピガロカテキン, エピカテキンなどのカテキン類が関与している。特にEGCGは緑茶に特有な成分であり, 緑茶の生理作用に深く関係していると考えられている。著者らはEGCGの細胞膜受容体として67-kDaラミニンレセプター (67LR) を同定した。また, EGCGの抗がん作用, 抗アレルギー作用, 抗炎症作用などの生理作用は67LR依存的であること, EGCGの67LRを介した生理作用の発現過程 (EGCGセンシング) にMYPT1, eEF1A, PP2A, Akt, eNOS, sGC, PKCδ, 酸性スフィンゴミエリナーゼ, スフィンゴシンキナーゼ1, cGMPといった分子が関与することを明らかにした。一方, 緑茶と併用摂取する食品因子がEGCGセンシングに作用することでEGCGの生理作用に影響を及ぼすことを示した。