著者
紅野 謙介 藤森 清 関 礼子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、近代日本において女性/男性の差異と境界が文学言説においていかに構成されたかを探る動態的なジェンダー研究を目的としてスタートし、そこでわたしたちは共時的な観測をおこなうとともに通時的な観点からの考察を行ってきた。最終年度の研究成果は以下のようになっている。藤森清は、1910年前後の文芸雑誌や文芸記事を精査するかたわら、男性作家が女性を表象する際のバイアス、また男性ジェンダーの構成のありようを探り、具体的には夏目漱石や森鴎外の小説を分析することを通して同性愛嫌悪と女性嫌悪の痕跡を見いだした。また関礼子は、1890年から1910年にかけての女性表現者の文体を調査するかたわら、草創期『青鞜』を細かく分析することを通して、擬古文から言文一致にいたる文体にあらわれた「ジェンダーの闘争」を摘出した。紅野謙介は、1920年前後の雑誌メディアを調査し、なかでも与謝野晶子の批評活動をとらえ、その批評にジェンダーの枠組みを越える可能性を発見するとともに、菊池寛とは異なる「文学の社会化」のコースを見いだした。また本研究の研究協力者である金井景子によって、教科書教材に見られるジェンダー偏差が指摘され、ジェンダー規範からの解放を目指す教育の方法論が提起された。補助金の支出に際しては、ひきつづき図書資料の購入や各種図書館・文学館での貴重資料のコピーのデータ整理を行った。また数回にわたり、収集と整理の結果を報告する研究会を都内で開催した。研究会にはほかに常時10入程度の研究者の参加があった。3年間の研究をへて、近代文学研究とジェンダー研究のクロスする領域がはっきりと見えてきた。これらの成果をふまえ、2001年5月には日本近代文学会春季大会において「ヘテロセクシズムの機構」と題されたシンポジウムが開催され、藤森清が司会を、金井景子が発表を担当し、ほかにも本研究会の参加メンバーが運営に関わった。その内容は岩波書店から刊行された「文学」2002年2月号に掲載されている。
著者
松嶋 慎太郎 森井 マスミ 吉岡 卓 紅野 謙介 谷 聖一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.8, pp.1-8, 2008-01-25

データベース化された作品や関連資料と地理情報とを関連付けることで,作品を取り巻く諸々の時間と空間を越えた重層的理解を補助できる可能性がある.Google Maps APIを利用して,喜多村緑郎日記データベースを活用するツールを試作した.このツールは,日記に記されたテキスト文章をGoogle Maps上に表示することで体感的にも視覚的にも効果的なインタフェイスを備えており,個人の過去の日記を現在の地図上に表示する事で,時空間を横断できる情報処理を期待できる.また,Google Maps上の一部分に着目させたり,アイコンを表示させたりするための技術を組み込むことで,デジタルアーカイブ作成の煩雑さを解消させる効果が期待される.Ajax is a new technology based on asynchronous communication between a client web browser and a back-end server, allowing web applications to request data without web application to request and receive data ever reloading the page. Google Maps is a popular application that uses Ajax. We designed and implemented the Ajax web application which supports to discover and analyze spatiotemporal structure of a sequence of sentences. As the target of this analysis, we consider Kitamura Rokuro Diary. His diary is a typical example that prescribes the spatiotemporal relations of affairs. Our system includes visually-enhanced interface control module; general user can visually check the data of the geophysical makeup of descriptions of Kitamura Rokuro Diary. And also, we show our system have many advantages to make a digital library.
著者
紅野 謙介 小森 陽一
出版者
岩波書店
雑誌
世界 (ISSN:05824532)
巻号頁・発行日
no.924, pp.220-227, 2019-09
著者
紅野 謙介 GO Young Ran
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

昨年に引き続き、日本と韓国の国会図書館に所蔵されているSCAPの朝鮮と日本での検閲資料を調べた。その成果の一部を韓国と日本の全国学会で発表した。韓国日語日文学会 夏季国際学術大会(韓国、国立全北大学、2005・6・18)で、「占領とマイノリティをめぐる言説編成-『新日本文学』における「眼の色」論争」について発表した。韓国では、東アジアの冷戦構図を露呈させて朝鮮戦争と五〇年問題の渦の中で、SCAP(アメリカ)への対抗を共通の基盤として持っていた共闘の言説について、歴史的な過程を見すえることなく、抵抗する主体・共闘する主体のみを浮上させることの危険性について議論した。本研究は、日本と韓国の研究の死角になっていた「在日の朝鮮人」、特に金達寿・許南麒ら朝鮮人文学者は、日米講和条約への反対運動で見いだされた被圧迫民族としての日本人の表象を模索する過程の中で誕生したことを明らかにした。また、SCAPの検閲のモデルだといわれる日本帝国の検閲システムと文学の関係について調べた。その中でも、1930年前後の植民地朝鮮のハングルの書物が、日本帝国の支配地域別の検閲制度の差異を利用し、上海や東京などで出版され朝鮮へ輸入されていったことがわかった。その代表的な例として、中野重治「雨の降る品川駅」(『改造』一九二九・二)と、その朝鮮語訳が掲載された雑誌『無産者』(同年五月、東京で発行されたハングル雑誌)に注目した。この調査の成果は、日本近代文学会秋季大会(國學院大學、2005・10・23)「フィクショナルな禁止-ジェンダー・セクシュアリティ・民族表象をめぐる抵抗と共犯」というパネルで「戦略としての「朝鮮」表象」というタイトルで発表した。
著者
松村 友視 五味渕 典嗣 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 高 榮蘭 小向 和誠 黒田 俊太郎 和泉 司 三浦 卓 大澤 聡 尾崎 名津子 柴野 京子 高島 健一郎 戸家 誠
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

慶應義塾大学三田メディアセンターに寄贈された改造社関係資料の整理・調査を行い、同資料のデジタル・アーカイヴ化に貢献した。また、近現代の日本文学・中国文学・メディア史・思想史を専攻する研究者による共同研究プロジェクトを立ち上げ、改造社にかかわる実証的な研究を行う他、20世紀の前半期に日本語の雑誌や書籍が、列島の「外」において、どのように受容され、どんな作用を及ぼしていたかを明らかにした。
著者
紅野 謙介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、財団法人日本近代文学館に所蔵されている中里介山文庫1万点について書誌調査を行ない、データベースを作り上げた。調査の過程で、これまでかえりみられなかった介山文庫の重要性が再認識された。文庫には「近世綺聞」「大和名所図会」「歴史綱鑑」「農民蜂起譚」「本朝医人伝」「武道極意」「尺八通解」など、地誌、名所図会、史書、風俗、医学、剣術、音楽をめぐるさまざまな本、くわえて江戸末期から明治初期に出された合巻、黄表紙、漢籍などの和書、エンサイクロペディストらしい洋書の百科事典類など、文学ならざる書物であふれていた。しかも、かなり独自に手を加えていて、表紙や奥付の破損したものも、題簽の欠けた和本もある。何冊かを合本したものもある。これらの膨大な雑書の宇宙にとりまかれながら、介山は『大菩薩峠』を書き続けたのである。介山文庫自体は雑多なコレクションではあるが、それだけに在野の民間知識人の知のネットワークが浮かび上がってくる。また蔵書の一部に介山の直筆と推定される書き込みも多く発見され、『大菩薩峠』という大長編小説の創作の秘密に迫ることが出来た。また介山は『大菩薩峠』の出版に関しても、独自な私家版作りを行なった。印刷や出版に関する介山独特の哲学は、小説内でも挿話として盛り込まれ、介山文庫の書物研究が同時に介山自身の書物作りと重なり、ひとつのループをなしていることも明らかになった。平成15年4月に山梨県立図書館で開催された「中里介山『大菩薩峠』展」では、介山文庫から数十点が展示され、NHKハイビジョンで放映された『大菩薩峠 果てなき旅の物語』というドキュメンタリー番組でも、介山文庫への言及がなされた。